思考ダダ漏れ

なんとなく書こう

一太刀

2017-06-09 16:17:10 | 断片・詩・構想・屑
昔書いたもの。

 藪から女の呻き声がする。駆け寄ってみると、老婆が足を抱えて座り込んでいた。どうしたものかと聞いてみれば、たけのこ獲りに行ったところ、泥濘に足を滑らせてしまったそうだ。僕は憐れみ、助けてやろうと言ったが、老婆は断った。何故かと聞くと、お前は刀を持っている、刀を持っているやつは信用できない、お前はわたしを殺すのだろうと言った。僕はこの老婆の過去に同情して、もう一度優しい口調で尋ねてみた。だが、老婆は口悪く、そうやって人を騙してきたんだろう? わたしには分かるよ、お前は下手人の匂いがする、ほら、もう刀の柄を握りしめているじゃないか、斬るんだろう? わたしには分かるよ、と言っていうことを聞かない。僕は可哀相になって、懐から握り飯を一つやった。老婆は泣きついて、醜い顔をより醜くして、汚らしい音を立ててそれを頬張った。それでは、と老婆を見捨てようとした時、その不愉快な音のせいか、不意に一つの感情が芽生えてきた。僕はその感情に従って、老婆の後ろから刀を振り下ろした。老婆は静かになった。藪は枯葉の軋む音と、笹の擦れ合う音だけとなった。
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