校長室日記(グァテマラ日本人学校in中米)

校長が見た①グァテマラ日本人学校の様子 ②教育情勢などを随時お届けいたします。

ある警察官の手記(「阪神淡路大震災」で実際にあったこと)

2016年01月17日 | 教育全般

 今日は1月17日。日本の兵庫で起きた「阪神淡路大震災」からちょうど21年目になる日です。早朝の5時46分、普段はあまり気に留めることが少ない “いつもの当たり前の生活” が一変した時間です。記憶に新しいところでは、5年前の3月11日に起きた「東日本大震災」があります。いつやってくるか分からない大地震…。“1・17”から学ぶことはまだまだたくさんあります。21年前の大災害から、かけがえのない「命」や「防災」について、子ども達と語り合ってほしいと思います。
 次の文章は、21年前に救助活動をされていたある警察官の手記です。とにかく読んでみて下さい

  • 『語りかける目』
  •  1月23日、私は2回目の出勤をした。任務は長田署管内の救助活動・遺体捜索。そして、村野工業高校体育館における遺体管理と検視業務であった。仮の遺体安置所になった体育館は、たくさんの遺体と、それに付きそう遺族であふれていた。
     そんな中で、一人の少女に、私の目はくぎづけになった。その少女は、膝の前に置いた焼け焦げた「ナベ」にじっと見入っていた。泣くでもなく、哀しむでもなく、身動きもせず、ただじっと見入っていた。
     私は、その少女に引かれるように近寄って行った。「ナベ」の中には、小さな遺骨が置かれていた。「どうしたの?」思わず問いかけた私の一言が、その少女を泣かせてしまった。どっとあふれ出した涙をぬぐおうともせず、懸命に私の目を見つめ、とぎれとぎれに語り続けた。「ナベ」の中には、少女が拾い集めた母の遺骨であるという。
     その夜(1月16日)も少女は母に抱かれるように、1階の居間で眠っていた。何が起こったかも分からないまま、気がついたときには母と共に壊れた家の下敷きになって、身動きもできない状態になっていた。それでも、少女は少しずつ体をずらし、何時間もかけて脱出ができた。家の前に立って、何がなんだか分からないまま、どの家も倒れているのを見た。多くの人が、何かを叫びながら走り回っているのを見た。
     しばらくして、母が家の中に取り残されていることに気がついた。「お母さんを助けて!」「助けて!お願い!」と、走り回っている大人たちに片っ端からしがみつき、声を限りに叫び続けた。誰にもその叫び声は聞こえなかった。声は届かなかった。迫ってくる火事に、母を助けられるのは自分しかないと、哀しい決断を強いられた。
     母を呼び続け、懸命に家具を押しのけ、がれきを放り投げ、一歩一歩母に近づいて行った。やっとの思いで、母の手を捜し当てた。
    姿は見えなかった。母の手を見つけたとたん、その手を握りしめた。その時、少女の手は血まみれになっていることに気がついた。
     「お母さん、お母さん!」「お母さん!」手を握りしめ、泣きながら叫び続けるだけであった。
     火事は間近に迫っていた。火事の音が聞こえ、熱くなってきた。母は懸命に語りかけたが、かぼそい声で少女には聞こえなかった。「お母さん! お母さん!」と、叫び続ける少女に、名前を呼ぶ母の声がようやく聞こえた。「ありがとう。もう逃げなさい。」と、母は握っていた手を放した。
     熱かった。怖かった。夢中で逃げた。すぐに、母を抱え込んだまま、我が家が燃え出した。立ち尽くし、燃え盛る我が家をいつまでも見続けた。声も出なかった。涙も出なかった。
     翌日、何をしたか、どこにいたか、覚えていない。
     翌々日、少女は一人で母を捜し求めた。そして見つけ出した。
     少女は、いま一人で、見つけ出した母を「ナベ」に入れ、守り続けている。
     語り続ける少女の目から、いつの間にか涙が消えていた。ただ聞くだけの私は、声も出ず涙があふれ続けた。母と二人、この少女がどんな生活をしていたのか、私は知らない。一人になったこの少女に、どんな生活が待っているのか、私には分からない。
     「この少女に神の加護がありますように。」生まれて初めて「神」に祈った。この少女に、なぐさめの言葉も、激励の言葉も何も言えなかった。何度も何度もうなずくだけで、少女の前を逃げた。
     少女は、最後まで私の目を見続け、語り、そして語り終えた。その目は、もっと多くのことを私に語りかけ、今も語り続けている。目は生きていた。
     哀しいと思った。美しいと思った。強いと思った。少女の名前を聞くのさえ忘れていた。
                                                                    ~『明日に生きる』(兵庫県教育委員会)より~ 
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