小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

マネーの虎(上)

2015-12-10 21:23:54 | Weblog
マネーの虎

ある時の、「マネーの虎」である。
番組に出た社長たちは、今回は、堀之内九一郎、貞廣一鑑、加藤和也、高橋がなり、南原竜樹、の5人だった。
一人の女が入ってきて、社長たちと、向かい合った。

吉田栄作「いくらを希望しますか?」

女「はい。一千万円を、希望します」

吉田栄作「そのお金の使い道は?」

女「NYスタイルのハウスウェアショップを開きたいと思っています」

女「実は、私は、1991から1999までの8年間、NYの金融業界で、ファイナンシャル・プランナーをしていました。その時、日本に無い分野があることに気がついたんです。それは、Bed&Bath&Beyond。といって、Beyondは、周辺の、という意味です」

高橋がなり「具体的には、どんな事なんですか?」

女「バスローブ。バスマット。ピロケース。などで。特に私は、タオル地を用いたリネン用品を売るハウスウェアショップを開店したいと思っています」

堀之内九一郎「あなたがやるようなものは、今の日本には無いのですか?」

女「確かに、海外のラルフローレンなどは、あります。しかし現状では、ニーズに合ったものはないというのが、現状です。特に私は、20代から30代の、丸の内近辺の、エグゼリーナと呼ばれるOLを対象にしたいと思っています。かつて、芦屋ジェンヌ。シロガネーゼ。セレブ。などが、流行の牽引になったように、エグゼリーナの間で広まれば、それが、主婦たちにも、飛び火して、広まってくれるのではないか、と思っています」

南原竜樹「ブランドは、決まっているんですか?」

女「ありません。日本のオリジナルでやります。ですから、プライベートブランドということになります」

堀之内九一郎「日本人は海外のブランド嗜好だから、買うのであって。はたして、売れるんでしょうかね?」

女「アメリカやフランスのタオルは、日本の気候に合わないんです。日本は、湿度が高いですし、乾きにくいですから」

高橋がなり「僕、一度、ゴルフショップ、やったことがあるんですよ。それは、かなり、いい所で、やって。でも、オリジナルでやってしまって、売れなくて。あの時、仕入れていれば、それなりに売れていたんではないか、と、今だに後悔しているんです。石川さんは、オリジナルでやる、難しさは、知っていますか?」

女「私は、四国のタオル・メーカーを見学したりして、生地。特性などを、勉強したつもりです」

南原竜樹「日本で作るとコストが高いですよね?」

女「日本のタオル・メーカーは、世界一の品質といっても過言ではないんです。去年、四国タオル工業組合が、バスカテゴリーで、NYテキスタイル賞をとりました。これは、グッドデザイン賞にも匹敵するものなんです」

貞廣一鑑「石川さん。あなたは、サファディーは、どう思いますか?」

女「サファデーは、英国のブランドで、ロマンチックで色が豊富です。しかし、NYは世界の中心で、皆、意識していると思うんです」

加藤和也「かなり、ハイソな人を対象にしているようですね」

南原竜樹「でも、それは、趣味の物ですよね。それに、高級パジャマとか、エステティックサロンとか、そういう方向に、女性が、お金を使う傾向は、間違いなく、右肩上がりになっていますよね」

南原竜樹「商品の大体の単価、を教えて下さい」

女「バスタオル一枚、2500円です」

南原竜樹「高いですね」

女「そんなに高くはないと思います。品質から言うと。ブランド物の高級タオルでは、一枚、6000円のもあります」

堀之内九一郎「サンプルとか、ないんですか?」

女「これは、まだ試作段階なんですけど・・・」

(と言って女、は、上着を脱いで、持参した、自作の、バスローブを着た。それは、バスローブに、大きなバスタオルのフードのついた物だった)

女「これは、バスローブに、バスタオルくらいの大きさのフードをつけてみたものです。こうすると、体を拭くという作業と、髪を乾かす作業が、一つで済みます。また、女の人は、濡れた髪のままで、ベッドに横になると、ベッドが濡れるのが嫌だという人が多くて、回りの女性たちに大変、好評でした」

