スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

空白の8分間@スピードスケート男子500m

2006-02-14 12:53:39 | その他のスポーツ
空白の8分間。

些細なことなど気にもしない加藤といえども、五輪の重圧の中でスタート時間をずらされたことがパフォーマンスに影を落としたのだろうか。本人は否定するも初出場の舞台で動揺しないはずがない。

加藤条治が入った16組のひとつ前のレースで2つのアクシデントが起きた。先ずインスタートの選手が第1コーナーでバランスを崩した。続いて同走のアウトレーンを走っていた選手が第2コーナーを回り切れずに壁にクラッシュした。それに伴いリンクの製氷が行われた。8分間も競技は中断した。スタート時間を遅らされた加藤はゆっくりと削れた第1コーナー(インスタートゆえにチェック)へと足を運びリンクの状態を確認した。解説の堀井学氏によれば、長時間きつく締めたスケート靴を履くと足が痺れてくることがあるために、一時的に脱ぐ選択肢もあったという。結果論になってしまうが靴は脱がないまでもじっくりとコンセントレーションを高める時間を作るという別の選択肢もあった。脱ぐべきか、履き続けるか。加藤が選んだのは後者の方だった。

待たされて切ったスタート。入りの100mでは本来のタイムを出せず。9秒台後半だった。得意とするコーナーでも加速することは叶わずにベストタイム(34秒30)から1秒以上も遅れた(35秒59)。金メダルを手中に収めるには34秒台が必要。加藤が大会前に述べたコメントは現実のものとなった。1本目首位に立ったチークはただひとり34秒台を叩き出した(34秒82)。ウォザ―スプーン、前回大会覇者フィッツランドルフも思うようにタイムが伸びなかった。が、ほとんどノーマークだったチークが想定外のタイムを出したことで加藤の金メダルの目は潰えた。2本目に35秒台前半で滑るも結局は6位に終わった。独特の雰囲気と崩されたリズム。気持ちを立て直せなかった世界記録保持者は敗れ去った。

清水、長嶋、加藤が伸び悩む中で及川だけは五輪前からの好調を維持した滑りを見せた。傍目には動いていなかったように見えた1本目のスタートでフライングを取られるが、萎縮することなくロケットスタートで飛び出す。100mの通過タイムは9秒59と最速だった(1本目に限り)。後半はやや失速するも35秒35をマークしてメダル圏内でフィニッシュした。チークの快走も予想外だったが、失礼ながら及川が高位置につけることを誰もが予想していなかった。良い意味での誤算だった。これにより、サラエヴォ大会から続くメダル獲得に首の皮一枚繋がった。

思いを託されて迎えた及川の2本目。スタートからまたしても爆発的なダッシュで100mを1本目と同じく9秒59で駆け抜けた(100mのタイムは全体の2位)。直前の製氷でリズムを崩されてもお構い無しだった。前半で稼いだアドバンテージを利して後半も押し切る。35秒21と1本目よりもタイムを縮めてトップに躍り出る。やることはやった。あとは後続の選手の動向を見守るだけ。

1本目2位につけたドロフェイエフにかわされるも、最終組を残して及川にはまだメダルを手にする可能性が残されていた。だが、及川のメダルは最初の100mで事実上なくなった。イ・カンソク(予選3位)、チークともに抜群のスターを切った。100mを申し分のないタイムで抜けていった二人は更に加速した。イ・カンソクにリードを許していたチークだが直線で一気に抜き去り、圧巻の34秒台で再びゴールした。イ・カンソクはさし切られるも失速することなく34秒台にあと一歩と迫る35秒09。その瞬間、及川のメダルが消滅すると同時に、日本の7大会連続メダルも途絶えた。

記録を保持しているからといって五輪に勝てる補償などない。加藤条治はそのことを思い知らされた。この苦い経験を生かすも殺すも加藤次第。「時代を動かした」男の今後の逆襲に注目したい。

スピードスケート男子500m 4位:及川、6位:加藤、13位:長嶋、18位:清水


最新の画像もっと見る