感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

手の皮膚所見“Mechanic's hands(機械工の手)”について

2014-06-09 | 免疫

前回の続きで、手の皮膚所見“Mechanic's hands(機械工の手)”についてです。
これは、膠原病の一種、皮膚筋炎などの特発性炎症性筋疾患、とくに抗シンセターゼ症候群の診断にて重要な所見ですが、一見手湿疹にも似て軽微な所見であり、見逃しやすいものです。でも間質性肺炎とも関連するので重要です。
この身体所見についてまとめてみました。




まとめ

・抗ARS症候群では常に筋炎の証拠が示されるわけではなく、また皮膚筋炎患者の2~11%は筋病変を持っていない(いわゆるamyopathic皮膚筋炎)ため、診断過程でより多くの注意が皮膚病変に向けなければならない。

・“Mechanic’s hands”は皮膚筋炎を含む炎症性筋炎の皮膚症状として、1979年に初めてStahlらによって記載された。
・肉体労働者とよく似た所見で、臨床的に手湿疹に類似する。その鑑別点としては、“Mechanic’s hands”は、1)掻痒や小水疱はない、 2)病変は利き手に限らず通常は対称的(職業刺激なしに発生)、3)母指尺骨側面と他の指の橈側側面(最も顕著に人差し指と中指)に病変

・典型的な皮膚症状は、職業性皮膚炎を模倣した、指や手に亀裂や細かい皮むけfine scalingの伴う角化性紅斑である。
・時折、足病変を見ることができる
・組織学的所見は顕著な過角化症、焦点性不全角化、乾癬型表皮肥厚、表皮におけるコロイド体が含まれていた。そこに血管周囲の単核細胞浸潤があり、ムチン沈着は真皮で観察。
・堆積ムチンは、皮膚筋炎の重要な組織病理学的所見の一つである。 Mechanic’s handsの正確な診断のためにムチンを染色すると良い。
・通常、手湿疹で見られる表皮の海綿状態Spongiosisは、Mechanic’s handsでは見ることができない。またほとんどの場合、過角化症、不全角化、および乾癬状表皮肥厚は慢性湿疹でも観察されるが、表皮中のコロイド体はほとんど見られない。
・Mechanic’s handsの病理組織学的所見では、表皮萎縮、基底ケラチノサイトの液化変性、 真皮上部にメラニンdropsやmelanophages などの皮膚筋炎の特徴を示していない。 液化変性症を示したMechanic’s handsのわずかな症例報告はある。

・慢性的な手の皮膚炎は多くの場合では、内因性(アトピー性)、接触性や刺激性皮膚炎などの一般的に発生する皮膚疾患であることがほとんどである。鑑別には手白癬tinea manuumや手掌乾癬も含まれる。

・Mechanic’s handsは、antisynthetase症候群に限定されず、皮膚筋炎などの他の結合組織疾患においても見出され得る。
・これまでの報告ではMechanic's handsは、DM患者で33%、 抗ARS症候群患者で30~70%が、持っていたことを示した

・SoharaらのMechanic's handsの持つ44名の患者のレトロスペクティブレビューでは、疾患の内訳は、 DM/amyopathic DM(n=24,54.5%)および抗ARS症候群(n =17、38.6%)であった。 この所見に関連する主要な皮膚病変は、爪周囲紅斑(N=23、52.3%)、Gottronサイン(N=17、38.6%)、ヘリオトロープ疹(N=10、22.7%)、レイノー現象(N=9、20.5%)であった。 6例(2 DM、4抗ARS症候群)のみが皮膚所見はMechanic's handsのみであった。

・Satoらの生検で確認されたMechanic's handsを有する9名の皮膚筋炎患者の研究。 他の皮膚の所見では、爪周囲紅斑(8/9)、Gottron丘疹(4/9)、線状紅斑flagellate erythema(4/9)が観察された。筋力低下は徒手筋力テストの点数によってほとんどの患者が軽度と判断。クレアチンホスホキナーゼ(CPK)の血清レベルは軽度(平均245 U / L)。7/9(78%)がIPを持ち、7/7名(100%)が急性増悪を伴わない非特異的間質性肺炎(NSIP)であった。
・この9名とMechanic's handsを有しない30名の皮膚筋炎患者比較では、Mechanic's hands患者で、爪周囲紅斑(P= 0.02)、IP(p =0.04)はより多く、平均血清CPKレベルは有意に低かった(P =0.02)。悪性腫瘍保持は、Mechanic's handsありで1/9、なしで8/30だった。

・Mechanic's handsを持つ皮膚筋炎例のほとんどは間質性肺炎(IP)とともに報告されている
・内臓悪性腫瘍に関連した皮膚サインとしてMechanic's handsを表現する傾向があるわけではない。いくつかの散発的な皮膚筋炎患者では悪性腫瘍と関連した。

・この所見は、臨床的に明瞭な筋炎徴候があまりない症例、および/またはJo1抗体以外のantisynthetase自己抗体検査が使用できない機関では役に立つかもしれない。

・この所見は通常、局所治療に抵抗性であるが、全身免疫抑制療法で改善する。
・文献では非常に少数の報告があるものの、皮膚病変のための局所コルチコステロイド療法は、成功する可能性はある。
・皮膚病変の悪化は、多くの場合、基礎となる全身性疾患の再発と関連している


参考文献

BMC Res Notes. 2014 May 17;7(1):303.

J Dermatol. 2012 Dec;39(12):1093-5.

Dermatitis. 2010 Nov-Dec;21(6):334-5.

Contact Dermatitis. 2010 Sep;63(3):168-9.

Int J Dermatol. 2009 Nov;48(11):1177-82.

 

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