高橋がなり「仕入れ原価は、いくらですか?」

女「2500円です。それを8000円で売りますから、30%です。」

南原竜樹「ちょっと、質問があります。あなたは、今、何をしているのですか?」

女「はい。今、この事業の準備をしています」

南原竜樹「では、ファイナンシャル・プランナーの時の、年収はいくらでしたか?」

女「はい。7万ドルです」

南原竜樹「NYで、一千万円ほどの年収があったんですね。素晴らしいですね。ちなみな、石川さんは、新聞は、何を読んでいますか?」

女「はい。日本経済新聞です」

南原竜樹「あなたは、非常に優れています。今まで出てきた志願者の中で、一番、能力があり、優秀だと思います。私は、高く評価します」

高橋がなり「アイテム一覧は、ありますか?」

(女は、店の売り上げの計画書を皆に渡した。社長たちは、みな、すぐに、それを見た)

堀之内九一郎「これを見ると、大変な利益の出る会社ですね。4期で、五億八千万円?。経常利益、三億?。これは、たいへん御無礼ですが、完全な絵空事だと思います。まあ、この計画の二割もいけば、いいところだと私は、思っています」

南原竜樹「会社を株式で、公開することは、考えていますか?」

女「はい」

堀之内九一郎「サラ金で、借りても、儲かるじゃないですか」

南原竜樹「それも、眼中に入れていると・・・」

女「はい」

南原竜樹「こういう計数計画がしっかり、出来ている。というのは、素晴らしいですね。ですから、これは完璧だと私は思います」

堀之内九一郎「ちょっと待って下さい。タオルを売って、こんなに、儲かるなら、私は、自分でやる」

南原竜樹「でも。彼女は、それで、儲かる仕組みを考えているのですから・・・」

堀之内九一郎「私は、今までに、250人くらい、創業させたことがあるんですよ。その中で、一番、失敗するタイプなんですよね。頭がいい。理屈が上手い。過去に給料が良かった。いい会社に勤めていた。計算が上手い。海外経験が長い。すべて、失敗する、要素なんですよ」

南原竜樹「それは、堀之内社長と、反対の人だから、じゃないですか?」

高橋がなり「石川さん。部下、持ったこと、ありますか?」

女「はい。ファイナンシャル・プランナーの時には、アシスタントはいました」

高橋がなり「たとえば、5人の部下、を持って、その成績の責任を、自分が取るような経験はありますか?」

女「そういうのは、ないです」

高橋がなり「この人が、部下のデキの悪い社員を教育できるか。といったら、自分が出来た、という場合、余計、難しい場合があるんですよ。あなたは、何事においても、全部、いい方ばかり、見ているんですよ。それを、雰囲気で感じるんですよ。この人、失敗するなって」

女「でも、数値の達成の方は、体張ってでも達成したいと思っています」

南原竜樹「高橋さん。論破されていますよ」

高橋がなり「いや、私。ぜんぜん論破されていないですよ。この人に何、言っても無駄だと思っているだけですよ」

貞廣一鑑「絶対、という言葉を使ったら、いけない、と云われていますが。僕、使いますよ。絶対、無理です。たとえば、一千万円、借りて事業が失敗したら、どうしますか・・・。死ねます?」

女「(小さな声で)は、はい」

貞廣一鑑「実は、私の伯父が、300万の借金で自殺したんですよ。ホントに机上の空論ですよ。商売なんて、1ポイント失敗したら、アウトですから」

南原竜樹「いや。彼女の悧巧さは、我々が思っている以上に、悧巧だと私は思っています」

堀之内九一郎「南原社長。彼女は、確かに悧巧だけれど。経営者としての悧巧さ、は無いですね」

高橋がなり「僕も、彼女は、マニュアルで覚えることは、上手いけど、未知の世界での能力は、どうかと思いますね」

堀之内九一郎「優秀なコンピューター、という感じがしますね」

高橋がなり「人をだまして、儲けたいという顔もしていない、ですし・・・」

女「確かに、頭でっかちで、現場を知らない、というのは、私の欠点だと思います。ですから、失敗するタイプにならないように、自分を変えていきたい、と思っています」

南原竜樹「こうやって、テレビに出たのは、テレビで宣伝して、番組を、うまく使おうと考えたからですか?」

女「(泣きだす)いえ。そんな気は全然、ありません。私。タオル・メーカーとか、金融機関で動くことを、考えていたほどですから・・・。本当はテレビには、出たくなかったんです」

高橋がなり「南原さん。資本を出して。って、ことは、要するに採用する、ということじゃないですか。じゃあ、南原さんが出資して、彼女にやらせてみたら、どうですか?」

南原竜樹「ええ。それは、本気で考えていますよ。事業に失敗した時、我が社に就職する気はないのか、と。優秀な人材は高い、お金を払って採用する。というのは、当たり前ですから。その採用のコストだと考えれば、十分、価値があると思っています」

