思考ダダ漏れ

なんとなく書こう

溜まった膿

2017-09-12 13:13:53 | 日常
帰宅した僕は耳鳴りを感じながら鼻血を垂らしつつ痰を吐き出しているのだが、皆さんそんな状態の時どうする?  仕事だって?  律儀なものだよ。トイレに籠る?  職場の?  ああ、結構なことだ。僕は横になります。羨ましいだろう。
  さて、今日は何の話を書こうと思っても特に何も浮かばないので、また、過去のゴミ箱を漁ってみることにした。これは過去の中では比較的新しい過去なのだが、どうにも納得できず結局放置されたままのゴミだ。これと似た傾向のものをもう一つ書いていたのだが、数年前に「影」を題材にしたものがあったのだが、それと似たようなもので、主人公が正常でない状態の方が色々なものが円滑に進むこともあるとかなんとか、そんなものにしたかったはずなんだけどこれは卓袱台返したかっただけだろうね。



  半年前のことだった。その日は特に暑い日で、ずっと冷房をかけたまま寝転がっていた。初めはそれのせいで、頭が痛み出したのだと思っていた。私はうずくまって、その痛みが治まるのを待った。半日もすれば治ってくれたのだが、それからは数日置きにぶり返すようになった。私の頭はタールのような粘着質なものが流れ、それが隅にある大事なものに触れるたび、刺されるような痛みを感じるのだった。昔から兆候らしいものはあったが、以前までは綿棒で突かれるような痛みだったので、生活に何の支障もなかったのだ。同棲している恋人は私に病院へ行くことを勧めた。あまり気乗りはしなかったが、恋人を心配させ続けるのも申し訳ないので、痛みが治まっている間に行くことにした。
  タールのようなものは、歩くたびに僅かに左右に揺れているのが分かった。頭を傾けたままでいると、それが隅の方へ流れ込んでいくのが分かり、反射的に頭を反対に傾けなければならなかった。
  私が病状を伝えると、先生は困った顔をして、診療室から少し席を外した。私はその反応に、鼓動が高鳴っていった。先生は戻ってくると、今すぐ手術が必要になるかもしれないので、MRIを受けてもらいますと説明してきた。私はそれに何の疑問も抱かず了解して、MRI検査を受けた。私は受ける前から手術されるのだろうと覚悟はしていたが、それはその覚悟が意外と外れてくれるに違いないという期待を込めての覚悟であって、まさか本当に手術を受けることになろうとは全く考えてもいなかった。私は手術室に運ばれ、何の同意や説明をされることなく、全裸にされた。
「悪い膿を出すには、こめかみに釘を刺し、その上からトンカチを、何度も何度も、ゴンゴンゴンゴンと叩かなければなりません。脳の揺れる感覚と共に、ほら、黒い液体が溢れ出てくるのが分かるでしょう。それをスプーンですくってやるのです。しかし、この脳は些か時が経ち過ぎていますね。中が腐ってしまっている。とりあえず取れるだけ取って、空いたところには新しいのを流し込んでおきますよ。なに、心配なさらないでください。この道のプロなんですから、最初は驚くでしょうが、そのうち慣れます。リハビリが必要になりますが、休学届はこちらが出しておきましょう。さて、これは結構な手術になるぞ。久方ぶりの獲物だ。しっかり麻酔をかけてくれたまえ。そうしないと、とても、大変だからね。いいかい、君にこれから何をするのか伝えておくけど、これから君の脳をもっと良く見るために頭蓋骨を割るよ。それから中の膿をくまなく取り除いた後は、新しい脳を入れてやるからね。何か質問は? と言っても、君はもう麻酔で喋れないものな。まあ、任せない。君の頭痛はすっかり取り除いてやるからな。君は全くこんなになるまで放置するなんて、つくづく最近の若者はけしからんね。だから自殺ばっかり考えるんだ。大方君もそんなたちなんだろう? まあ答えなくてもいいさ。おっと、答えられないんだったね。この膿はね。若い人ばかりが溜め込んでいるんだよ。最近は自殺が流行っているからね。全く何でそう考えるんだか、この人生というものは広大な…………」
  私が目覚めたのはそれから数日も経ってからのことだった。看護士は体調はどうか、食欲はあるかと尋ねてきたが、私はそれらの質問を何となくで返した。それが結果的に回復したと思われたらしく、退院を早めることとなった。確かに回復はしていた。欲求には何の問題もなく、日頃の生活に何の支障も無い。寧ろ、何に対しても気力が湧いてくる。
