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大愚記 花房東洋 

大 愚 言 ・むかし書いた馬鹿読物(その三)  大愚叢林庵主 大愚東洋

2016年11月08日 10時05分17秒 | 大愚言
先の大愚言に引き続き、むかし書いた馬鹿読物の第三弾を余興として掲載する。
読切戯話 笠松人情
「月刊パック」第三号(昭和四十七年九月二十日発行)掲載

「山田、お前バカと違うか…こんな競馬のどこが面白いんや」
山田君という会社の同僚に生まれて始めて、競馬場へつれてこられたマー坊ちゃんは、酒臭い息を吐きながら文句をいった。
「酒ばっかりのんでいて、えらそうなこというな!」と、山田君も負けずにいいかえした。
「畜生の上に他人が乗って競争するものに賭けるより酒の方がよっほどいいや」
紀ノ国屋の社長のような口調でマー坊ちゃんはいった。そんなこといって、お前のポケットに入っているの、それ馬券やないか」
「ああ、退屈やから一番すいてる窓口で買ってみたんや…そしたら千円もとられた、馬鹿馬鹿しい!」と、いまいましげにいった。「千円券買ったのか、素人は目茶するからこわいな」
「ほっといてくれ!俺はねる」マー坊ちゃん、残りの酒をグッとひと息にのみほしてフテ寝ときめこんだ。
その横でガタガタふるえながら馬券を拝んでいるオッサンがいた。
「オッサン、どうした?」と、世話好きの山田君が声をかけた。一瞬、ドキッとしたオッサンは山田君に問われるがままに、オドオドした口調で話しはじめた
オッサンは印刷会社の集金人をやっていて、集金した五十万円をもって麻雀をしたという。大金がフトコロにあるものだから、気が大きくなり掛け金を増やしあげくの果てには五十万円全部とられてしまった。それで家の者にも内緒で貯金を引き出して競馬通い、十万円あった貯金もあと二万円。やけくそでイチかバチかの一―八を一本買い。これに負けたら警察へ自首してでる。と、涙ながらにいうのであった。
「なんとかしてやりたいけど、金は帰りの電車賃しかない。しかし、俺も男や一―八を応援するわ!」いよいよレースが始まると
「一―八がんばれ、一―八がんばれ」と山田君、声をからせての大声援。ところが世の中、皮肉なものでイチかバチかの一―八がはずれて、なき目なき目の七―七がはいいた。
「声援してもらったけど、やっぱり駄目でした。」
と、すっかりしょげきったオッサン、その場に坐りこんでしまった。
「畜生、何とかしてやりたいなあ…何も知らずにマー坊の奴よくねてるなあ」
と、マー坊ちゃんをみた。
胸のポッケトから馬券がのぞいていた。こいつ、何を買ったんやと、とってみるとそれが七―七.その時、配当金は五万円とアナウンスされた。場内は大穴に騒然とした。配当金が五万円、千円券で五十万円。
「オッサン、これやる!」
山田君は、オッサンのポッケトに馬券をねじこんだ。
「滅相もない!結構です」
「いいからもっていけ!」
「いや、これ以上悪い事はしたくありません」
「僕がやるといってるやないか」
「だけど、馬券はその人の……」
「俺の友達や、かまわん」
「私はもらえません」
「強情なオッサンやな、こいつは親のスネかじりや、こんな奴が五十万円もっても酒ばかりのんでロクな事にならん、オッサンが五十万円持って帰ったら、事は丸くおさまって女房、子供にも肩身の狭い思いさせなくてすむやないか」
「お言葉はありがたいけどうけとれません」
「ようし、そしたらこんな馬券、すててしまう」
「そんなもったいない」
「もったいないと思ったらひろえ」
「すいません、そこまでいってもらうならひろわせてもらいます。ありがとう」そんな押し問答の末、七―七の馬券をありがたく頂戴したオッサン、寝てるマー坊ちゃんにもペコペコ頭を下げて、払戻しの窓口へ走っていった。と、同時にマー坊ちゃんが目をさまして「あーあ、よくねた。どうやった今のレースは?」
「七―七が入った」と山田君、そしらぬ顔で答えた。
「おい!大変や、俺七―七買ってるぞ」と、いいながらポケットから馬券を出した。
「あれ?一―八や」と、ねぼけ眼をこすりながらいった。
「お前、酔っていて七―七のつもりが一―八買ったんやないか。おしい大穴を逃がしたなア」と、山田君がいうと、マー坊ちゃん、ニヤリと笑って
「馬鹿野郎、大穴を逃がしたんやない。大穴をうめてやったんや‼」

(平成二十八年十一月七日認)
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