(図版1)
artmight.com *実物は全体的にもっと薄い色彩で構成されています。(参考:Google Arts&Culture)
[タイトル] ロッテルダム、蒸気
(仏) / Rotterdam, Les fumées
(英) / Steamboats, Rotterdam
[作者] ポール・シニャック / Paul SIGNAC [1863-1935, フランス]
[年代] 1906年
[技法・材質] 油彩・カンヴァス
[サイズ(cm)] 73.0×92.0
[作品番号] Cachin 436
[所蔵] 島根県立美術館 [島根・松江]
[見た場所] 「新印象派―光と色のドラマ Neo-Impressionism, from Light to Color」@あべのハルカス美術館 (2014.10) / @東京都美術館 (2015.2)
artmight.com *実物は全体的にもっと薄い色彩で構成されています。(参考:Google Arts&Culture)
[タイトル] ロッテルダム、蒸気
(仏) / Rotterdam, Les fumées
(英) / Steamboats, Rotterdam
[作者] ポール・シニャック / Paul SIGNAC [1863-1935, フランス]
[年代] 1906年
[技法・材質] 油彩・カンヴァス
[サイズ(cm)] 73.0×92.0
[作品番号] Cachin 436
[所蔵] 島根県立美術館 [島根・松江]
[見た場所] 「新印象派―光と色のドラマ Neo-Impressionism, from Light to Color」@あべのハルカス美術館 (2014.10) / @東京都美術館 (2015.2)
2014年10月、大阪・あべのハルカス美術館。「新印象派 光と色のドラマ」にこの作品が展示されていた。以前から一度みてみたかったもの。ただ、実物を目の当たりにして、いきなり目に飛び込んくる「躍動感」に、ゾクッとした。
グワッと、鮮やかさが迫ってくる。ここまで「動き」のある”シニャック”をこれまで見たことがない。上記の画像データでは、全体的にブルーが濃く出てしまっている。。しかし、実物の色彩は、もう少し薄いブルーで構成されていて、白い蒸気の”もくもく”感が、よりよく伝わる。
点描といえば、シニャックの親しい友人で点描画の開拓者、ジョルジュ・スーラがまず思い浮かぶ。彼の点描作品は、時間が止まって見える。そういった印象が強い。まだ、幅広く作品を見ることができたわけでなはないが、シニャックの作品もその「止まった」傾向の作品が少なからずあるように思う。
それらの点描作品は、パレットでなく、見る人間の目で色彩が混ざり合う。対象物を「点」で描き、補色を用いて色彩の調和を図ろうとすればするほど、科学的に計算された、静的な雰囲気を持つ。そんな印象を受ける。
それが、画期的で魅力的な試みなことであることは周知の事実。しかし、たとえば、カミーユ・ピサロが新印象派から距離多く一つの理由になったのは、そういった静的で、感情がなくなってしまい、どこかレアリスムのような雰囲気があるからではないかとと思われる。
しかし、この≪ロッテルダム、蒸気≫は、間違いなく「動いている」。
1891年に、スーラが亡くなって、15年。シニャックの点描は、従来のイメージをやや変えるものに変化しているといえるのかもしれない。「点」に太さを持たせ、水面の波、蒸気の煙を通じて、「動き」を表現している。それが、全体を通じて、ロッテルダムの街を活気づかせている。≪ロッテルダム、蒸気≫には、情景がある。たくさんの”蒸気”を通じて、本来描かれていない人々の営みが見えてくるようだ。
ここまで大きな動きのあるものは非常に珍しいのかもしれない。シニャックの姿勢がそうさせたのか、ロッテルダムという街がそうさせたのか。≪ロッテルダム、蒸気≫が示すものは、スーラからひとつ点描 (DIVISIONISM, POINITISM) を発展させた姿のひとつと言えるのかもしれない。
シニャックの油彩作品総目録[1](モノクロ図版)で確認する限り、1900年付近から、シニャックは蒸気を描くようになり、部分的に興味があった様にはうかがえる。それらの実物にあたっていないので、はっきりとは言えないが、積極的に動きのある作品という印象はない。それにしても、なぜ、この≪ロッテルダム、蒸気≫で、いきなり「動き」が出てきたのだろう。
(図版2)
[タイトル] ウォータールー橋、曇り
(仏) / Waterloo Bridge, temps gris
(英) / Waterloo Bridge, Gray Day
[作者] クロード・モネ / Claude MONET [1840-1926, フランス]
[年代] 1903年
[技法・材質] 油彩・カンヴァス
[サイズ(cm)] 65.1×100.0
[作品番号] Wildenstein 1569
[所蔵] ワシントン・ナショナルギャラリー [アメリカ合衆国・ワシントンDC]
© National Gallery of Art, Washington DC., Chester Dale Collection
[タイトル] ウォータールー橋、曇り