高橋がなり「石川さん。もし、会社つくって、倒産させたとしたら。どうしますか。南原さんの会社の、ある部門で働いてくれって、言われたら、働きますか。それとも、あなたは、自分が経営者になることにこだわりますか?どっちですか」

女「(しばし迷ってから)就職することは、考えていません。もちろん、失敗しないように、努力しますが、仮に、失敗したとしても、私は、事業を、あきらめません。大袈裟な言い方かもしれませんが、私は、自分の人生の情熱を事業というものに、注ぎたいと思っています」

南原竜樹「でも、その答えも、素晴らしい。あなたは、私の力を借りなくても、乗り越えられる能力があると思います」

吉田栄作「では。社長たちの合計額が、あなたの希望金額に達しなかったので、今回は、ノーマネーでフィニッシュ・・・」
と言おうとした時。である。

高橋がなり、が、
「吉田さん。ちょっと待って下さい」
と言った。
「どうしたんですか?」
吉田栄作が聞き返した。
「ちょっと、考えが、変わりました。私が全額、出します」
と、高橋がなり、が言った。
皆は、目を白黒させて、高橋がなり、を、見た。
「高橋社長。一体、どうした気の変わりよう、なのですか?」
堀之内九一郎が聞いた。
もちろん、否定派の、貞廣一鑑、加藤和也、そして、唯一の肯定派の、南原竜樹も、驚きの目で、高橋がなり、を見た。
「こんな事業、絶対、失敗しますよ。それは、あなただって、認めていたではないですか?」
堀之内九一郎が、唾を飛ばしながら、勢い込んで言った。
女も、高橋がなり、の気の変わりように、目を白黒させて、動揺している。
「まあ。いいじゃないですか。ともかく、ちょっと、ある思う所があって。僕が、一千万円、全額、出します」
と、高橋がなり、が、皆をなだめるように言った。
司会の吉田栄作も、驚いて、しばし、戸惑った。
しかし、ともかく、契約が成立したので、司会の吉田栄作は、気を取り直して、
「では、あなたの、希望金額が達しましたので、契約成立です」
と言った。
女は、訳が分からない、といった顔つきで、ともかく、立ち上がって、高橋がなり、の前に行った。
「石川さん。頑張って下さい。どうか、事業を成功させて下さい」
と、高橋がなり、は、笑顔で、一千万円の札束を、女に手渡した。
女は、ともかく、
「あ、ありがとうございます。事業は、必ず、成功させます」
と、言って、一千万円の札束を、受け取って、高橋がなり、と、硬い握手をした。
皆は、高橋がなり、の気の変わりように、訳が分からないので、拍手は起こらなかった。
しかし、ともかく、女は、NYスタイルのハウスウェアショップの開店資金、一千万円を手にしたのである。
こうして、番組は終わった。
社長たちは、ゾロゾロと、帰っていった。

楽屋で、女は、高橋がなり、に、再度、礼を言った。
「高橋さん。ありがとうございます。でも、どうして、急に、出資してくれる気になったんですか?」
女が聞いた。
「まあ、いいじゃないですか。理由なんて。それより、石川さん。自信のほどは、どうですか?」
高橋がなり、が聞いた。
「もちろん。絶対の自信があります。必ず、成功させます」
女は、自信に満ちた口調で言った。
「そうですか。僕は、あなたの、その自信を買ったんです。では、出資した、一千万円は、返してくれるんですか?」
高橋がなり、が聞いた。
「ええ。もちろん、事業が軌道に乗ったら、売り上げの中から、貸していただいた、一千万円は、利息をつけて、お返しします」
と、女は、自信に満ちた口調で言った。
「いえ。利息は、要りません。その代り、貸した、一千万円は、返して頂きたい。では。一応、念のために、契約書にサインして頂けないでしょうか?」
そう言って、高橋がなり、は、紙を出した。
女は、自信満々だったので、
「わかりました」
と言って、紙切れに、
「私。石川かおり、は、高橋がなり様に一千万円、お借りいたしました。事業が、軌道に乗ったら、全額、お返しします」
と書いて、母印を押した。
「ありがとうございます。私も、あなたの事業を応援します」
高橋がなり、は、嬉しそうに女に言った。
そして、二人は、別れた。

