雨音は優しくて

いつか見た青空、瞳の奥にある太陽、今、歩けることが幸せ

愛をこう人 25 (小説) 改編版

2016-12-11 19:22:52 | 小説 愛をこう人 改編前版

 (25)
ふたりの生活は、お互いの恥ずかしい姿であっても、気づかいあう事も無く、自然体で見せ合えるほど、ごく普通の姉と弟の日常的な暮し、すくなくとも久美子の気持ちだった。

お互いの友人や知人へも姉であり、弟だと言えるし、誰もが、そう、見て、信じていた「ふたりの関係だった!」

いつしか、ふたりの生活は、趣味として、絵を描きはじめ、軽い競い合いの中で、心が意識なく安堵する思い!
日常の雑多な事から逃れられる!
大切な時間をふたりは楽しんで生活していた!

「たくちゃん、今日、なにが食べたい!」
「うん、そうだね、ねいちゃんの好きな物でいい!」

「じゃ、さあ~・・・・」いつも、こんなふうに、気楽に話しては、笑顔を交し合える仲だった。

だが、いつしか、匠は、久美子への呼び方を
「久美子ねいちゃんから!」
『久美ちゃん!』

と、自然に変わっていた。
久美子の気づかないところで、匠は、久美子を、女として、見て、恋心を抱き始めていた。

きっかけは、なんであったのかは、匠自身も分からぬままに、匠は、久美子を恋い慕う想いが日々募って行くことが、匠自身も戸惑いながら、あつい恋心をどうする事も出来ない、いらだちを止められずに、匠の若い感情で自身の心と体を持て余していた。

「匠の若き肉体は、男としての自然な働きをする!」

久美子を求めたい感情と姉と慕う感情のせめぎあいに、匠の苦しみは、耐え難いものだった。

そんな、匠の心の変化を久美子は、知ろうともせず、いや、久美子には、知る必要のない事だった。

『久美ちゃん!』
『久美ちゃん!』

わけもなく、久美子のそばで名を呼んでみる、匠の苦しい、息遣いと心情!辛うじて、理性が匠を抑えていた!

匠は、母を知らず、母の愛情がどんなものか、父である、春馬の生きざまを、否応無く背負わされた子だった。

久美子の実家にたどり着くまでの日々がどんなものであったかは、想像がつく!

春馬は、自分が久美子の父の腹違いの弟だと言う事以外は、何も話そうとしなかったし、誰もが、知ろうとせず、むしろ、知りたくない事だった。

久美子の父とはなぜか、気があう不思議さがあった。

だがその父も、数年前に、放蕩の限りを尽した人生だったが、最後は、あっけない命の終りだった!

お酒に酔って、ふらついて歩いて、橋から川に転落して、即死状態だったが、発見されるまで、長い時間、誰にも見取られる事無く、父は死んだ、人は、いろいろと噂したが、性格も、顔立ちも、良く似ている久美子は、なんとなく、父のすべて、ではないまでも、父の気持ちが理解できた。

「どうしようもない眼の前の現実!」

夢を求めすぎて感情との折り合いの付け方が出来ない、父はたぶん、人一倍生き方の下手な人間!

孤独に打ち勝つ事が出来ない、弱くて、寂しすぎた、人間だったのだろう、久美子は、そんな父を、今、好きな気がした。

父の本当の気持ちも、生き方も、理解出来る事ではなかったが、母を亡くして、寂しさを紛らわす為に、旅をして歩き、常にお酒を手放さず、夢物語の幻を見ては、そのすべての夢に裏切られつづけた、そんな生き方の繰り返しだった。

そうした、人生の中で、父は、自分と似ている境遇の春馬との出会いが、心の救いだったのかも知れない!

たとえ、真実はどうであれ、私たち家族は、父の言葉を信じて伯父として、春馬親子を受入れた。

久美子は、その結果を想像も出来ずに!
『あまりにも残酷な!』
『久美子と春馬の!』

『地獄をのぞき見る、愛があった!』
『どうする事も出来ずに!』

『ふたりは狂おしいまでの恋を断ち切った!』
『誰にも、知られずに!』
『隠し通さねばならぬ秘密を残して・・・』

どんなに、もがき、苦しんでも、時間という手助けが、これほどの力があることなのだと、今の久美子は、心から感謝する思いだった。

過ぎて行く時間の中で、春馬の息子『匠』は実の弟であり、春馬の息子としての、肉親の久美子の愛情だった。

心の苦しさや耐え切れぬ寂しさと、孤独を癒してくれる存在でもあった。

突然の愛に戸惑いながら
母と姉の心で君を見ている
私の愛は君の後ろにいる人

そんな日々の中で、久美子が、常に、大切にしている、春馬から、おくられた、春馬自身が、幻の久美子の姿をモデルにして描いた。
『春の幻影』

こう名づけられた、春馬のこの絵をひと目みれば、久美子の美しい裸身を夢の中で、描き、追い求めている!

春馬の心が、久美子には、胸に迫る想いで、苦しいほど春馬を思い出している。

おそらくは、この絵を描きながら、春馬自身は、眼に見えぬ、火焔地獄を、乗り越えて、久美子を、幻の姿に変える事が出来た時に描けた絵なのだろう。

この絵が語り伝える、春馬の久美子を案ずる気持ちを、今、心揺さぶられながらも、久美子は、大人の女としての落ち着きを保てる微かな心の余裕を持てた。
そんな気持ちにさせたのも、匠の存在が大きかった!

誰よりも大切な家族としての心のよりどころでもあった、
『匠』

久美子には、実家に、はじめて来た、あの日の匠の姿を見ている感情だった、幼く可愛くて、ニコニコと、久美子を慕ってくれた。

「匠の無防備で、すがり付いてきた!」
「冷たくて小さな手!」

あの感覚が今も久美子の体に感じている。

あの、春馬への熱情をひた隠しに暮した日々も、匠は、姉として慕ってくれた。
久美子はそんな気持ちから、男として見ている感情はないと思っていた。

けれど、年齢を重ねるごとに、大人の男として成長して行った「匠」が、なにげなく一瞬、振り向いた時の姿は、否応無く、春馬を思い出させて、久美子と匠の関係は少しずつ、感情のずれを感じてしまった。

そして、匠は、久美子に対する、母のような思いから、ひとりの女としての姿に、かわってしまった。

匠は、久美子に対して、いつしか、女性として恋する感情が芽生えてしまった、匠の若き肉体は、日に日に男を匂わせてくる!


          つづく

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