どんぴ帳

チョモランマな内容

疾病王(その6)

2010-06-22 03:32:06 | 長七郎治療日記

 一週間後、今度は内科の医師の診察を受ける。

 内科の若い男性医師は私の話を一通り聴くと、瞼の裏側を見たり、喉を覗き込んだり、首を触診したりした。
「それで、二月から症状が出ているんですよね」
「そうですね、だんだん酷くなって、今じゃ駐車場からここまで歩いてくるのもかなりの苦痛を感じますね」
「ちょっと足を触らせて下さい」
 私は靴下を脱ぐと、パンパンに張っているふくらはぎを見せた。
「あ、これは凄いですねぇ…、筋肉は硬いし、特に足の甲はかなり浮腫んでいますね。腕とかはどうですか?」
「同じですね、ちょっと上げるだけで筋肉痛みたいな痛みが走ります」
 医師は腕も触って頷く。
「それから手の親指の付け根も腫れてるんですよ、昔はすぐに収まったんですけど、全然腫れが引かないんですよ」
「確かに腫れていますね。ここは昔からよく腫れますか?」
「ええ、手は高校生の頃からですね」
「ふーん…」
 医師は考え込む。
「ちょっとイイですか?」
 医師は私の体のあちこちを指でやや力強く押し始めた。
「これは痛いですか?」
「いえ」
「これはどうですか?」
「いいえ」
「ここは?」
「痛くないです」
「そうですか…」
 医師はまた少し考える。
 沈黙の時間を埋めるために、私は独りで話し始める。
「最初は身体がだるいのは弛んでるだけだと思って、喝を入れるために中国で現場仕事をやったんですけど、酷い目に遭いましたよ」
 私は笑いながら言った。
「ちょっと失礼してもイイですか?」
 医師はそう言うとPHSを手に取り、誰かと通話を始めた。
「ええ、ええ、そうなんです。それでご自分では弛んでいると思われたらしく、喝を入れるために中国で激しい肉体労働をしたら大変な目に遭われたそうです」
 どうやら私のことらしい。
「そこまで忠実に伝えなくてもイイのに…」
 と思い、私は苦笑いをした。
 PHSを切ると、医師はパソコンに何かを入力し、私に向き合った。
「今日も血液検査をしたいんですけどよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
「それから胸部レントゲンも撮影します」
「分かりました」
 診察室を出て採血室に向かい血を抜かれ、次に放射線科に行って軽く放射線を浴びる。
「飯でも食うか…」
 採血の結果が出るには最低一時間は必要だ。幸い大きな病院なので、中に喫茶室があり、食事メニューも充実している。うどんを食べてボーっとし、退屈な時間をやり過ごした。

 一時間半後、私は再び医師の前に座っていた。
「木田さん、検査結果が出ました」
「はい…」
 何だか微妙に緊張する。
「まず、胸部レントゲンは何の異常もありませんでした」
「はい」
「それで、この前の診察では『膠原病』の疑いがあると言われていましたよね」
「ええ」
「今日の検査結果で判ったのですが、木田さん症状は『慢性甲状腺炎』だと思われます」
「んーとぉ、慢性的に甲状腺が炎症を起こしているって意味ですか?」
「そうですね、それで木田さんの場合は甲状腺の機能が低下している状態なんです」
「機能低下ですか」
「正確には『甲状腺機能低下症』という症状で、通称は『橋本病』と呼ばれています」
「橋本病?確か日本人医師が発見して名前が付いた病気じゃなかったか?」
 そう思ったのと同時に、なぜか夜九時からの二時間ドラマに頻繁に登場する男優の顔が、頭の中に浮かんで来た。
「違う、それは『橋爪功』だ…」

 昔から私は深刻な話の時ほど、なぜか脳内に意味不明なイメージが湧いてくるのが大きな問題だった(笑) 

ジャンル:
コラム
キーワード
甲状腺機能低下症 慢性甲状腺炎 ふくらはぎ
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