女は、さっそく、翌日から、NYスタイルのハウスウェアショップの開店の準備にかかった。
銀座の一等地にある、ビルの一室を、不動産屋に頼んで、獲得した。
内装をNYスタイルにした。
試作段階だった、フードつきのバスローブも完成させた。
ネットでも、広告を出した。四国のタオル・メーカーに、頼んで、オリジナルの、フードつきのバスローブを大量に作ってもらった。
準備は、万端に整った。

そして、彼女は、店をオープンした。
自己資金と、高橋がなり、から貸してもらった、一千万円の資金を、すへて、店の費用に使ったので、もう、あともどりは、出来ない。
しかし、彼女は、絶対の自信があった。
彼女の計画では、一日、200人は、来店する予定だった。
そして、一日の売り上げは、300万円くらいに、なるはずだった。
確かに、オープンした日には、客の入りは良かった。
「いらっしゃいませー」
女は、愛想よく挨拶した。
客は、予想した通り、金持ちそうな女が多かった。
しかし、客は、店の中を、珍しそうに見るだけで、結局、何も買わずに出ていった。
(これは、新しい店が出来たから、興味本位で、銀座に来たついでに見ているだけだわ)
女は、それを知った。
女は、自分の作った、フードつきのバスローブは、一度、着てみれば、絶対、気に入って、買ってくれるという、絶対の自信があった。
それで、もっと、積極的に、商品をアピールするようにした。
客が来ると、「いらっしゃいませー」と、挨拶すると、同時に、すぐに、商品の説明をした。
女は、フードつきのバスローブを、自ら着て、
「こうやって、風呂から出た後に、着て、髪をふくと、ベッドに横になっても、ベッドが、濡れることは、ありません」
「ちょっと、値段は高いかもしれませんが、これは、吸湿性が良く、とても、快適です」
等々。
そして、客にも、頼んで着てもらった。
「どうですか?」
女が聞くと、客は、
「これって、ブランドは、どこですか?サファデー?それとも、ラルフローレン?」
と、聞き返してきた。
女は、返答に窮したが、自信を持って、
「ブランドはありません。でも、とても、着心地はいいです」
と、懸命に説得した。
しかし、客は、不機嫌な顔をして、
「ブランド物じゃないんじゃね」
とか、
「実用的には、いいかもしれないけれど、こんな、大きなフード、がついていたら、格好が悪いわ。彼氏も見ているし」
とか、
「無料で試して着てみるなら、いいけれど、8000円も出してまで、買う気にはならないわ」
とか、みな、否定的な返事ばかりで、買う客はいなかった。
女は、あせった。
(こんなはずでは、なかったはずなのに。なぜ売れないのかしら)
宣伝が足りないからだわ。
そう思って、女は、多くの、女性週刊誌に、大金を払って、広告を載せてもらった。
しかし、客はやって来ない。
やって来ても、買わない。
女は、あせった。
二ヶ月過ぎ、三ヶ月過ぎても、全く、売れなかった。
かろうじて、中学、高校の同級生や、親戚に知らせたら、友達や、親族のよしみで、買ってくれたが、一般の客は買ってくれなかった。
女は、あせった。
そして、ふと、あることを、思い出した。
それは、ファイナンシャル・プランナー時に、アシスタントの、筒井順子が、女が、作った、フードつきのバスローブを、「グッド・アイデア」と、満面の笑顔で、誉めてくれたことである。
その誉め言葉が嬉しくて、女は、NYスタイルのハウスウェアショップを日本で開店させようと、決断したのである。
それで、女は、アメリカの、筒井順子に電話してみた。
電話をすると、すぐに、元アシスタントだった、筒井順子が電話に出た。
「順子。あなた、私のフードつきのバスローブ、とっても良いって言ってくれたわよね」
「ええ」
「でも、売れないの。どうしてかしら?」
「石川さん。正直に言うわ。私。本心では、あれ。ダサいと思っていたの。でも、それを、言うと、あなたが傷つくから、本心は言えなくって。良いって言ったの」
「ええっ。そうなの?」
「ええ。まさか、本当に、あれで事業をするなんて、思ってもいなかったの。ごめんなさい」
そう言って、筒井順子が電話を切った。
女の頭は、真っ白になった。
アシスタントの褒め言葉は、本当だと、女は信じていたからである。
女は、がっくり、と、肩を落とした。
その時、女に、また、ふと一人の人物が頭に浮かんだ。
「マネーの虎」の番組の時、彼女を徹底的に、コケにした、堀之内九一郎、貞廣一鑑、加藤和也、高橋がなり、に対し、一人だけ、自分を認めてくれた、南原竜樹の存在である。
女は、藁にもすがる思いで、南原竜樹の意見を聞いてみようと、電話してみた。
そうしたら、南原竜樹は、こう言った。
「石川さん。僕は、あなたのNYでの、経歴を聞いて、あなたを敬愛するようになってしまったのです。僕には、あなたのような、素晴らしい経歴がないものですから。それで、皆が、あまりにも、あなたを、ひどく言うものだから、つい、せめて、僕一人くらい、あなたを、認めてあげたいと思ってしまったんです。本心を言うと、事業は、僕も成功するとは思っていませんでした」
女は、頭をハンマーで殴られたような気になった。
ここに至って、女は、やっと、自分の事業が失敗だったことに気がついた。
なんせ、三ヶ月、必死に、売り込みしても、買ってくれる客は一人もいなかったからである。
堀之内九一郎、や、貞廣一鑑の、「絵空事」だの「机上の空論」だのの言葉が、ただでさえ、焦っている彼女の頭をよぎっていった。
ついに、彼女は、店を閉じる決断をした。

