薄墨町奇聞

北国にある薄墨は、人間と幽霊が共に暮らす古びた町。この町の春夏秋冬をごらんください、ショートショートです。

陶枕の美女

2008-08-21 23:13:57 | 本笠寺
陶枕、〈とうちん〉と読む。
陶製の枕で、中が空洞になっていて熱がこもらない。
硬いし高さがあるので、長時間これで寝ると首が痛くなるが、さっと短時間で切り上げる、夏の昼寝には重宝する。

久しぶりで本笠寺に遊びに行くと、本堂脇の畳間に、この陶枕が5個も並んでいた。
いったい何なのだろうと首をひねっていると、
「庫裡の裏に物置部屋があってな、古いがらくたが山ほどあるのよ。盆前に掃除したら、奥からこったらもんが出てきたんだ」
別に値段の張るお宝ではない。
大正か昭和の始め頃のガラクタだ、と住職は笑った。

それにしても陶枕5個とは、数が多すぎる。
なぜこんなにあるのだろうと思ったが、
「なんも、昔はこの寺にも人が多かったんだ。めいめい昼寝に使ったのせ」
なるほど。
この寺の人々は、夏に渡り廊下や庫裡の裏座敷など思い思いの場所で、陶枕を置いて、つかの間、ごろりと横になったのだろう。

「なかにはな、見ろ、おもしろいものがあるんだ」
住職がなかのひとつを手にとった。
藍色で透垣と流水を描いた大ぶりの陶枕。
その脇穴に指を入れ、中から何かをとりだした。
それは。
しわくちゃの色あせた写真。
広げると、色あせた芸者らしき女のプロマイドだった。
「いったい誰がかくしたんだかなあ。芸者の写真を枕に寝たとは、さすが俺のご先祖だな。祖父さまか、曾祖父さまか」

三味線のバチを手に芸者とおぼしい女が、周囲をぼかした写真のなかで婉然と微笑んでいる。
何十年か、陶枕の中で眠りつづけた美女に、住職はしばらくは見惚れていた。



ジャンル:
小説
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