シリア問題は、一時毎日のように、ロシアが酷いことをしている、大変だ、ヒトラーだと大騒ぎをしていたはずなのに昨年末アレッポが陥落して以来ガクンと西側の報道が減り、今年の春トランプがバカなミサイル攻撃をした時に再度盛り上がったものの、その先はまた減った。
そりゃもう、そもそも最初っからシリアという他国に乗りこんでる、不法侵略を西側は実行していたんだから、それで負けたとなったら目も当てられない。しかも、その侵略行為は自分でテロリストだと認定していた当の人々と一緒だったとなったら、もうね、黙るしかないっしょ。
そして、それだけでもないだろうと密かに言われているのが、ロシア軍の強さに腹を立てているからだろう、ってな話。強さというとちょっと違ってて、技術と頭脳によるスマートなプレーみたいな感じが今度のロシアという感じ。赤軍のイメージでは全くない。
と、そんなことを書きたくなったのは今日、櫻井さんがそんなことを書かれていたから。
武装勢力を使った攻撃を強めようとしたのだろうが、そうしたとき、2015年9月30日にロシアはシリア政府の要請を受けて軍事介入、戦況を一変させ、アメリカの傭兵たちは敗走しはじめる。日本では「右」も「左」もアメリカ信奉者が多いが、この過程でロシア軍は兵器がアメリカ軍を上回る能力を持つことを示し、通常兵器での戦闘ならアメリカ軍/NATO軍は粉砕されるだろう。戦闘機や戦車以上にアメリカを震撼させたのは巡航ミサイルの性能だったようだ。また、電子戦の能力も高いようで、トマホーク・ミサイルを墜落させたり、イージス艦の機能を停止させたとも言われている。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201710090000/
ミサイルの能力と使い方でしょうね。ミサイル単体の能力もさることながら、カスピ海、地中海、黒海と来て今度はロシア南部発信で爆撃機を飛ばしたミサイル攻撃を敢行してISの兵站部分を叩きまくった、この戦略が示唆するところが大きいでしょう。
シリア:ロシア軍中将死亡、Tu-95でIS&アメの基地爆破さる
シリアにおけるロシアの派遣軍は実に小規模なので、アメリカのネオコンに買われた政治家たちが、ロシアを潰せーと簡単に言うのだが、全然簡単じゃないだろ、という記事を最近読んだ。
要するに、フリゲート艦や長距離爆撃機を使った精度の高いミサイルがあるので、相当な地域がこのターゲットになり得る。だから、シリアの中のロシア軍を見ても意味がない。にもかかわらず、あっちは小さい、だから叩けという政治家、評論家みたいな人たちが後を絶たないのが米。
これが結構な衝撃をもたらした2015年10月の最初の巡航ミサイル攻撃。カスピ海には小さな船しかいないのだが、その小さな船からの巡航ミサイル攻撃が成功した。
ロシア、カスピ海からクルーズミサイル発射
さらに、カスピ海の上左はロシア領でそこからいくらか離れた場所に空軍基地があって、そこからの出撃もこの間やった。
これはKalibrミサイルの大型のやつの最大射程範囲の図。黒海起点とカスピ海起点で輪が異なる。
しかしこうでなくても、要するに、イランがロシアと強い結びつきをしている限り、アラビア海は既にロシアのミサイル攻撃の十分な射程範囲じゃんかよ、となる。そうであるなら、イランに何かちょっかいをかけてロシアが出て来たら大変だ、と米は考えるしかない、という話。
ここで重要なのは、大変だ、の意味。通常、米露は核戦略で相互確証破壊状態だから戦争をしないから直接対決を避ける。だから直接になると「大変だ」、だったのだが、今度は通常兵器でもロシアはかなり優位だぜ、という意味で「大変だ」なわけね。言いたくないだろうが。
でまぁ、思うに、アメリカは世界一って思いすぎな人が多すぎだと思うわけですよ。
戦争は装備を全部使ってやるものじゃないから、実は軍事に使う費用を比べても意味がないこともいっぱいある。
にもかかわらず、最強の米軍がいればなんでもできると思ってる人がどうも本当に多数いるようで困惑するばかりなわけですよ。
いや、極論すれば「なんでも」できるかもしれないですよ。つまり、持ってる火力を全部投入して全員殺す、全部爆破するという手段に訴えるのなら、勝てるかもしれない・・・。しかし、それってどんな勝利なの?という話。
戦争にとって重要な要件というのは、
- 大義
- 地理的条件
- 住民動向
なんじゃないですかね。そしてそれを包括して戦のプロットを立てて、兵器を準備するという順番。優れた兵器があれば勝てるというのは倒錯している。優れた兵器があれば局面は抑えられるだろうがそれと戦略的な勝利とは同期しない。
あと、1と3はプロパガンダ工作によって作れないこともない。短期的には。しかし2はどうしようもないし、3も時間との勝負という意味で2こそ最も重要だと言うこともできるのかも。
■ 国連テロ対策委員会
もう一つ。シリアと切っても切れな動きとしては、国連に、対テロ対策事務局が出来て、その長はロシア連邦のヴォロンコフさんという人がなっていること。
Secretary-General Appoints Vladimir Ivanovich Voronkov of Russian Federation Under-Secretary-General, United Nations Counter-Terrorism Office
21 June 2017
https://www.un.org/press/en/2017/sga1741.doc.htm
正式に指名されて、既に活動している。そして、シリアでのIS残党、アルカイダ残党とのアメリカ軍との関係をロシア軍がいちいち広報しまわっているのは、この国連での動きと関係あるんじゃないですかね。
At Security Council, top counter-terrorism officials stress ‘All of UN’ approach to tackle scourge
http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=57765
ということは、「傭兵」なるものを適当にそこらに振りまく作戦は、折からの、カタール、サウジのモスクワ行きから見ても、もうそう簡単に取れそうにないと考えていいでしょうね。まさに、
テロリストは傭兵なんだよ by プーチンから2.5年
って感じの今日この頃。ジハード主義者暗躍の時代の終焉となるといいなぁ、ほんと。
■ オマケ
上で書いたロシア軍の優秀さは何も中東でしか発揮されないわけではない。極東の条件で考えるとどうなるんだろうとか考えてみると、中国+ロシアを共に敵にするために、わざわざ喧嘩して自陣営をグルーピングする(日・米・オーストラリア・インドなんでしょ)という戦略を考える人の気がしれないというのが私の意見だす。
■ オマケ2
ISの資金源となる施設を爆破してるぞ、というロシア軍。これは多分、ISに一回取らせてその後クルドの資金源にと予想されている石油施設も含まれるんじゃなかろうかという予感。シリア領土は全部シリアのものだ、と。
Russian aircraft destroy IS economic infrastructure in Syria
http://tass.com/defense/969763