彼女は、店を閉じた。
売れないことは、もう、確実なのだ。
ならば、銀座の一等地のビルなどという、目玉が飛び出るほどの、テナント料は、即刻、中止した方がいい。
しかも、資金を全て、使ってしまった上、多くの、女性週刊誌に、大金を払って、広告を載せてしまったのである。
彼女には、一文無しになり、銀行に、必死で、お願いして融資してもらった、多くの女性週刊誌への広告料の、債務だけが残った。

しかし、彼女に一つの疑問が残った。
なぜ、「マネーの虎」の、番組中では、否定的だった、高橋がなり、が、最後に、突然、態度を変え、出資したのか、ということである。
これは、どう考えても、わからなかった。

都内のマンションに住んでいた彼女は、埼玉県の、家賃3万円の、安アパートに引っ越した。
彼女は、高橋がなり、に、おびえていた。
大見栄をきって、自信満々なことを言ってしまったからだ。
そして、それが失敗してしまったからだ。
失意で無為の日が続いた。
彼女の、毎日の、食事は、コンビニで、値段の割に、カロリーのあるものになっていた。
一日の食費は、500円、以内に抑えた。
彼女は、高橋がなり、に、おそれると、同時に、彼に会ってみたいという気持ちも、起こってきた。
理由は、全くわからないが、高橋がなり、は、彼女に、一千万円、投資してくれたのである。
しかも、笑顔で、「頑張って下さい」と言って、握手まで、してくれたのである。

無為の日を続けていても仕方がない。
彼女は、勇気を出して、高橋がなり、に、電話してみた。
トルルルルッ。
「はい。高橋がなり、です」
高橋がなり、が電話に出た。
「あ、あの。い、石川です。マネーの虎で、NYスタイルのハウスウェアショップの開店資金、一千万円を、出資していただいた・・・」
女は、高橋がなり、が、どう出るか、わからず、おそるおそる聞いた。
「やあ。石川さんですか。久しぶりですね。店は繁盛していますか?」
高橋がなり、が聞いた。
「あ、あの。誠に申し訳なく、言いにくいのですが、事業は、失敗してしまいました」
彼女は、勇気を出して言った。
「ええ。それは、知っています。この前、銀座に行った時、あなたの店が閉店して、テナント募集、の広告が貼ってありましたから」
高橋がなり、の、口調は、落ち着いていた。
そのことに、彼女は、ちょっと安心した。
「今、何をしているんですか?」
高橋がなり、が聞いた。
「埼玉県の、安アパートに引っ越して、これから、どうしようかと、迷っています」
女が言った。
「そうですか。もし、よろしかったら、一度、お会いしませんか?」
高橋がなり、が、聞いた。
「は、はい」
「明日で、よろしいですか?」
「は、はい」
女は、これから、どうしようかと、毎日、悩んでいる日々なので、都合などなかった。
ともかく、早く会いたかった。
「では場所は、私の会社の事務所で構いませんか?」
「は、はい。では、明日、お伺い致します」
そう言って、彼女は電話を切った。

翌日になった。
彼女は、久しぶりに、スーツを着た。
そして、JR高崎線に乗って、東京へ出た。
そして、高橋がなり、の会社である、ソフト・オン・デマンドに行った。
ソフト・オン・デマンドは、東京都中野区本町に、あった。

