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キリシタン用語(3) フライ、フライレ、イルマン、サセルドーテ

2017-08-21 18:29:56 | キリシタン用語
 パドレとバテレンの使い分けについての補足。
 映画『沈黙 -Silence- 』では日本人キリシタンがポルトガル人宣教師(神父)に「バテレン」ではなく、「パドレ」と呼びかけていた。
 ポルトガル語 padre がなまったものが「バテレン」で、「バテレン」も本来は「神父」の意味であるが、「キリスト教」、「キリスト教徒」の意味にもなった。筆者のイメージでは「バテレン」は神父ではなく、キリスト教(徒)を指すような感覚である。それゆえ、もし、日本人キリシタンが神父を「バテレン」と呼ぶと違和感がある。実際のところは、神父はキリシタンたちから映画の場面のように、「バテレン」ではなく「パドレ」と呼ばれていたものと推測する。
 
 本題に入る。サンディエゴ・パドレス(San Diego Padres)のマスコット・キャラクターは Swinging Friar である。friar とは「(カトリックの)托鉢修道士」という意味で、「神父」ではない。神父も修道士もカトリック以外の者にとっては、似たようなものかもしれないが、やっぱり違うのである。
 friar はラテン語 frater「兄弟」に由来する(fraternity は関連語)。friar はスペイン語では fraile という。
 「~師」というような場合は、英語では Fra、スペイン語では Fray となる。ポルトガル語はスペイン語と若干違うようだが、キリシタン用語「フライレ」、「フライ」として日本語に入ってきた。
 修道士に呼びかけるとき、英語では brother というが、これは役職につかない平の修道士に限られる。brother に相当するのが hermano(エルマーノ)で、英語同様、役職についていない修道士である。手元の辞書の hermano の項の説明では「司祭の資格を持たない修道士」と書かれている(コスタリカでは hermano は「幽霊」という意味にも用いられると書いてあるが、女房殿の話では聞いたことがないそうである)。
 スペイン語の hermano はポルトガル語では irmão というが、これがキリシタン用語「イルマン」になった。このことばは映画『沈黙 - Silence -』でも出てきたと思う。
 英語の friar もスペイン語の fraile も男に限られるようだが、女でも神に仕えたい人がいる。friar や fraile に相当する女性托鉢修道士がいるのかどうかよくわからないが、シスター(sister)という言葉が修道女の意味で使われている。
 sister はスペイン語では hermana (エルマーナ)で、hermano の女性形である。ポルトガル語では irmão の女性形 irmã で、男性形と発音はほとんど同じはずである。
 日本にやってきた宣教師はみんな男性だったと思う。女性宣教師というものは聞いたことがない。キリシタン用語の「イルマン」はポルトガル語 irmão(兄弟の意)からという説明しか見当たらないのも当然だろう。
 スペイン語の「神父」padre というのは sacerdote「司祭」に対する敬称だそうである。sacerdote はポルトガル語でも同形で、これがキリシタン用語「サセルドーテ」になった(手元の辞書の説明)。
 カトリック教会では聖職者は男に限られており、女性は「神父」padre にはなれない。それでは、マザー・テレサのマザー(mother、西 madre)は何なんだということになるが、スペイン語の madre は修道女に対する敬称なんだとか。英語の mother は「女子修道院長」のことらしい(手元の辞書)。
 何にしても、マザー・テレサも若いころはシスター(sister、西 hermana)と呼ばれていたのである。
 前回、紹介したが、スペイン語の madre には《北米》「セクシーな女」という意味もある。Teresa という女性名もありふれているので、セクシーな Teresa さんはさぞかし、Madre Teresa と呼ばれていることだろう。

 ところで、スペイン語の親族名称は簡単に覚えられる(ポルトガル語も似たようなもののようである)。
 英語では father-mother、grandfather-grandmother, son-daughter, uncle-aunt, nephew-niece のように男女のペアで覚えるが、スペイン語では次のようになる
 padre-madre(父母)、abuelo-abuela(祖父母)、hijo-hija(息子、娘)、tío- tía(おじ、おば)、sobrino-sobrina(おい、めい)
 父母以外は男性形さえ覚えておけばよい。親族名称が複雑なのは中国語だが、煩雑になるので、ここでは述べない(「中国親族、親戚は意外と複雑?関係性一覧図。親族」参照)。韓国語も中国語と同様、難しい。これらに比べれば、スペイン語は天国 (paraíso、キリシタン用語では「パライソ」、「パライゾ」、「ハライソ」)である。
 

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