ただ一つだけ違和感が残った。私は私の行動に対して何故だか信用ならなくなっていた。朝目覚めて恋人に
「おはよう」
  この一言ですら、私は何故だか私で無いような気がしてならない。それどころか、私がカップを持ち上げようと腕を動かす。指で持ち、口元に運ぶ。コーヒーが口内に入っていく。コーヒーの匂いだとか、味だとか、色や液体の感触だとか、何故だかそれまでと全く異なっているような気がしてならない。しかし、何故そう思うのか、何が異なっているのかまでは全く考えることができない。それがまた、恐ろしいことのように思われてならない。私は私でないような、しかし、確かに私は居て、意識がある。
  私は今、一人寝転がっている。タールのようなあれはもう無い。だが、あれが無いことが不安でならない。私は何か新しいものを受け入れようとしていて、タールのようなあれの代わりにしようとしている。私の意識は術後以上に違和感を増している。時折、何故そう動いているのか理解できないことすらある。この前、私は大学で女に声をかけた。私は恋人以外眼中に無いというのに、それ以上に、人と関わることが面倒でしか無いというのに。私の意識とは別に、私は動いているらしかった。私は人目をあまり気にしなくなり、見栄を張るようになった。その見栄も低俗なもので、高そうな服を着て、自慢話ばかりして、以前の私と似た恋人を非難するようになった。私は段々私が嫌になっていた。そう自覚できることが唯一私を保つ方法のように思われた。
  私は私を守る為に自殺を決意した。恋人に手紙を残し、駅から遠くの町へ行くことにした。辿り着いた先は長閑な村で、私の死体が似合うような場所ではなかった。それのせいか、それとも、既に私の意志は蝕まれていたのか、私は自殺の決心がつかなかった。それにどうやって死のうという算段も無かったのだ。私は仕方がなく歩き出していた。以前はあれほど虫というものを嫌っていたというのに、全く恐れないどころか、親しみすら湧いてきた。優雅に飛ぶ蝶に蛾に蜻蛉に、私は今、優雅と書いたが、その発想自体がそれまでの私には全く無かったのである。
  そして私は吊り橋を見つけた。その下に流れる勢いの良い水流はそれまでの私ならば心地良いものに違い無かったが、この時の私には不快な塊にしか見えなかった。私は一思いに飛び込むことを決めた。それは自殺するならばの話であって、まだ自殺すると決めたのではない。踏ん切りがつかない理由はよく分からなかった。私は昔から死にたがっていたし、選べない死よりも、選べる死の方が、ずっと幸福なことだと考えていたのだ。しかし、その考えも、あのタールのようなものが無くなってからというもの、何故だか狂人の発想のように思えて、馬鹿馬鹿しいとしか考えられなくなっていた。
「しかし、ここで死ななければ、本当の私は死んでしまう!」
  私は叫んだ。しかし、その叫びも虚しく、川の音にかき消されると同時に、頭の中からも、消えた。
  私は今、ゴム製の紐で首吊り結びをしている。私はもうこれ以上恋人に迷惑を掛けないためにも死ななければならない。私はあれから日毎彼女への苛立ちや失望の思いが募っていくのを感じている。それがいつ爆発するかも分からない。私は彼女を愛している間に、また、愛されている間に死にたいのだ。もはや彼女は私など愛していないかもしれない。しかし、それを知る前に死ぬことが一つの解決策なのだ。私は台座の上に立ち、輪の中に首を入れた。
「落ちるぞ!」
  その時、私の携帯電話が鳴り出した。
「もしもし」
「〇〇くん?」
「ああ、〇〇さんか」
「この前は忙しくて断っちゃってごめんなさい。だから私から誘おうと思って。来週辺り、食事にでも行かない?」
「ああ、是非行こう。僕は毎週この日が暇でしょうがないんだ。ちょうど、美味しそうな店も見つけたところだし、そこへ行ってみないか? あ、そうだ。カラオケとかどうだい。え? そりゃ歌うよ。僕はサブカルチャーな邦楽が好きでねえ。あと洋楽も歌う。いやいや、そんな褒めなくたってね。英語の歌なんて、何となくやれば上手いこと歌えるもんさ。ええと、それじゃ来週だね? 楽しみにしているよ。最近独り身で寂しかったからね。下心だって? 男に下心が無いわけないだろう。その辺りは君だって分かってるだろう。土台、好き合ってないと食事になんて行かないさ。それじゃまたね。楽しみにしてる。うん。おやすみ」
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