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金正恩はいつか国際法廷で裁かれる? 北朝鮮の人権侵害に対し国連で処罰決議採択

2014-11-20 18:46:47 | 北朝鮮のもろもろ
 昨日(11月19日)NHK(→コチラ)その他のメディアで伝えられた通り、18日国連総会の人権問題を扱う第3委員会で、北朝鮮での深刻な人権侵害が国際法上の「人道に対する罪」に当たるとして、国際刑事裁判所(ICC)に付託して責任者の処罰を求める決議案が出席185ヵ国中111ヵ国の賛成で採択されました。 反対は中国、ロシア、イラン、ビルマ(ミャンマー)など19ヵ国、棄権は55ヵ国でした。
 決議案はEUと日本が起案し、60カ国が共同で提出したものです。
 
北朝鮮の人権侵害問題に対するこれまで国連の取り組み[須田洋平弁護士の講演より]

 先週12日、アムネスティ日本東京事務所で開かれた須田洋平弁護士の講演によると、北朝鮮の人権侵害問題に対するこれまで国連の取り組みはおよそ次のようなものでした。

 公開処刑、政治犯収容所での拷問や強制労働、そして拉致問題等々、北朝鮮の人権問題は周知のように以前からありました。
 衛星写真で収容所の存在が知られるようになり、そこで嬰児殺しがあるとも伝えられて、欧米でも問題として取り上げられるようになったのが2002~03年頃です。そのような中で、2004年国連人権委員会(国連人権理事会の前身)では北朝鮮の人権状況を懸念する決議が通ってこの問題が重要なテーマに設定され、以後「特別報告者」に任命されたムンタボンさん(タイ)が2010年まで毎年報告をすることになりました。
 しかし北朝鮮はムンタボンさんの入国を拒否したため、彼は周辺国で調査をして報告書を書いてきました。その2010年の最後の報告書では、北朝鮮には「組織的な国家による人権侵害」があり、またその「責任者の追及が必要」とするなど、一段と踏み込んだ表現になっている上、「「人道に対する罪」に関する調査委員会を立ち上げよ」とも提言しました。これが以後運動が盛り上がるきっかけになったのです。
  調査と事実認定がこの調査委員会の役割で、聞き取りを中心に調査をして報告書にまとめ、その原因や責任を明らかにして国際社会に提言をします。この調査委員会の報告は、先の特別報告者による報告よりも国際世論への影響力がはるかに大きいものです。

 北朝鮮の人権侵害に対する調査委員会の設置に大きな役割を果たしたのが2011年9月に東京で結成されたICNKです。これはアムネスティ・インターナショナル、ヒューマンライツ・ウォッチ、FIDHをはじめ世界各地の40団体で構成された際NGOの連合組織です。
 以後ICNKは、北朝鮮における「人道に対する犯罪」を調査・査察する国連調査委員会(COI)の設立を求めて世界各国でロビイングを続け、その結果2013年に人権理事会の決議で調査委員会が設立されました。

 2013年夏から調査委員会の調査が開始されました。委員はマイケル・カービーさん(オーストラリア.委員長)、ムンタボンさんの後を受けて特別報告者となっていたマルズキ・ダルスマンさん(インドネシア)、そしてソーニャ・ビセルコさん(セルビア)の3人です。
 ところが北朝鮮は聞き取り調査のための入国を認めず、脱北者の送還等で北朝鮮に加担している中国も協力を拒否したため、日本・韓国・アメリカ・イギリスで公聴会を開いて脱北者や専門家の話を聞いたほか、多くの拉致被害者や脱北者がいるタイでも現地調査が行われました。
 このような過程を経て、今年2月調査報告書が公表され、3月に正式に人権理事会に提出されました。その調査報告書は→コチラで見ることができます。このリンク先の最初にある<Report>のリスト上段は36ページの概要版、下段は372ページの詳細報告書です。ただ、前者は英・仏・スペイン・露・中・アラビア語の6ヵ国語、後者は英語だけです。
 また、外務省の公式サイト内に「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)最終報告書」というページがあり、その「本文(英文)及び和文仮訳」、「詳細版の拉致問題関連部分仮訳」、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会ウェブサイト」とのリンクが張られています(→コチラ)が、とくに、「本文(和文仮訳)」はぜひ目を通してほしいと思います。(→コチラ。)
 これには、数々の人権侵害が列挙されているばかりではなく、調査に対する北朝鮮当局の非協力や、国外居住者さえも北朝鮮当局の監視や報復を恐れて証言をためらうことが調査の大きな障害となったと記されています。

