薄墨町奇聞

北国にある薄墨は、人間と幽霊が共に暮らす古びた町。この町の春夏秋冬をごらんください、ショートショートです。

似我さん

2008-03-18 23:59:00 | 薄墨町
薄墨の風流人として知られていたのが、吉田似我。
前に、彼の雪わらしの句を紹介したことがある。

薄墨屈指の海産問屋に生まれ、秀才の誉れ高かったという。
早稲田大学の英文学中退。
そう、白秋と同じ。
宇野浩二と同じ。
三上於菟吉と同じ。
まあ、昔よくいた文学青年だったのだろう。

しばらくは東京で同人誌などを出していたが、やがて体をこわして帰郷。
東京では、モダンな小説や戯曲などを書いていたそうだが、薄墨に戻ってからは、そうした西欧志向はすっぱりと捨てている。

そうした変化は、薄墨図書館に残る彼のポートレートにもあらわれている。
若いころの、東京で撮影したと思われる1枚は、派手なボヘミアンタイを結び、マンドリンを抱えている。
なかなかの美青年だ。
それが、老いてからの写真になると、がらりと変わる。
見事にはげあがった、田舎者丸出しの爺さま。
浴衣の前をだらしなくはだけて、縁側に座って煙草を吸っている。

まあ、人間、変われば変わるものだ。

しかし、どちらの写真が好きかと問われれば、薄墨の人間の大半は、晩年の写真を選ぶのではないか。
いかにも薄墨の年寄りらしく、邪気がなく、気取もない。
この地の人々に、愛されてきた「似我さん」である。

似我さんは、「薄墨のくらし」「薄墨要文集」などの郷土史研究書のほかに「仕舞棚」などの句集も残している。
煙草と饅頭と、野良犬が好きな爺さまだったという。
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