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人工網膜の医師主導治験に向けての有効性を証明~岡山大学方式人工網膜「OUReP(TM)」がラットの視覚誘発電位を改善~(岡山大学)

2017年03月18日 22時22分54秒 | 医療

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)眼科学分野の松尾俊彦准教授とアラムス非常勤研究員 1)、同研究科脳神経機構学分野の細谷修助教、同大学院自然科学研究科(工)高分子材料学分野の内田哲也准教授の医工連携研究 2)グループは、“世界初の新方式”である岡山大学方式の人工網膜 OURePTM 3)が、ラットの視覚を回復することを視覚誘発電位によって初めて証明しました。本研究成果は 2 月 8 日、日本人工臓器学会の英文雑誌『Journal of Artificial Organs』に掲載されました。

 また、同大学院医歯薬学総合研究科博士課程の劉詩卉(Liu Shihui)大学院生、松尾准教授、細谷助教、内田准教授のグループは、OURePTM の部材として使用している光電変換色素には、ラットの視細胞死を抑制する神経保護作用があることを世界で初めて証明しました。本研究成果は 1 月 13 日、米国の科学雑誌『Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics』に掲載されました。

 OURePTM は色素結合薄膜型の人工網膜であり、2013 年にアメリカで販売開始されたカメラ撮像・電極アレイ方式とはまったく異なる技術の“世界初の新方式”です。現在、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と薬事戦略相談を積み重ね、医薬品・医療機器等法(旧薬事法)に基づく医師主導治験を岡山大学病院で実施する準備を進めています。

 治験機器である人工網膜には極めて高い安全性、有効性、品質管理が求められており、研究の種(シーズ)の段階では、患者のもとへ届けることができません。本研究成果によって、人工網膜の有効性がさらに示されたことになり、患者のもとへ届ける医師主導治験の実施への階段を確実にまた一歩上がりました。

 

 松尾准教授らの研究グループは、失明して間もない 6 週齢の若い網膜色素変性ラット(RCS ラット)に、岡山大学方式の人工網膜 OURePTM を植込み、4 週後と 8 週後の視覚誘発電位(大脳の後頭葉にある視覚に関係する部分の電気的活動)を記録しました。その結果、光電変換色素の付いていないフィルムを植込んだ対照ラットと比べて、視覚誘発電位の振幅が大きいことが分かりました。これは人工網膜によってラットの脳の中で神経細胞の電気活動が起こっていることによるもので、OURePTM の有効性が示されたと考えられます。

 さらに、劉大学院生、松尾准教授らの研究グループは、視細胞がまだ残っている 4 週齢の網膜色素変性ラットの眼球に、人工網膜 OURePTM の部材として使用されている光電変換色素を注射。本来は死んでいく視細胞が死なず、注射した光電変換色素に神経細胞保護作用があることが分かりました。これは、以前の研究で 6 週齢の網膜色素変性ラットに人工網膜を植込み、5 か月後の網膜の状態を観察したところ、網膜神経細胞死(アポトーシス)が抑制されていることが分かったことと一致します。

 

 これまでに、岡山大学方式の人工網膜 OURePTM には、毒性がないことを生物学的な安全性評価によって証明しています。今回の一連の研究成果は、人工網膜 OURePTM の有効性をさらに補強するものであり、世界中に 500 万人(わが国には 10 万人)いる、網膜色素変性患者たちに再び光を届ける過程がより一歩、確実に前に進みました。今後、患者たちが参加する、医師主導治験に向けた実施の根拠ともなるものです。

 なお人工網膜 OURePTM の製造管理と品質管理は、本学大学院自然科学研究科(工)の内田哲也准教授が確立しています。現在、岡山大インキュベータ(岡山市北区)にある清潔なクリーンルームの環境の中で、人工網膜の製造ラインが稼働しています。厳密な品質管理体制の下、この製造ラインで作った人工網膜 OURePTM を治験機器として岡山大学病院に提供する予定です。

 

1) アラムス(Alamusi)非常勤研究員

(当時)は現在、中国内モンゴル自治区の病院眼科勤務。

2) 医工連携研究

医学研究と工学研究、それぞれの強みを融合することで、今まで解き明かすことが困難であった課題を解決に導いたり、今までにない革新的な発見、発明を引き起こしたりすることを目的としています。松尾准教授と内田准教授は、長らく医工連携研究を進めており、その中で「岡山大学方式人工網膜 OURePTM」は革新的な研究成果として、劇的なイノベーション創出につながる成果として注目されています。

3) 岡山大学方式人工網膜 OURePTM(オーレップ)

網膜色素変性は、視細胞が徐々に死滅してゆく遺伝性疾患です。視野が次第に狭くなり、最終的には視力が低下して失明に至ります。その治療方法は残念ながら現状ではありません。視細胞の機能を人工物で代替する人工網膜が治療候補として有望で、2013 年にはアメリカで初めて、人工網膜がアメリカ食品医薬品局(FDA)によって製造販売承認されました。このアメリカの人工網膜は、カメラで取り込んだ映像を 60 画素に画像処理して、その信号を顔面皮内に植込んだ受信機に伝送し、その受信機から 60 本の電線を出して眼球内に挿入し、網膜近傍に植込んだ 60 個の電極集合体(アレイ)から電流を出力します。出力電流によって網膜内に残っている神経節細胞が刺激されてその軸索である視神経を通って後頭葉に伝わり視覚を生じることを期待しています。アメリカの人工網膜によって完全失明した患者が光覚を回復することが可能となりました。この「カメラ撮像・電極アレイ方式の人工網膜」は、アメリカだけでなく日本も含めた世界中で開発されています。問題は、構造が複雑で植込みの手術手技が難しい、電極の小型化が難しく分解能が悪い(つまり見えない)、広い面積の網膜を刺激することができず視野が狭い、1,000 万円を超える高額医療機器であるなどの点です。私たちは、アメリカの人工網膜とは全く異なる世界初の新方式である「色素結合薄膜型」の人工網膜を 2002 年から医工連携で研究開発してきました。光を吸収して電位差を出力する光電変換色素分子をポリエチレン薄膜(フィルム)に化学結合した岡山大学方式の人工網膜 OURePTM です。この新方式の人工網膜は、電流を出力するのではなく、光を受けて電位差(変位電流)を出力し、近傍の神経細胞を刺激することができます。「色素結合薄膜型」の人工網膜は薄くて柔らかいので、大きなサイズ(直径 10mm 大)のものを丸めて小さな切開創から眼球内の網膜下へ植込むことが可能です。その手術は現在すでに確立している黄斑下手術の手技で実施できます。大きなサイズ(面積)の人工網膜なので得られる視野は広く、人工網膜表面の多数の色素分子が網膜の残存神経細胞を 1 つずつ刺激するので、視覚の分解能も高いと見込まれます。人工網膜の原材料も安価なので、手の届く適正な価格にて供給できると考えています。(2017.03.10 日本の研究.com)

岡山大学方式人工網膜 OURePTM

http://achem.okayama-u.ac.jp/polymer/hyoushi.html

http://linkis.com/research-er.jp/artic/22HFM

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