(仏) / Waterloo Bridge, temps gris
(英) / Waterloo Bridge, Gray Day
[作者] クロード・モネ / Claude MONET [1840-1926, フランス]
[年代] 1903年
[技法・材質] 油彩・カンヴァス
[サイズ(cm)] 65.1×100.0
[作品番号] Wildenstein 1569
[所蔵] ワシントン・ナショナルギャラリー [アメリカ合衆国・ワシントンDC]
© National Gallery of Art, Washington DC., Chester Dale Collection
1880年16歳のシニャックは、雑誌『ラ・ヴィ・モデルヌ』主催のクロード・モネの個展を見て、画家を志したといわれている。32年後の1912年。モネのヴェネツィア滞在期作の展覧会「ヴェネツィア」がベルネーム・ジュヌ画廊で開催された。それを見たシニャックはモネ自身に称賛する内容の書簡を送っている[3]こともよく知られている。そのことからも、シニャックの画業のスタートから、1912年までの32年間。モネの作品が、シニャックの興味の対象のひとつであり、決して小さな存在でなかったことは、あったことは想像できる。
そのことから、この≪ロッテルダム、蒸気≫にしても、「川」と「橋」、船の「蒸気」、といったキーワードはモネが描いた、ロンドンのウォータールー橋、チャーリングクロス橋を連想させる。シニャックは、モネがテムズ川を描いた「ウォータール」、「チャーリング・クロス」といった連作を、どこかで見ていただろうか。
モネがロンドンで制作した連作が公開されたのは1904年、ベルリンとパリ。特に知られているのはパリのデュラン=リュエル画廊で5月9日から6月4日まで開催された展覧会「Monet.Vues de la Tamise a Londres」[4]。現在、ワシントン・ナショナルギャラリーの≪ウォータールー橋、曇り≫もその時に発表された(No.12)。
しかし、当時、シニャックはヴェネツィアに滞在しており、後日、モネのこれらの絵を見た直接・間接的な事実は見つからない。特徴的なものが似ていても、≪ロッテルダム、蒸気≫が、「モネの影響である」と言い切ってしまうには、画家の個性への敬意を欠いてしまう恐れも感じる。しっかりとした調査をするだけの能力や手段、資料もないので、ここでは推測もできない・・・。
そのヴェネツィア滞在の2年後、1906年の4月から5月にかけて、シニャックはロッテルダムやアムステルダムを旅行して、油彩や水彩を描いた[1]。
そのタイトルにもあるように、描かれた場所はオランダ・ロッテルダム。左の写真は1939年のロッテルダム上空を写したもの。背景にアーチ橋が見える。これは、5連アーチになっていたマース橋(Maasbruggen)という鉄道橋であることから、シニャックは街を流れるマース川の蒸気船を描いていたということがわかる。描かれた具体的な場所は、特定されているのかわからない。
シニャックが描くマース橋を見ると、横に伸びる鉄道橋の直線の上にもう1本線が描かれている。橋桁を見ると明らかなように。実は、この後ろにもう1本(四角いピントラス構造の)橋があったことを示している。点描はある程度、実景をデフォルメしてしまうような印象を持っていたが、その中にあっても、シニャックは風景のディティールをしっかりカンヴァスに収めようとしていることがうかがえる。
Wikimedia Commons
また、2本の橋のうち、アーチ状の鉄道橋はアーチの境目に橋げたを設置しており、≪ロッテルダム、蒸気≫では、やや薄目に描かれている。このことから、アーチ橋後ろにあったと推測できる。
そのことから、少なくとも、マース橋の左側、シニャックは(写真)左上の方向から、マース川と橋を描いていたことが推測できる【*下記コメント、欄にてご指摘を頂きました、正しくは「右上」から。】。
色彩、情景の魅力だけでなく、ヨーロッパの都市風景画を見るときの興味は、シニャックは実際どのあたりから描いたのだろうか?ということ。パリの場合、19世紀に都市計画による街並みの改造があり、それ以降大きく変化していない。日本とは異なりヨーロッパは、描かれた場所がそのまま残っている傾向が多いように思う。現在、ロッテルダムの街並みは、シニャックが見たものとはやや異なったものになっていると思われる。1940年5月10日に、ナチスによるロッテルダムの爆撃により、それらの街並みは失われてしまった。
そういったことから、シニャックが描いた≪ロッテルダム、蒸気≫は、19世紀の産業革命以降、モネが描いたロンドンのように、ところどころで蒸気がゆらめくマース川を通じて、ロッテルダムが発展してゆく、当時の様子が感じ取れるひとつの資料といえるかもしれない。
≪ロッテルダム、蒸気≫(図版1)を含めて、シニャックはロッテルダムの港の光景を場所を変えて、油彩で4枚描いている。2点は個人のコレクションになっているが、残り1枚の、一番大きい作品は、ロッテルダムのボイマンス美術館が所蔵している。
(図版3)
[タイトル] ロッテルダムの港
(仏) / Le port de Rotterdam
(英) / The Port of Rotterdam
