木全賢の工業デザイナー応援ブログ

これからは「デザインの時代」。デザイナーが元気になれば、日本も元気になる。日本の若手デザイナーを応援します。

デザイン原器とは?

2009-07-20 10:30:01 | デザイナー応援ブログ
<パナソニックデザインスタンダード>


◆デザイン原器とは?
【デザイナー応援】


 21世紀は「デザインの時代」。そして、ものづくりが見直されている21世紀はまさに「工業デザイナーの時代」。工業デザイナーが元気になれば、日本も元気になる。

 そういうわけで、これから、日本の若手(気持ちの若手も含めて)工業デザイナーを応援していきます。

 毎週1回の更新で、デザイン書籍の紹介やデザインの豆知識やデザイナーの転職の心得などをお知らせしています。

 質問がありましたら、いつでもコメントくださいね。コメントでの匿名の質問には無料でお答えいたします。具体的なご相談がありましたら、以下のアドレスまでメールください。

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デザイン原器とは?

 以前、別のブログで以下の質問をいただき、解答したことがあります。工業デザイナーも興味がある内容だと思いますので、再録しました。


【質問】

 はじめまして。私はシステムエンジニアですが、美しいものが大好きです。特にドイツで生活した経験があるため、ドイツ的なシンプルデザインが大好きです。

 実は1つ伺いたいことがあります。「デザイン原器」という言葉がありますが存在するのでしょうか。たまたまこの形がヒットしたから継続してるみたいな形で出回っているのは本当なのではないでしょうか。

 確かにデザイナーさんが勝手なものを作っては困るのである程度のルールみたいなものを伝えるためのツールとしては存在するのかなとも考えるのです(システム開発にはそういうルールブックがあります)が、先生の「デザイン原器」についてのお考え(定義とか実際に現場で製品を生み出す立場として)をお聞かせいただければと思います。


【回答】

 「デザイン原器」。。。ですね。

 メートル原器のように、すべての製品のデザインの基準になるような造形要素ということかなと思います。

 数年前にパナソニックが、自社製品の評価スケールとして「パナソニックスタンダード」として松下の「デザイン原器」(リンク先に「パナソニックスタンダード」の1部が載っています)を作ったそうです。今また、新しい「デザイン原器」を開発中だそうです。それらの「デザイン原器」は門外不出になっているそうです。確かに公開してしまっては松下オリジナルの「パナソニックスタンダード」ではなくなってしまいますよね。

 住宅設備機器から電気ゴマすり器まで、松下のような総合家電メーカーにおいて製品デザインのイメージを統一することはなかなか難しい話です。

 だから、「デザイン原器」が必要になったのでしょうけれど。。。


ウイリアム・モリスの思想

 「デザイン原器」=「モダンデザインの元」と言う意味では、モダンデザインの歴史から紐解かなければならないかもしれません。しかし、ここでモダンデザインの歴史を概観することは不可能です。

 ただ、モダンデザインはそのはじめから、常に「人間のためのデザイン」という側面がありました。思想レベルではなく実業レベルで具体的な製品を通して、「人間の側に立った人間のための」提案しようとする姿勢を持ち続けてきました。

 モダンデザインの源流はイギリスの社会思想家ジョン・ラスキンと芸術運動家ウイリアム・モリスの思想だと言われています。

 19世紀後半産業革命から当分の間、生産機械が作り出す形は、単純で無骨で不細工なものでしかありませんでした。モリスらは、そのような状況を目の当たりにして自分達の文化や生活が持っていた美意識を失ってしまうのではないかという危機感を持ち、不細工なものしか作り出さない工業化社会への反旗としてアーツアンドクラフト運動を起こしました。

 アーツアンドクラフト運動は、機械生産による弊害を糾弾し、従来の職人技を擁護し復興させようとする、工業化社会への反骨精神の表れでした。モダンデザインは時代へのアンチテーゼからはじまりました。

 当時は、現代のように生活者からの発言が容易ではなかったため、モリスのような思想家による運動が注目されてしまいますが、モリス達の活動は当時の生活者の意識を代弁していたはずです。そうでなければ彼らの功績が150年を経た現代まで語り継がれてはこないでしょう。彼らの活動は、「人間の側に立った人間のための」時代へのアンチテーゼだったのです。


バウハウスの理想主義

 ラスキン、モリスらの反骨は思想として引き継がれていきましたが、現実の工業化社会の発展を押しとどめることはできず、デザインや芸術は、あるときは時代に迎合し、あるときは風刺しつつ、経済最優先の世界に巻き込まれていきました。

 過去2000年間に人間が消費した全エネルギー量の約半分がここ100年間に消費されたといわれています。強烈な変化の中でアートアンドクラフト運動以降に現れたキュビズム、アール・ヌーヴォー、ダダイズム、デ・スティル、ロシア構成主義などの芸術運動はすべて、急速に変化する現実の状況と過去の美意識との相克の中から生まれてきたと捉えることができます。

 それらの試行錯誤を総括的に捉えなおし、整理還元して現代のモダンデザインの基礎を築いたのがバウハウスでした。バウハウスはドイツのワイマールに設立された造形学校です。1919年から1933年までのたった14年間しか活動せず、2000名程度の卒業生しか持たない小さな学校でした。

 しかし、そこで研究されたモダンデザイン教育は、第二次大戦後、欧米や日本のすべての工業デザイン学校の授業の基礎になりました。バウハウス閉校後半世紀を過ぎた1980年代に私が受けた授業もバウハウスのカリキュラムに則ったものでした。それほどバウハウスのモダンデザインの教育思想は普遍的であったといえます。

 そもそも、バウハウスはワイマールの社会民主主義政府により設立され、いわゆる理想主義的な社会倫理を前提にしてデザイン研究を行っていました。クラフトマンシップを重視してはいましたが、バウハウスは理想主義的な大儀として、工業化社会を地球上の全人類に同じ性能の製品を供給する社会システムとして捉えていました。

 現在の工業デザイナーは、それぞれの学校で意識するしないは別にして、ほぼ全員がバウハウスに繋がる教育を受けており、その教育の過程で理想主義的な思想に触れています。

 モダンデザインは、常にその時代に生きる人間の横に立ち、反骨精神や理想主義を携えて製品という具体的な形で、「人間の側に立った人間のための」デザインとは何かを問うてきました。

 そのような意味で、第二次大戦後の人間工学や認知科学の工業デザインへの応用は作りやすさよりも使いやすさを優先するという人間中心の思想の表れでもあります。

 つまり、そのような「人間の側に立った人間のための」理想主義的な人間中心の思想が、「デザイン原器」と言えるのではないかと私は考えています。


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