◇日本人の胃には強病原性存在 治療費用は1万6000〜3万円
胃の中にいるピロリ菌が胃がんの主要な原因だという考えが、通説になりつつある。不思議なのは、欧米やアフリカ諸国でも、日本と同様にピロリ菌をもっている人は多いのに、日本と比べて、胃がんは非常に少ないことだ。なぜ日本では胃がんが多いのか。その謎に迫る。【小島正美】
日本の胃がんの死亡率は世界的にも高い。人口10万人あたりだと約50人に上り、欧米では5〜6人と10分の1程度。同じアジアでも中国やベトナムはその中間だ。なぜ、日本で多いのか。
「日本人の胃にいるピロリ菌は、他国のものに比べて、病原性が強い」。大分大医学部の山岡吉生教授(環境予防医学)はそう断言する。
ピロリ菌が胃潰瘍などを引き起こすことは80年代、豪州のマーシャル博士らが突き止め、ノーベル医学生理学賞を得た。そのピロリ菌について、山岡教授が各国の人の遺伝子配列を調べたところ、民族や地域によってさまざまな型があると分かったのだ。
ピロリ菌が胃がんを起こすメカニズムも判明してきた。ピロリ菌は体の表面にとげとげした注射針のようなものをもち、それを胃の粘膜に差し込み、病原性をもつcagA(キャグエー)という遺伝子が作るたんぱく質を注入して、がんを起こす。
鍵を握るのは遺伝子だ。山岡教授によると、欧米人の胃にいるピロリ菌の約3〜4割は、病原性の強いcagA遺伝子がないという。それに対し、日本人の胃にいるピロリ菌の90%以上はcagA遺伝子をもっている。日本人のピロリ菌の方が胃がんを起こす作用が強いのだ。
欧米にもcagA遺伝子をもつピロリ菌をもつ人はいる。しかし遺伝子の後半部分にある繰り返し配列を調べると、微妙に異なり、同じcagA遺伝子をもつピロリ菌でも、欧米型と東アジア型に分けられることが山岡教授らの研究で分かってきた。
「欧米型と東アジア型を比べると、東アジア型の方が胃がんを起こす作用が強い。このことは動物実験でも確かめられている」と山岡教授は説明する。
欧米人に多いピロリ菌は、たとえ胃にいても、おとなしく、胃の粘膜を傷つけることはほとんどない。ところが、日本人の胃にいるピロリ菌は、胃の粘膜をただれさせたり、萎縮させたりして胃がんを引き起こすということが分かってきたのだ。
不思議なことに、同じアジアでも、タイでは胃がんは少ない。ピロリ菌の多くが欧米型だからだ。
こうしたピロリ菌の遺伝子調査から、人類のたどった足跡が推測できるという。ピロリ菌はエジプトのミイラからも発見されている。山岡教授は「もともとピロリ菌は欧米型。約5万8000年前にアフリカを旅立ち、中央アジアや西欧の一部、東アジアを経て、北米、南米に広がっていったのではないか」と、人類の移動とともにピロリ菌が世界に広がっていったとの仮説を提示する。
一般に、ヒトと共生する菌は進化とともに病原性を弱めていくのが普通だが、ピロリ菌は人類の移動とともに病原性が強くなっていった。この厄介なピロリ菌を東アジアの人が持っているのは、何か人体にメリットがあるからとも考えられ、今後の研究課題となっている。
■5歳ごろまでに感染
日本人約2000人を8年間追跡した研究報告によると、ピロリ菌に感染した人のうち約3%の人が胃がんになったのに対し、非感染者では胃がんの発症はなかった。
ピロリ菌がいても、全員が胃がんになるわけではない。だが「ピロリ菌の除菌が胃がんをはじめ、十二指腸潰瘍などさまざまな疾患を減らすことにつながることは確実だ」と村上和成・大分大医学部診療教授は述べ、ピロリ菌検査と除菌の重要性を強調する。
最近では、多くの病院にピロリ菌治療外来ができている。大分大学病院でも昨年5月から始めた。
検査は呼気や血液、尿を調べることで分かる。胃潰瘍や十二指腸潰瘍など病気で検査を受ける場合は保険適用になるが、それ以外は自己負担になる。費用は病院によって異なり、検査だけなら1万円前後、除菌治療費用は約1万6000〜3万円だ。
日本では50歳以上の約6〜7割が感染者だ。自らも除菌した村上教授は「除菌すれば、胃がんの発生率は約3分の1に減る。除菌は早ければ早いほどよい」と検査を勧めている。ただ、除菌しても1回で成功するとは限らず、2回必要な場合もある。高木敦司・東海大医学部教授の研究によると、LG21乳酸菌を含むヨーグルトと除菌を組み合わせると除菌の成功率が上がるという。またこのヨーグルトは乳幼児期だとピロリ菌の感染を予防するとの報告もある。
ピロリ菌は5歳ごろまでに感染し、それ以降は感染しにくい。母親が口でかんだものを離乳食として与えるのはやめた方がよい。(2011年7月13日(水) 毎日新聞)
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/life/20110713ddm010100212000c.html