[作者] ポール・シニャック / Paul SIGNAC [1863-1935, フランス]
[年代] 1907年
[技法・材質] 油彩・カンヴァス
[サイズ(cm)] 87.0×114.0
[作品番号] Cachin 448
[所蔵] ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館 [オランダ・ロッテルダム]
Wikimedia Commons
[タイトル] ロッテルダムの港
(仏) / Le port de Rotterdam
(英) / The Port of Rotterdam
[作者] ポール・シニャック / Paul SIGNAC [1863-1935, フランス]
[年代] 1907年
[技法・材質] 油彩・カンヴァス
[サイズ(cm)] 87.0×114.0
[作品番号] Cachin 448
[所蔵] ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館 [オランダ・ロッテルダム]
Wikimedia Commons
≪ロッテルダム、蒸気≫(図版1)は長らくパリにあったが、島根県立美術館が、1997年に購入した。これだけのものが、国内の公立美術館が所蔵しているというのは素晴らしいことだと思う。2013年、フランスのジヴェルニー印象派美術館で開催された展覧会「Signac, les couleurs de l’eau / シニャック、水の色」に≪ロッテルダム、蒸気≫(図版1)が出品された。国内外に貸し出されている。
≪ロッテルダム、蒸気≫は、水辺に揺らめく蒸気船とその煙。その数の多さに、20世紀初頭のオランダ・ロッテルダムの街が生き生きと映し出されている。夕日が美しい水辺の美術館、島根県立美術館にふさわしいコレクション。今度は、いつか、島根で再会したい。
* 現在、上野の東京都美術館で開催されている「新印象派-光と色のドラマ」展に出品されており、3月29日まで見ることができる。
- 参考資料 -
[1] 『Signac: Catalogue raisonné de l'oeuvre peint』 Françoise Cachin, Gallimard, 2000 Cat.436,448 p10,11,135,136,276,281,376,377
p374年表。1904年2.5-3.29までブリュッセルに滞在。Exiposition des peintres impressionnistes, a La Libre Esthetique de Bruxelles. Signac expose t toiles. 11月19日からパリに滞在。
[2] 『新印象派―光と色のドラマ Neo-Impressionism, from Light to Color』 あべのハルカス美術館、東京都美術館 2014-15年 p131 No.98
[3] 『クロード・モネ 視覚の饗宴 1940-1926』 カリン・ザーグナー TASCHEN 2010年 p184
1912年、ヴェネツィア展を見たシニャックからモネへの手紙。
[4] 『Monet Catalogue Raisonne』Daniel Wildenstein, Wildenstein Institute, Koln, 1996 Vol.4 p1019
巻末の展覧会リスト。
[5] France tv info. 「Signac, le pointillisme expliqué en trois (petits) points」[1 avril 2013] (2014年11月1日閲覧)
[1] 『Signac: Catalogue raisonné de l'oeuvre peint』 Françoise Cachin, Gallimard, 2000 Cat.436,448 p10,11,135,136,276,281,376,377
p374年表。1904年2.5-3.29までブリュッセルに滞在。Exiposition des peintres impressionnistes, a La Libre Esthetique de Bruxelles. Signac expose t toiles. 11月19日からパリに滞在。
[2] 『新印象派―光と色のドラマ Neo-Impressionism, from Light to Color』 あべのハルカス美術館、東京都美術館 2014-15年 p131 No.98
[3] 『クロード・モネ 視覚の饗宴 1940-1926』 カリン・ザーグナー TASCHEN 2010年 p184
1912年、ヴェネツィア展を見たシニャックからモネへの手紙。
[4] 『Monet Catalogue Raisonne』Daniel Wildenstein, Wildenstein Institute, Koln, 1996 Vol.4 p1019
巻末の展覧会リスト。
[5] France tv info. 「Signac, le pointillisme expliqué en trois (petits) points」[1 avril 2013] (2014年11月1日閲覧)