女は、「社長と今日、お会いすることになっています」と言った。
それで、通された。
社員たちが、忙しく、立ち働いている。
女は、社長室に通された。
「やあ。石川さん。久しぶり」
高橋がなり、は、女を見ると、笑顔で挨拶した。
「も、申し訳ありません。高橋さま。期待を裏切ってしまって」
女は、土下座して、頭を深く下げて謝った。
「いえ。いいんです。事業は、カケですから」
がなり、の口調は、冷静だった。
高橋がなり、も、二回ほど、事業に失敗しているので、こういう場合も自分が、経験しているので、冷静なのだろう。
「実は、僕は、あなたの事業は、必ず失敗すると、確信していたんです」
と、高橋がなり、が言った。
「で、では。どうして、出資して下さったんですか?」
女は、びっくりして、聞き返した。
「まあ。いいじゃないですか。それより、貸したお金は、返して頂けるんでしょうか?」
高橋がなり、が、聞いた。
「申し訳ありません。私は、今、銀行の、取り立てに追われていて、逃げているような状況なのです。とてもじゃないですが、今、お支払いすることは、出来ません」
女は、冷や汗を流しながら言った。
「しかし、お金を返す約束は、したじゃないですか?」
高橋がなり、の口調が、少し、ビジネスライクに、冷たくなった。
「も、申し訳ありません。そう言われましても・・・」
女は、それ以上、何も言えなかった。
「じゃあ、ある、お金を稼ぐ方法が、あります。それは、あなたにしか、出来ません。どうですか。やりますか。もし、やる、というのなら、貸した、一千万円は、チャラにしてあげます。さらに、もしかすると、あなたも、かなりの収入を得られるかもしれません。僕は、それを、あなたに、ぜひ、お願いしたいんです」
高橋がなり、が、突然、そんなことを言い出した。
「一体、何なんでしょうか。その、私にしか出来ない、お金を稼ぐ方法というのは?」
女は、がなりの考えていることが、さっぱり、わからなかった。
「あなたは、僕のしているアダルトビデオ会社を、どう思いますか?」
高橋がなり、が、聞いた。
「それは、もちろん、アダルトビデオ会社も、立派な、事業だと、思います。詳しくは知りませんが、アダルトビデオ業界も、競争が激しくて、たいへんだ、ということは、聞いています」
女が答えた。
「そうなんですよ。我が社、ソフト・オン・デマンドも、今一つ、ヒット作が出なくて、経営が苦しい状態なんです」
高橋がなり、が、言った。
「そうなんですか」
「それで。単刀直入に言いますが。私の、お願いとは、あなたに、AV女優を演じてもらいたい、ということなんですよ。一作品で、構いません。どうですか。やって頂けるのなら、一千万円は、チャラにしてあげます。あなたのギャラも、はずみますよ」
と、高橋がなり、は、言った。
女は、さすがに顔を真っ赤にした。
「で、ても。私。女優なんて、したこと、一度もありませんし。それに、私。そんなに、綺麗でも、ないし・・・」
女は、突然の、がなり、の申し出に、動揺した。
もちろん、いきなり、そんなことを、言われれば、女なら、誰だって動揺する。
「ははは。AV女優なんて、みんな、たいして演技など、上手くありませんよ。それと、あなたは、謙遜しているけれど、とても、綺麗ですよ。それと、セリフも、覚える必要もありません。あなたが思っていることを、そのまま、言ったり、やったり、してくれれば、それで、いいのです。下手に、お芝居するより、地、でやった方が、素人っぽかったり、リアル感が出で、いい、ヒット作が出来ることも、多いのです。そこは、私は、この仕事のプロですから、そこらへんの事情は、よく知っています」
と、高橋がなり、は、余裕の口調で言った。
しばし、女は、ためらっていた。
人前で、裸になったことなど、一度も無く、そんなことは、とても恥ずかしくて、出来にくく、しかも、いきなり、そんなことを、言われて、女は、激しく、動揺し、困惑していた。
しかし、たった一作だけで、借りた、一千万円を、チャラにしてもらえるのなら、こんな簡単で、いい話はない。
しばし、迷ったあげく、女は、
「わかりました。やります」
と、顔を赤くして、答えた。
それしか、一千万円を返済する方法が無かった。からだ。
しかし、自分のような、素人で、しかも、顔も、普通ていどの女なのに、その一作が、ヒットするとは、とても思えなかった。
「ありがとうごさいます。では、早速、始めましょう。このビルの地下で、撮影します」
高橋がなり、は、そう言って、立ち上がった。
女も立ち上がった。
高橋がなり、のあとについて、女は、地下室に降りていった。
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