電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
小野十三郎と薩埵峠
2017年7月28日
僕の寄り道――小野十三郎と薩埵峠
由比宿から興津宿へ向かい、権現橋を渡って間の宿(あいのしゅく)をすぎると、旧東海道は次第に上り勾配となって薩埵峠へと向かう。
そして一里塚跡で右手に進み峠までの山道になる。この夏は一度も登ったことのない浜石岳山頂まで徒歩で行ってみようかと思っていたけれど、一気に計画が崩壊するような炎天下の登坂である。
ようやく勾配が緩やかになって峠が近いことを知らせるような山道となり、生い茂った木々の隙間から駿河湾が見えたとたん、小野十三郎(おの・とおざぶろう、1903-1996)の詩「山頂から」の出だしを思い出した。
小野十三郎「山頂から」はこんなふうに始まる。
山にのぼると
海は天まであがってくる。
おそらく清水港を出向した貨物船が沖合を通過していく。
なだれおちるような若葉みどりのなか。
下の方で しずかに
かっこうがないている。
風に吹かれて高いところにたつと
だれでもしぜんに世界のひろさをかんがえる。
海辺の峠道にカッコウがなく声はないけれど、このあたりではクマゼミではなくミンミンゼミが盛大に鳴いている。薩埵峠手前の木々の隙間から駿河湾越しに世界のひろさを考えた。
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コメント ( 2 ) | Trackback ( )
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今春の中学校の入学式で新しく赴任してきた校長先生が挨拶しました。「(今は苦しいだろうが、)この山を登れば海が見える」と話されたことを思い出しました。国語が専門だったと言っていました。誰かの言葉だが、と言っていましたが、残念ながら誰かは覚えていません。
今回は郷里の友人たちが待つ清水に向かって、逆向きに歩いて帰ってみました。
どうも自分は歴史の勉強でもなく、ウォーキングという運動でもなく、ただ自分の前に「道がひらけてくる」光景が好きなのかもしれないと、わかり始めた気がします。