しんくうかん

この地とともに。

第140話 「なすがまま」

2017-02-13 17:43:38 | 日記


小便器の前に立ち、みつおの詩を見ている。題目は「道」。
何十年も前から目の前の壁にかけてあって、真正面にあるから小便の度に目に入る。善いことを書いているな―とは思うけど、いまだに思い出すのはタイトルだけだ。

「今夜は少し勢いがあるぞ」と思っていると、下腹の右側にピリッとした痛みが走る。間もなくして「ペチッ」、かすかな音。小便器を見ると、白い陶器に黒い小さな四角張った粒が見えた。
<もしや…こりゃあ流してはならない!>と、すかさず、むすこを便器左の壁に向け小便を出しきってしゃがんでみると、黒にちかいこげ茶色で、僅か、濁ったべっ甲色の模様になっている。人差し指で抑え、指先についてきたのをつまむと硬いあの石の感触だ。そのまま水をかけあらい、もう一度目を凝らすと、縦横二㍉ほどの石だった。
これまでも何度か石は出た。何日も鈍痛がつづきひどい時は、何時間も激痛に苦しみ、ようやく出た石はギザギザの塊、それが尿管を通ってくるのだから痛いはずである。しかし今回は、あの激しい痛みも鈍痛もなく、四角張った石の表面はむしろつるつるしている。やっぱり間違いない。あの石だ!!
一年前のこと、「腎臓に十個もの石がある」とのことで入院。そして手術は4時間もベッドに縛り付けられ、腎臓内で石を砕き強制的に掻き出した。残ったかけらも翌日には出る。が、レントゲンには、大きく肥大した前立腺のすぐ横、膀胱の底にへばりついた小さな石が写っている。
退院ご、通院の度にレントゲンを撮るも同じ位置から動く気配がない。担当医師は、「とにかく水を飲んで―」「小便のとき上下に身体を動かせ」と―。
それでも頑と微動もしない石、先生はだんだん半ばやけになったのか、
「いずれやらなければならない。前立腺を切り取るか!」。「またぁー」と、渋るわたし。
結局院長の「少し様子を見るか」で、落ち着いたのは年が明けた1月。もしその石だとすると、一年かけて娑婆に出てきたことになる。そう思うと少し感動し、居間の蛍光灯に透かしじっと見つめた。そして、眼薬が入っていたビニール袋に入れ財布のポケットにしまい込んだ。
今年は、かつての十勝らしい真冬日が記録的に続き、本当に寒かった。しかし日中の陽射しには、やわらかい温かさがこもってきた感じがする。まもなくフキノトウが日当たりのいい堤防に顔を出すだろう。
夜は必ず明けるし、ほっといても周りの雪はどんどん溶けて春となる。また、「なすがまま」に生きていこう。

それにしても、以前小便器のうえには屋根裏の段ボールのなかで見つけた、長男の小学生時代の工作、「銅板レリーフの馬」をかけておいたはず。
 “みつおの詩”に、誰が、いつ変えたのだろう!? わたしは“馬”の方が良いのに。

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 第139話 「骨抜き」 | トップ | 第141話 「地獄から天国」 »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。