学問空間

主に掲示板への投稿の保管庫にしています。
BY 鈴木小太郎

<「堕胎・間引き」の言葉にまつわる貧困、悪徳のイメージを解放>

2017-07-08 | 渡辺浩『東アジアの王権と思想』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2017年 7月 8日(土)10時55分48秒

『前工業化期日本の経済と人口』(ミネルヴァ書房、1982)は群馬県内の図書館には存在せず、内容を確認できていないのですが、原著は、

Susan B.Hanley and Kozo Yamamura, Economic and Demographic Change in Preindustrial Japan, Princeton, 1977

で、翻訳は速水融氏と穐本洋哉氏(東洋大学経済学部教授)ですね。
速水融氏は『近代移行期の人口と歴史』(ミネルヴァ書房、2002)の「序章 歴史人口学─課題・方法・史料」において、

------
 奇しくも、一九七七年には、アメリカにおいても、宗門改帳を用いた二冊の著書が刊行されている。第一は、ハンレイとヤマムラ(Susan B.Hanley and Kozo Yamamura)による研究で、宗門改帳は、多くを岡山藩領のものを用いている。彼らの発見は、江戸時代農村の出生数が、経済水準の高さにもかかわらず、非常に少なかったことである。その解釈として、彼らは農民が、生活水準を維持し、向上させるべく意図的に制限をおこなった、とする。近代以前の日本で、出生数を制限するのは、宗門改帳にあらわれない出生後最初の宗門改帳作成時までに死亡した場合を除いて、堕胎と間引きである。この二つは区別して考える必要があるが、彼らの解釈に従えば、こういった手段による人口制限は、「合理的」行動であり、「堕胎・間引き」の言葉にまつわる貧困、悪徳のイメージを解放した。
 第二は、スミス(Thomas C.Smith)による研究で、これは、濃尾平野の一農村の宗門改帳その他の史料を用い、人口学的、社会的変化を分析した業績である。【後略】
------

という具合に同書を高く評価されています。(p12以下)
ただし、天明飢饉の史料の扱いに関しては特に言及はありません。
天明3年(1783)は浅間山が爆発したので有名な年で、岩手県内でも仙台藩領だった県南地域で相当悲惨な飢饉が発生したことは疑う余地がありません。
それなのに、仙台藩領より更に北に位置する盛岡藩領で、飢饉がなかったどころか人口が250人増えた、などというのは私にはちょっと信じがたいですね。
水谷三公氏が「盛岡藩が幕府に報告した公式の死亡者」を疑うのは結構ですが、では、「藩が内部行政に用いたと思われる『藩日誌』」が正しいと考える理由は何なのか。
盛岡藩は年貢の取り立ての厳しさでけっこう有名だったようですが、仮に「藩日誌」が厳しい徴税政策に基づいた史料だとしたら、飢饉で大勢死んだけど年貢は従来通りビシビシ取り立てるのだ、とは書きづらいでしょうから、人口減はないのだ、むしろ微増だという記録が残ったかもしれません。
ま、もう少し調べてみたいと思います。

>筆綾丸さん
>マルクス主義との火遊びに走る前のラスキ

水谷三公氏の『ラスキとその仲間―「赤い30年代」の知識人』(中公叢書、1994)は四百頁近い分量で、けっこう読むのに骨が折れますが、まあ、これを読んだ人の大半は、ラスキは本当にしょうがない奴だな、と思うはずです。
1932・33年に起きたウクライナの大飢饉の実態を知り得る立場にありながら、正確な情報の流通を妨げ、結果的にスターリンの暴虐を側面から支援した主犯格ですね。
先日、苅部直氏の『丸山眞男―リベラリストの肖像』を図書館で借りてパラパラ眺めてみましたが、丸山がラスキを高く評価している文章を長々と引用したうえで、苅部氏もラスキに好意的な駄文を付け加えているのを見て、駄目だな、これはと思い、全部読まずに返却しました。

Harold Laski(1893-1950)
https://en.wikipedia.org/wiki/Harold_Laski
ホロドモール
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。
「ひとたびはともに見上げし桜かな  三公」
http://6925.teacup.com/kabura/bbs/8992
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 「アメリカ人学者ハンレー及... | トップ | 盛岡藩は「仁政を完全に欠い... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

渡辺浩『東アジアの王権と思想』」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL