【発光 武寧王陵にて】『南島』(1991年刊)P91
参加者:K・I、崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:崎尾廣子
司会と記録:鹿取 未放
◆423番歌のところで、参加者から「発掘は王の眠りを妨げる」という意見が出たが、今日読ん だ「邪馬台国大研究H・P」によると、武寧王陵が発掘される折、「王の眠りを妨げるな」とい うデモが発掘現場近くで行われたそうである。
425 王陵の闇より出でて松の葉の白き霧氷に息吐きにけり
(レポート)(13年12月)
「王陵」と「白き霧氷」とを対比させ、暗い王陵を出て現実へと引き戻されている様子が表現されているように思う。また「白き霧氷」に武寧王の葬送への思いを表しているのであろうか。結句で確かな今を感じると同時に、瞬時にして過去となる今を惜しむ思いを詠っているのであろう。日本の松を連想する松の葉の白き霧氷が印象に残る。
(記録)(13年12月)
★先生は見ている事物と交歓する手だてをきちんと示される。スイスでも深い谷底を見て飴を嘗
める歌があって、あれと同じ詠みぶり。(慧子)
★王陵を出てやっと息を吐いたのは、それまでは先生の気持ちも暗かったのだろう。(曽我)
★生理的に穴の中に入っていると閉じこめられているような気分になるから、出てきたらほっと
息を吐きたい気分になるのでしょうね。だからかなり身体的な感覚をいっているのかなと。も
ちろん、1500年ほどの時の隔たった時代の一端を見てきて、現代にいっきに感覚が戻る気
分というのは精神的にもちょっと混乱しますよね。(鹿取)
★「日本の松の葉を連想する」とありますけど、松は別に日本独特のものではなくて、中国にも
韓国にもヨーロッパにも普通にあると思いますが。確かに日本画や着物や帯の模様にも日本的
な素材としてとりあげられますけど、ここでは松によって日本を連想する必然性はないと思い
ます。(鹿取)
★この武寧王は日本の出身と言われているから、それでじゃない?(曽我)
★そこまでこの歌では考えていないと思うけど。一連に武寧王の生まれに関する歌は出てきます
が。(鹿取)
★白い霧氷に白い息、と白いものに白いものを重ねるのが先生のやり方。(慧子)