一日四弦

大丈夫、デカダンレトリヲがいます

今がいっぱいありすぎる

2017-05-14 11:53:50 | 日々の事柄
いつだったかの土曜日の夜

電車に乗り込んだら、あとから3人ほどの若い娘さんたちが、走って乗り込んできました。
席につくなりの会話からして、これから都内のクラブ(ブ、に強くアクセントのつく方)に繰り出す様子で、顔や服は色々と盛ってある。

しかしそのうちの一人に問題が起きていて、走ってくる途中でこけたらしく、膝小僧に血がにじんでいるのです。
それはけっこうな擦り傷で、スキニーのホワイトデニムを破いて、生々しく血が出ているのでした。

----白とかはいてこなきゃ良かったし、
まじ下がるわ
帰って着替えたいし
降りたら絆創膏買わなきゃ

強がってそんなことをしゃべる彼女の声は少し上ずっている。


それに対して連れの二人は、
----走んなきゃよかったね
まじで大丈夫?

などと、言葉では心配する様子があるものの、眼差しと指先はさっそく取り出したスマート電話から一向に離れることはない。


さりとて私も私で、絆創膏が入っているいつものポーチは置いてきてしまったし、持っていたとしても、見ず知らずの娘さんに手渡すには、勇気が要った。
てゆうか誰だし、と引かれたらどうしよう。と思って、なんもできませんでした。


血を流したままの若い女の子は、本人がどんなに普通にしようとしても電車の中で異様な存在感を放ち、そうこうするうちに、終着駅に着いてしまったんでした。



『今』がいっぱいありすぎる。目の前のことと、せいぜい頭の中のもうひとつくらいだったはずが、いつのまにやら目の前のこと以外に、スマート電話の中に、平行線の『今』が3つも4つもある。
翻弄されるよ。翻弄されるわ。目の前のそれを大事にできないまま、ほんとの今はガンガン流れていってしまう。



そうして降りる間際になって、
あんた大丈夫なのかと野太い声がかかりました。
驚いて見れば私の隣にいた中年の男性が、降りて行こうとする彼女に声をかけたのです。
絆創膏ももたず、差し出すちり紙もなく、ただ右手に発泡酒の缶を持っただけのすがたで呼びかけた男が勇者に見えた。
眉を下げて、赤の他人をひたすら心配している勇者だった。

手負いの娘さんは、
----まじ困っちゃって!
と、それはもう嬉しそうに、最高にいい笑い顔を見せて、仲間たちと電車を降りて行きました。






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