※本ブログでは今年2月の<国連・北朝鮮人権調査委員会の報告書にある全巨里教化所の衝撃的なイラストについて>と題した過去記事(→コチラ)で調査報告書の内容の一部を紹介しました。

調査報告書(今年2月公表)の衝撃的な内容と、ICCへの付託を求める厳しい提言

 調査報告書の内容について、日本ではとくに拉致問題に焦点が当てられて大きく報道されました。しかし北朝鮮国内の住民に対しても「人権侵害のデパート」ともいうべき重大な人権侵害が数多くあることが記されています。また、それらが最高指導者の意思の下で、あらゆる国家組織が関わっているとされています。つまり北朝鮮の人権侵害は北朝鮮の現体制と不可分一体のものであるということです。
 公開処刑のような殺人、政治犯収容所での強制労働(奴隷行為)や拷問・拘禁・性的暴力等の他、「絶滅させる行為」についても報告書では言及されています。これは「食料や医療へのアクセスを妨げて人を死に追いやる行為」のことです。収容所での餓死の事例だけでなく、1990年代、深刻な食糧難に陥っているのに国際社会からの援助を断ったことは国民一般に対する「絶滅させる罪」に当たるのではないかということが示唆されています。調査委員会は「北朝鮮は、食料を国民統制の道具として使っている」と言い切っています。
 強制失踪に当たるのが拉致問題です。また北朝鮮国内である日突然に収容所送りになってしまうのも強制失踪です。日本人政府は17人が拉致され、うち5人が帰国したとしていますが正確な数はわかっていません。(警察の発表では883人が拉致された疑いがあるといっています。) 調査報告書は、詳細な調査の結果100人以上の拉致被害者がいると記しています。
 報告書で脱北者についても言及しています。中国に多くいる脱北者は基本的に難民であり、中国はノン・ルフールマン原則にしたがって彼らを拘束して北朝鮮に送還すべきではないとしています。
 このように、一般国民(や外国人拉致被害者)を対象とした、組織的で広汎な人権侵害が行われているという点で「人道に対する罪」が成立するとして、報告書では安保理が北朝鮮の人権問題をICCに付託するか、または特別裁判所を設けることを提言しています。
 3月、人権理事会は国連総会に対してこの調査報告書を安保理に提出することを求めました。つまり、北朝鮮の人権問題のICCへの付託あるいは特別裁判所の設置です。
 調査報告書によれば、かりに安保理でICCへの付託や特別裁判所の設置が否決されたとしてもそれで終わりではなく、国連総会で特別裁判所の設置を決めることができます。

拉致問題も、北朝鮮国内の問題など数多くの人権侵害のひとつとして訴えるべき

 以上が前述のICNKにも設立時から関わってきたという須田洋平弁護士の講演の要旨です。北朝鮮人権問題に対する国連のこの約10年の流れの現在の状況がよくわかる内容でした。
 とくに私ヌルボが共感を覚えたのは、次のような提言です。
 拉致問題について日本政府は積極的にアピールすべきですが、その際日本人の拉致のみを強調するのでなく、まず北朝鮮国内で人権侵害を受けている人たちを助けるべきこと、そしてヨーロッパや東南アジア等の多くの国に拉致被害者がいることを広く訴える必要があります。それがより多くの力を結集することにつながります。

