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第163話 「見た目」



今年初めての台風が来てまたまた大雨で、昨年の被害箇所がまた決壊する。「風が吹くと桶屋が儲かる」人と、嘆く人、悲喜こもごもで一見全く関係ないように思えるものが、良く々覗いて見ると、繋がっている。

そのあと追い打ちをかけるようにまた雨々々。で、久しぶりに勇んで暗いうちに出かける。もちろんきのこ採りである。
途中、一台また一台と道路わきに車がある。皆この雨後を待っていたのだ。カラマツの森でキノコを探す。キノコ採りの踏み跡か獣道なのか色づきはじめた下草を踏み分る跡が右往左往している。
カラン~ン、カラン~ンと森中に響くクマよけの鈴音がする。「あるある。ここに白いキノコがたくさんあるよ」「それは…毒だ!」家族か仲間なのか数人のやり取りする話し声が林間から洩れてきた。 “これはどこかで出会うな”と、思っているとやがて鈴の音は遠のいた。
〈ここはひとが入っている〉。場所を変えようと戻りかけたとき、太いカラマツの根元の藪の中にヌメヌメと光るものを見た。あれっ!ヤブをかき分け覗くと、間違いなくハナイグチ。昨夜出たばかりの汚れのない輝かしい姿を見つけて、なんだあるじゃん。
ひとつ見つかるとその周囲に菌が広がっていて結構採れることが多い。大雨で、枯れかけた下草も背筋を伸ばしピンとしたなかを丹念にかき分けていくと、あった!!ふたつ三つとハナイグチがピカピカと輝いている。写真を撮り終えると、丁寧に鋏で根元を切って籠に入れる。また少し歩くと、くすんだこげ茶のヌメリイグチが三本寄り添っていた。そしてその先に目をやるとシロヌメリイグチの群生だ。シロヌメリイグチは見た目が薄汚れ成長に伴ってひどく汚らしく、切り取ると崩れやすい。先行者が蹴飛ばしたのか、ひっくり返ってかさが崩れているものもある。
大きくなっても硬く、ぴかぴかと輝く薄茶色の傘をひっくり返すと、裏は鮮やかなレモン色をして見た目もまことに美しいハナイグチ、仲間であるヌメリイグチやシロヌメリイグチには目もくれない人がほとんど。味はどれも同じでスパゲッティ、汁の実とどんな料理でもすごぉく旨い。だから見た目での判断は禁物だ。

その夜、イグチ大好きの女房は、「パスタが良い。パスタにしよう」と。
キノコたっぷりの味噌汁とパスタを「旨いなー」「ホント美味しいね」とふたりで食べていてふと、女房の容姿を見る。と、若くキラキラと輝いていたころの面影はかなり薄い。が、人間も見た目で判断してはダメ…と、心に言い聞かせた。

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