狐・狸・祭

フラメンコの故郷よりマイペースに発信、カンタオーラ小里彩のブログです

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知恵熱

2017年03月30日 00時57分09秒 | 日記
録音の当日は見事なまでの快晴。2台の車で総勢9名、賑やかな現場だった。

サンルーカルの自宅に録音スタジオを持つラファエルさんはご自身も若い頃有名なバンドのギタリストとしてマドリッドで活躍した音楽家で、今は退職して好きなアーティストが来たときだけ開業するという。ガソリナ氏とは顔合わせからすぐ意気投合。頼もしいプロフェッショナルなスタッフと出会え本当に心強かった。

私は大量の唐揚げを、彼は得意の特大トルティージャを作り、ガソリナ氏もハモンやらチーズやらを持参して来てくれた。ラファエルさんと奥さんは日当たりの良い庭にテーブルと椅子を並べる。つまみを囲んで冷たいビールやらマンサニージャやらを片手に皆でしばし談笑のひととき。宴と言うにはささやかながらよい雰囲気でスタートできたことが嬉しく、協力してくれた皆に感謝の気持ちで一杯だった。

一段落して皆で録音スタジオへ。ガソリナ氏は道場に入る武道家のような集中した顔つきで、アーティストの皆もそんな彼の静かな気合いをひしひしと感じ、気持ちの良い緊張感が漲る。着々と曲を歌い進めていくガソリナ氏、全く声を枯らすこともなくどっしりとしたカンテは歌えば歌うほど深みをましてゆき本当に見事だった。

「この現代でこんな原始的な録音方法って!」とガソリナ氏の息子さんも笑うほど、ライブと同様の生の音にこだわった。機械のパルマで歌うなんて氏には似合わない!やはりいつもそばにいる息子さん、お孫さん、そのお友達とソリさん。この4人が必要不可欠だった。実はもう一人あるプロのパルメロの方が参加を申し出てくださったのだが、考えたあげく丁重にお断りした。現場の雰囲気はちょっとした人選で大きく変わる。ガソリナ氏にリラックスして歌に集中してもらえる環境を優先したかったのが理由だった。結果ガソリナ氏には「あんたが正しかった、思い切ってくれてありがとう」と小さな声で言ってもらえ、ほっとする。

収録後の週末に出来上がった録音を聞きに行く。ガソリナ氏や息子さんも来たいかなと思ったものの、船頭多くして船山に上るということわざもあるので自分の感性をたよりに一人で行くことにした。ドミンゴ氏のアドバイスでブレリアはハレオのみ重ね撮りして奥行きを出そうとしたが、合わせて聞いてみて結果全て没にした。やはり人工的なものはその瞬間の息づかいと押し殺したハレオにかなうわけがない。チョサのブレリアはただのブレリアではなく、私にとってはカンテホンドだ。静けさにある音を生かしたかった。それを殺す音は結局は蛇足であった。ただ、重ね撮りした部分に好きなハレオが2カ所だけあり、そこだけ拾ってつなぎ合わせた。サクサクと私の注文を音に反映するラファエルさんは手術中の外科医のような手つきで、「あなた自分のほしいものがはっきりわかってて一緒に仕事してて気持ちがいいね!!ほかの人たちみたいに1ヶ月一つの音入れるかどうか悩んだり、”どう思いますか?”とか僕の意見も全然尋ねないしね!(笑)」といわれて赤面。私が現時点までに行った仕事らしい仕事はアルバム録音を決意するようガソリナ氏の背中を押したこととよけいなものが入りそうになったときにそれを阻止することのみだったのだが、簡単なようでそれは難しいことだった。「予想通り自分が作りたかったものができました!ありがとうございます!」とお礼を言ってヘレスの自宅に戻る。

深夜、もう一度一人でそのアルバムをすべて聞き直し、震えそうになった。予想通りというのは大きな間違いで、予想を遥かに上回った出来という表現が正しかったことに気づいたからだった。ヘッドフォンから聞こえてくるフラメンコは凄い濃度で、その素晴らしさに胸をえぐられるような感覚を覚えた。ウーンとうなって私はベッドに横になる。興奮からドッと疲れがでたのか、体はボンヤリと熱っぽかった。
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