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BY 鈴木小太郎

「夜学する奉公人の姿に驚かされる」(by 藤田覚氏)

2017-05-18 | 渡辺浩『東アジアの王権と思想』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 5月18日(木)12時44分10秒

『幕末の天皇』は昔、確かに購入したのですが、私もここ数年引っ越しを繰り返して、古い書籍は未整理のまま段ボール箱に入れて積上げている状態で、どうも自宅で探すより図書館に行った方が早そうです。
代わりにという訳でもありませんが、藤田覚氏の『シリーズ日本近世史(5) 幕末から維新へ』(岩波新書、2015)をパラパラ眺めていたところ、「第3章 近代の芽生え」の「2 民衆の知の発達」に紹介されていた信濃国埴科郡森村の事例はなかなか興味深いなと思いました。(p112以下)

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 信濃国埴科郡森村(現、長野県千曲市森)の中条唯七郎(一七七三~一八四九)が、弘化年間(一八四四~四八)に、名主などを務めながらみずから暮らした地域社会の約五〇年(一八世紀末から一九世紀半ば近く)ほどのあいだの変化を、過去の日記などをもとにして、村人の生産や生活、そして物の考え方などについて『見聞集録』として書き留めた(柄木田文明氏の紹介・翻刻)。ほぼ同時期の世相の変化を活写した広い意味での随筆として、『寛天見聞記』(寛政から天保年間の見聞記)などがあり、江戸の世相の変化をよく伝えている。それが都市における変化をとらえているのに対して、この『見聞集録』は、信濃松代藩(真田家)領北信濃の農村部の変化を伝えるものである。なお、現在の森地区は「あんずの里」として知られている。

識字率の向上
 中条唯七郎は、地域社会の変化の大きさを「天地黒白」「天地隔絶」と随所に表現している。「天地黒白」の変化のいくつかを紹介してみよう。
 たとえば中条は、村人の識字についてつぎのように書いている。

昔は森村も無筆の人が多かった。いまそう言っても誰も信じてくれないほどだ。私が二二、三歳のころ(寛政六、七年<一七九四、五>)から素読が流行し、一季奉公人(一年契約の奉公人)までもが読むようになった。それ以来、さらに進んで俳諧、狂歌、和歌、そして現在では長歌を嗜む人も多いほどになった。まことにこの間に天地黒白の違いが生まれた。しかし、このような状況は森村だけのことではなく、世間一般にそのようになっている。

 弘化年間ころの森村には、ごく一部の老人を除いて読み書きのできない村人はいない状況だったらしい。隠居した和尚や医師らに入門し素読の手ほどきを受ける人があらわれ、そのころは物読〔ものよみ〕と言っていたが、文政一〇年(一八二七)から素読と言うようになり、「今川状」などを収めた古状揃(古い書状などを集めて手習いの教科書として用いられた)、庭訓往来(月毎の手紙の文例を集め日常生活の語彙を解説した寺子屋教科書)、実語教(教訓や道徳を説いた寺子屋教科書)、童子教(児童教訓書で寺子屋教科書)などから始め、四書五経(儒教の重要古典で、「大学」「中庸」「論語」「孟子」の四書と、「易経」「書経」「詩経」「礼記」「春秋」の五経)へと進んだらしい。一季奉公人たちは奉公先で夜間に勉強し、初めは古状揃・庭訓往来でも難しすぎると言っていたのが四書五経へと進み、素読稽古の夜は短いと嘆くほどになり、のちに素読はしなければならないものと言われたほど流行したという。素読は森村から流行し、それが各地へも広まったともいう。夜学する奉公人の姿に驚かされる。
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四書五経レベルは上層農民だけの話かと思っていましたが、森村では一般農民どころか奉公人まで勉強しているのですね。
また、「素読」が村の一部で流行し始めてから全村に普及するまでの期間があまりに短いことにも吃驚です。

>筆綾丸さん
>丸山教の信仰告白

この部分、私は割と素直に丸山眞男はたいしたものだな、と思いました。
歴史研究の細分化が極限まで進んだ現在では、早く専門的な論文を量産しなければ職に就けない、専門と直接関係のない語学などやっている暇はない、みたいな雰囲気がありそうですが、若い頃に語学をきちんとやっていない人は、研究生活のある段階で行き詰まりを感じるのではないですかね。
頻繁なテレビ出演のおかげで今や歴史学界有数の著名人となった磯田道史氏など、日本の歴史人口学のパイオニア・速水融氏に学んだ経歴がありますから、速水氏同様に国際的な活躍をする道もあったはずですが、エマニュエル・トッドとの対談を読むと、貧弱な語学力がその妨げになったようですね。

「エマニュエル・トッドと磯田道史氏のほのぼの対談」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8682
「わが敬愛する先輩の小川さん」(by 磯田道史氏)
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8686

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
「丸山教の要諦」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8886
「ベルリン詣で」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8887
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