deep forest

師範の私小説世界です。
生まれてからこれまでの営みをオモシロおかしく備忘しとこう、という試み。

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120・学食

2016-12-28 18:37:00 | Weblog
 浅野川の流れる谷筋越しに、小高い卯辰山が赤く色づきはじめている。大きな窓から金沢の北一帯が見渡せる学食では、うどんの大盛りが150円程度、カレーライスが200円程度で食べられる。うどんはひどく薄味で、具といえばネギの端っこがひとつまみ入っているだけ。しかし、受け取り口の脇に置かれた揚げ玉は入れ放題なので、誰もがこいつをうどんの上に山と盛り上げ、七味唐辛子を10振りくらい掛けて、席に持っていく。学食の広さは、バスケコートの半分ほどだろうか。そこに、長テーブルが並行して置かれている。テレビで観る刑務所ものの食堂と同様の造りだ。テキトーに空いている席に座り、どこの誰ともわからないやつと対面で食べる。いつなんどき、鼻先にかわい子ちゃんが座るかもしれない可能性を持った方式だが、学内にかわい子ちゃんがいないと知れているわが校では、その期待もない。チカちゃんがピヨピヨと音を立てて現れないかなー、と待ってみるが、もちろんこない。
 学内においてギリギリかわいい、と言えなくもない層は、学食の片隅にある、カウンター式の喫茶コーナーに陣取っている。ここでは、トーストとコーヒー、などという舶来文化のランチが食せるのだ。日本画科の女子が好んで使う。カウンターの中には、関西のおばちゃんのようなかしましいおばちゃんがふたりいて、日本画女子に馴れ馴れしく接しながら、剣呑な目で彫刻科や油絵科の害虫を追い立てている。カウンターの奥の張り紙にある「あずきバー、50円」が、オレにとっては垂涎の品なのだが、なかなか恥ずかしくて買いにいけないでいる。この汚れたからだでは、あの花園には近づくことすらはばかられる。のちになってチャレンジに成功し、「一度買ってみたら、毎日買えるようになりましたっ」という、はじめて自転車に乗った子のようなハードルクリア感を得ることができたが、今はまだ難しい。とにかく、この喫茶コーナーは美しき令嬢たちの館とあって、敷居が恐ろしく高いんだった。
 そんな別世界を横目に、オレたちはダラダラに伸びきった素うどんをたぐる。石彫部屋の連中は丼の中に石粉を振りまきながら、木彫部屋のやつらはカツオ節のような木クズを落としながら、そしてわが塑像部屋の者はハシを土で汚しながら、一心にお湯のような汁をすすり込む。いよいよ彫刻展が近づいている。
 石彫場には、出展者から送られてきた彫刻作品が並び、床面積を占拠しつつある。公募に応じてくれた出展者は、140人近い。届いた作品は、重ねて積み上げたいところだが、もちろんそうはいかない。なにしろ素材が、石、木、鉄、石膏、それにブロンズときている。梱包もなく、むき出しのものも多い。多少の荷重でも壊れるとは思えないが、キズが怖い。なにしろ美術品だ。細心の配慮が必要だ。なのにこれらが、クソ重い。テコでも動かない、というものも多い。抱きかかえられるほどの大きさで、ざっと100キロ。裏側まで手が回らないほどのものになれば、軽く1トンを超えてくる。期日がきたら、これらを金沢市内各所に搬入し、設置しまくらなければならないのだ。まったく、なんという大変なイベントをおっぱじめてしまったことだろう。げんなりもするが、反面、ここまで極端な規模を目の当たりにすると、開き直ってワクワク感も盛り返してくる。やるしかないのなら、いっそ、たのしんだ方がいいではないか。
 事務作業と並行して、自分たちの展示作品の制作も進めなければならない。運営側の人間が、恥ずかしいものをお出しするわけにはいかないのだ。なにより、35000円の出展料に見合う価値のものをつくらないと、元が取れない。同級生たちの目の色も変わってきた。マッタニがえらいものをつくっている。負けられない。
 オレは、ならさん、のご利益にすがることにする。美しいモデルさんだ。あの通りにつくれさえすれば、観覧者の目を潤してくれることだろう。いろいろとこねくりまわした挙句に、トルソの彫像にすることにした。つまり、頭部や手などのディテールを取っ払って、人体を量(ボリューム)として捉えましょう、という半抽象表現だ。こいつで勝負をかける。ミロのヴィーナスや、サモトラケのニケを思い浮かべてもらえば、なんとなくわかってもらえるかもしれない。それを粘土でつくり上げ、石膏ではなく、コンクリートで型を取って、野外彫刻としての展示に耐えるものにする。なかなかいいものができた。先輩たちもすごいものをつくっている。彼らの作品には、「卒業制作」という意味も込められている。後輩たちもがんばっている。負けるわけにはいかない。季節は進み、後は本番を待つのみとなった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
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