小暮荘物語/三浦しをん(祥伝社)

築何十年のとあるアパート「小暮荘」。
ここに住む70歳過ぎた老人の大家とそこに住む住人たちと彼らに拘わる男女の物語。
この小暮荘は2階建てで6部屋からなり、住人は4人。
不思議な三角関係の中心になる花屋の店員繭。
70歳を過ぎてから、セックスに目覚める大家。 犬一匹。
不妊症に気付いて男を引き込む女子大生・光子。
天井裏から光子の日常をのぞくことに生きがいを見出すサラリーマン・神崎。
三角関係に悩む花屋の店員・繭。
何だか現代でもありそうな話の中に、実は当事者だけしか知りえない
人間の本質とも言えるエキスを嗅ぐような内容だ。
それぞれの人間模様を短編にして、この小暮荘を軸として語られている。
そのそれぞれの人間関係と日々の生活の断片を、ユニークかつ面白く描いている。
彼らの日常生活がどのように絡み合っているのか、またはいくのか。
その辺りが読み進めて楽しい。
先入観なく、ナチュラルに読み進められる普段読書癖のない人でも、
入っていき易い小説だと感じた。
「シンプリーヘブン」
繭&晃生&並木のトライアングル生活
繭の二人の男の間で揺れ動く心情が憎めなくて面白い。
「心身」
癌で死ぬ間際で妻にセックスしよう」と言い断られた友人の話を聞き、
自らも思春期の男子のように「セックスがしたい」と思っている小暮。
デリヘリを頼むも女子大生の光子に思いのたけを聞いてもらうことになる。
「柱の実り」
トリマーの美彌と危ない風体の前田。
駅で変な水色の突起物を発見した。 それは明らかに男性性器のよう。
ところがこれは二人にしか見えないらしい。 ちなみに前田の愛犬の名はミネ(笑)
「黒い飲み物」
繭が働く「フラワーショップさえき」のオーナー夫婦の話。
コーヒーを入れた人が浮気をしているかどうかがその味でわかるという、
週一回火曜日にバラを買いに来る女・ニジコ。 毎夜、夜中にこっそり家を出る佐伯。
繭を交えて妻が夫の深夜浮気調査に(笑)
「穴」
隣室の音や階下の住人の音が気になっていた神崎。
安普請の小暮荘から、ふとしたことで階下の女子大生・光子の部屋を覗き見ることに。
タイトルだけだと卑猥なイメージが涌いてくるが、実は妙にドジで面白い。
「ピース」
神崎に覗かれている女子大生の光子。 光子は子供が産めない身体。
友人の生後1ヵ月の赤ちゃんの面倒を見ることに。 ところが、不思議な母性愛が
自分の考えてもみなかった一面を思い知ることになる。
光子、天井の穴は塞がず、神崎との会話は続く。
「嘘の味」
ストーカーもどきで繭を張る並木。 例のニジコと不思議な同居生活に。
人生ってどんなところで糸が絡み合うかわからない。 だから面白いと思う。
心のよりどころというか、自分の居場所というか、なんかそんな断片的でありながら
まるで輪廻のようなつながりを見せるこの小説は、大きな起伏はないにしろ、
どこか登場人物それぞれが、今のギスギスした人間関係ではなく、
温かみがあり、人間のエキスを感じる文字通り
“泥臭い”一面を搾り出した作品だと言えるでしょう。
その後、この小暮荘に住む住人たちと、それに拘わった人たちはどうなったのか?
読み終わって思わず、その後の小暮荘の住人たちを
覗いてみたい気持ちで一杯になった。









