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BY 鈴木小太郎

「ほら、あれがラスキさ。例のまがいの真珠をほんものの豚に撒いている」

2017-07-13 | 渡辺浩『東アジアの王権と思想』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 7月13日(木)11時07分45秒

天明飢饉に関する本や論文をまとめて読んでいると、さすがにちょっと気分が落ち込んできますね。
盛岡藩における天明飢饉時の状況については、例えばウィキペディアには、

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南部藩はそもそも生産性が低く気候条件も悪く、藩の治政も歴代目立ったものはないため、江戸時代230年間を通して約50回の凶作・飢饉があったと記録されている。これほどの飢饉を経験しながらなお、盛岡藩の飢饉対策はお粗末なままであった。 天明3年、土用になっても「やませ」によって夏でも気温が上がらず、稲の成長が止まり、加えて、大風、霜害によって収穫ゼロという未曾有の大凶作となり、その年の秋から翌年にかけて大飢饉となり、多くの餓死者を生じた。また、気象不順という自然災害だけに原因があるわけでなく、農村に対する年貢収取が苛烈であり、それが限度を超え、農業における再生産が不可能な状態に陥っていた。結果、7万5千人を超える死者を出した。これは盛岡藩総人口30万人の4分の1に相当する。飢えた領民は野山の草木や獣畜を食べ尽し、領内各所で人肉食の記録が残されている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%98%8E%E3%81%AE%E5%A4%A7%E9%A3%A2%E9%A5%89

とあります。
この7万5千人という数字については特に研究者の合意はないはずで、あるいは諸史料を博捜してその誤りを正すことは可能かもしれません。
しかし、ハンレー/ヤマムラの『前工業化期日本の経済と人口』だけに依拠して、盛岡藩には飢饉は存在しなかった、むしろ人口が増えたのだ、と主張するのは、風車に向かうドン・キホーテ的な行為のような感じがして、ちょっと付き合いきれないですね。

>筆綾丸さん
8日の「本物の真珠と本物のブタ?」で筆綾丸さんが引用されていた『丸山真男ーある時代の肖像』の「本物の真珠が本物のブタに食い散らかされたような印象」という表現が気になって、『ラスキとその仲間─「赤い三〇年代」の知識人』(中公叢書、1994)を読み直してみたら、次のような記述がありました。(p311以下)

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「なぜなのだろう、なぜなのか? この人たちはどうして全世界に嘘をついているのだろうか? 有名なヒューマニストたちがわたしたちを、わたしたちの生活を、名誉を、品位を無視するのはなぜだろうか?」。スターリン体制のもとで、いやいやながらも海外からの親善訪問客と会見を重ねていたらしい音楽家のショスタコーヴィチは、こんなふうに煩悶したと言われる(ソ連当局によれば、回想記は偽作であることになるらしい。しかし、たとえショスタコーヴィチ本人がいわなくとも、同じような疑問をひそかに胸にしまいこんだまま生きていたロシア人は多かったと思う)。ショスタコーヴィチ自身の回答は、これら外国から来るソ連讃美者はみな、自分たちの快適な生活だけしか考えない「いやらしい子供」に過ぎない、だから真面目にうけとったり、尊重してはならないということだった─つまりこれが、芥川を借用した理由でもある。
 安全地帯に身をおいたひとりであるこちらに、なにか言い訳があるとすれば、ソ連讃美時代にも、この手の「人道的進歩主義者」を醒めた目で見ていた人間が少なくなかったということくらいだろうか。スターリンとの会見も実現し、ソ連側の歓迎に気をよくしていたラスキが、モスクワでのパーティで大勢のソ連有力者からなる取り巻きに囲まれ、理性と説得によってスターリンの不安を取り除けば、世界平和と社会主義ヨーロッパの実現は目前と、「対ソ宥和」に意気盛んだった時のはなしである。その姿を離れた場所から眺めていた労働党訪ソ団員の一人が、「ほら、あれがラスキさ。例のまがいの真珠をほんものの豚に撒いている」と呟いたという。
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水谷氏は「豚に真珠」の比喩が本当に好きなようですね。
なお、芥川を借用云々はp310に出てきます。

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ラスキ同様、若者に愛読された芥川龍之介を借用すれば、ラスキに代表される「インテリはマッチ箱に似ている。重大に扱うのはばからしいが、重大に扱わなければ危険である」。
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「ショスタコーヴィチの証言」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%81%E3%81%AE%E8%A8%BC%E8%A8%80


※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
「本物の真珠と本物のブタ?」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8994
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