 北朝鮮のさまざまな深刻な人権侵害は、政治的立場以前の問題だと思います。

    「脱北者・申東赫(シン・ドンヒョク)氏の証言は捏造」だって!?
北朝鮮の必死の「逆宣伝」も通じず、非同盟諸国の多くも決議案賛成に回る

 さて、上述のような経緯を経て、今秋に入り国連で北朝鮮の人権問題のICCへの付託が現実の課題となると、北朝鮮の動きが「活発化」してきました。
 11月17日の朝日新聞は「北朝鮮、異例の国連外交 DVD配り「人権侵害ウソ」」との見出しの記事を掲載しました。(→コチラ。)
 その記事によると、「国連総会第3委員会では今週にも、安全保障理事会に北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう促す決議案が採決される見通し。最高指導者の責任にも触れる決議案が総会を通るのを何としても避けたい北朝鮮は、異例の対話姿勢に転じた」とのことで、北朝鮮国連代表部は10月7日に独自の人権報告書を配布して人権問題の存在を否定し、また「嘘と真実(Lie and Truth)」と題するDVDも配布しました。「米国と悪意に満ちた勢力が、我が国に存在しない人権侵害を子どもじみた策略で広めている」と訴え、脱北者の申東赫(シン・ドンヒョク)さんの実父とされる男性等が「収容所で暮らしたことはない」などと証言を否定する映像が流れるというものです。
 ※申東赫さんについては→コチラと→コチラの過去記事を参照のこと。 
 この「嘘と真実」の動画は、北朝鮮の公式サイト<ウリミンジョクキリ(わが民族同士>中の→コチラの記事で見ることができます。(英語字幕付き) また、YouTubeにもアップされています。→1・→2
 この動画については、10月31日の毎日新聞の記事「東アジアの気になるあれこれ:対外宣伝用動画から見える日朝協議の困難」(→コチラ)に詳述されています。
 また11月6日BLOGOSには、「北朝鮮メディア:人権問題について脱北者の「うそ」を暴く動画を公開」との見出しのついた新華ニュースが翻訳・掲載されています。(→コチラ。)
 そして11月19日韓国紙・東亜日報にはファン・ホテク論説委員の「シン・ドンヒョクは捏造か?」と題したコラム(韓国語)が掲載されています。(→コチラ。) それによると申東赫さんはFACEBOOKで動画中の人物が父であることを認めつつ「北朝鮮が父を人質にした」と非難しているとのことです。コラムは申東赫と国家情報院に北朝鮮に具体的に反論せよと述べています。
 「最高尊厳」の訴追(&人権問題の解消→体制の破綻)をなんとか阻止しようという北朝鮮側の「逆宣伝」は結局実を結ばす、冒頭に記したように国際刑事裁判所(ICC)に付託して責任者の処罰を求める決議案は採択されました。北朝鮮に好意的だった非同盟諸国の相当数も賛成票を投じたそうです。

安保理の見通し等、今後の展開はどうなる?

 今回の国連決議について、韓国メディアの中では、進歩陣営の代表紙「ハンギョレ」がICC付託の部分を除いたキューバによる修正案(否決された)のことも含め詳しく報じているのが注目されます。(→コチラ.日本語版。)
 一方、保守系3紙はいずれも今日20日の社説でこのニュースを取り上げています。→「朝鮮日報」「東亜日報」「中央日報」(いずれも日本語版)で、「韓国政府も北朝鮮人権に関連した韓国の役割と責任をしっかり検討して、必要な戦略と措置を用意しなければならない。人権弾圧に対する沈黙は、結果的に擁護と変わらないというのが国際社会の見解だ」(「中央日報」)と政府に注文をつけたり、安保理で反対するとみられる中国とロシアに対して「両国は、北朝鮮をかばう前に人権の普遍的価値と北朝鮮住民の苦痛を考えなければならない。人権は決して他国が干渉できない一国の内政問題と見ることはできない」(「東亜日報」)と牽制している点は3紙に共通しています。
 また「朝鮮日報」はこの社説で、また「東亜日報」は→コチラの記事で、10年間も韓国内で棚上げ状態のままで成立をみていない北朝鮮人権法について言及しています。
 北朝鮮の劣悪な人権の現実に厳しく対応しようとする保守陣営に対し、「人権問題の提起は南北関係に否定的な影響を及ぼす」と反発し、南北間の対話や人道支援の活性化を通じて人権状況の改善を図ろうというのが進歩陣営。その両者の対立でここまで平行線をたどってきたというものです。
 上述した調査委員会のマイケル・カービー委員長は、実態調査後の2013年11月、「東亜日報」の取材の場で「北朝鮮の人権に対する韓国の無関心にがっかりした」と述べました。(→コチラ参照(日本語)。)
 今回の国連の決議が、はたして韓国の世論になんらかの影響を及ぼすでしょうか?(かなり疑問・・・。)
 今後、安保理の常任理事国の中国やロシアがどう出るか注目されるところですが、上述のように安保理で否決されたとしても国連総会で特別裁判所の設置を決めることができるとのことですから、この問題は長く続きそうです。
 なお、ICCは規定では2002年7月1日以降の犯罪しか裁けないとされているそうです。ということはそれ以前の拉致事件等は裁けないということなので、特別裁判所を作った方がいいのではと、須田洋平弁護士は語っていました。

※蛇足、かな?
 講演の後の質疑で、韓国人留学生という方から「現地調査のない中で、脱北者の証言の信頼性はいかに確保されるのか?」といった質問がありました。
 「脱北者の証言」や「元慰安婦のハルモニの証言」等への信頼度は、聞く人の「政治的立場」によってずいぶん違ってくるんだろうな、と思った次第です。(この方は「政治的立場」と関係なく質問したのかもしれませんが・・・。)

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