くろにゃんこの読書日記

マイナーな読書好きのブログ。
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パミラー淑徳の報い リチャードソン

2006年08月03日 | 海外文学 その他
ホーソーン「七破風の屋敷」を借りようと図書館の筑摩世界文学大系のある棚の前に立ったとき、そういえばcountsheep99さまが「イギリスの小説は召使から始まった。」という記事で紹介されていた『パミラ』も筑摩世界文学大系だったことを思い出し、手にとってどんなかなぁと本を開いてみますと・・・

御両親様ーたいそう困ったことをお報せしなければなりません。でも、少しは慰めの種もあるのですけど。と申しますのは、奥様が先日来のあの御病気でお亡くなりになり、わたしたち一同悲嘆にくれています。

嗚呼っ!
なんという流れるような訳文。
いかん。
このままでは立ったまま1章ぐらい読んでしまう。
借りますとも。
是非、借りさせてください!
というわけで、お持ち帰り決定。

countsheep99さまが作品の解説を簡潔に要点を捉えていますので、
そちらを読んでいただければ『パミラ』がその後のイギリス文学に大きな影響を与えたことがおわかりいただけると思います。
リチャードソンが「イギリス小説の父」であり、『パミラ』が1740年に出版された最初のイギリスの小説であると聞くと、古典なんて恐ろしく堅苦しいってイメージを持つのではありませんか?
ところがどっこい。
ビカレスクだし、そんじょそこらの恋愛小説なんかよりずっと面白いんじゃないかと思います。
まあ、私はハーレクインなどの恋愛小説は読まないので比較することはできませんが。
とにかく、久しぶりに「次は一体どうなってしまうのかぁぁぁ!?」という期待感で純粋な小説の楽しみ方を思う存分堪能させてもらいました。

ある大きなお屋敷に仕える美しいと評判の小間使いパミラ(15歳)が、
若旦那様に見初められます。
↑の文章からわかるように、パミラは若旦那様の母上つきの小間使いで、
奥方が亡くなられた後、身のふりかたをどうすべきかはっきりしないパミラに、御主人様は面倒をみることを告げます。
また、優しく手をとったり、なにかと贈り物をしようとします。
下心まるみえ。
最初はそんな御主人のことを「天使のように見える」と両親への手紙にしたためていたパミラですが、その両親からは「お前、気をおつけ」という危惧の手紙が。
当然ですね。
さて、御主人様ですが、そんなパミラの手紙をこっそりと召使に命じて全て盗み読み。
それじゃあ、ストーカーでしょう。
さらに、ご主人様は悪巧み(夜這いとか)をしようと目論見ます。
操が危うくなる度にボッとしてパミラ失神。
難を逃れます。
うおっ、スゴイ、気絶してるよ~~!
明らかになったご主人様の意図にパミラはお屋敷を退くことに決めます。
そのとき御主人様はといいますと
「行っちゃいけないーいや、行っちまえー戻れ、こいつ」
いやはや。
自分のやろうとしていることが恥であるとわかっているのに、
あきらめきれない心情が良くあらわれていますね。
とうとう思い余ったご主人様は、パミラを自宅まで送る馬車を偽って別の屋敷に連れて行き、なんとかして妾になることを納得させようとします。
御主人様、それは拉致監禁っていうんですよ。

御主人様の悪行の一部を公開してみましたが、そんな悪行に屈せず、
操を守り通そうというパミラ。
パミラは信心深く厳格で情愛にあふれ、貧乏ではあるけれど誠実な家庭に育ち、美しく優雅で女性のたしなみとされるものを奥方から学んでおり、美徳にあふれています。
さて、この時代の美徳とは、神慮を大事にすることであり、パミラはその美徳でもって周囲の人々を惹きつけ、悪辣なご主人様の策略を断念させ、改心させ、めでたく正妻の地位に収まり、身分違いに反対するご主人様の姉もパミラの美徳によってなだめられてしまいます。
神慮を重んじることが、正しく報いられることにつながり、悪の道から立ち返った人物も許され、その行いによって報いられるわけです。
ここまで読めば、この小説が教訓小説であることもおわかりになるでしょう。
その意図でもって書かれたことに疑いの余地はありませんが、単なる教訓小説とするには、
あまりにもドラマチックです。
そして、一人ひとりのキャラクターが個性を持って生き生きと描かれており、とても人間くさく、高潔なパミラでさえも日記のなかや手紙のなかで痛切な悪口を言ったりしています。
さらに、パミラ自身は気付いていないのですが、本文のなかに「あれ、もしかして」と思わせる箇所がいくつかあり、パミラがご主人様に好感を抱いていることが読者にさり気なくわかるような粋なはからいや、マリッジブルーなどの女性らしい心理描写も巧みです。
また、本文はパミラが両親に送る手紙と日記によって構成されていますが、途中で御主人様がパミラの目の前でパミラの日記を一読者として読むところがあり、日記を読む御主人様、その出来事を日記に書くパミラ、それを読む私達読者、この構図にワタクシ感心してしまいました。
『パミラ』がイギリス最初の小説とされるのは当然のことですね。
というか、これが一番最初の小説なのかと唸らされます。

「淑徳の報い」という副題がついている『パミラ』ですが、後年、リチャードソンは『クラリッサ』という「淑徳の不幸」の小説を書いているようです。
サド『美徳の不幸』と比べてみるのも面白いかも。
淑徳、美徳にあふれるパミラに、ご主人様は
「お前はいつもアーメン、ソーメンだ」(この訳はスゴイ!)と皮肉ります。
私達からみれば、神慮ばかりを重んじるパミラはちょっと滑稽ですよね。
以前、ウィルキー・コリンズ「月長石」を読んだとき、イギリスでは発行当時、狂信的な信仰心を持つクラック嬢の章が一番感興を呼んだそうなのですが、私にはそれがどうしてなのかさっぱりわかりませんでした。
今回『パミラ』を読んで、なんとなくその理由に察しがついたように思います。

追記
『クラリッサ』を探すべく、WEB検索したところ、邦訳本は出ていないようです。
ガックリしながら、さらに探索を続けていますと、なんと、北大の渡辺洋教授がWebで全訳を公開していらっしゃいました!
http://yorific.ilcs.hokudai.ac.jp/
PDFでダウンロード可。
ああ、神は私をお見捨てになられなかったのです。
パミラ風に神に感謝してみました(笑)

筑摩世界文学大系 (21)





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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いつもの (きし)
2006-08-08 22:12:42
私なら全く縁のない作品ですが、なんだか面白そうです。

久しぶりに図書館に行く気になりました。



ところで、くろにゃんこさま。

『本バトン』にお付き合いいただけませんか?

くろにゃんこさんの印象に残っている本、とても気になるのですが。

お寄りいただけるとうれしいです。
面白いですが長いです (くろにゃんこ)
2006-08-09 08:00:31
結構な厚みのある本なので重たいし、3段書きで字も細かい。

ストーリィが面白かったので、私は最後まで読むことが出来ましたが、イギリス的なまったり感に馴染みがないと厳しいかもしれません。

ためしに図書館で借りてみるのが一番でしょう。



ブックバトンは一度やっているんですが、もう一回くらいやってもいいかな。

以前の記事はこちら

http://blog.goo.ne.jp/curonyanko/e/83203af11f3684e22b567029bd8c9cc3
ブック、でしたか。 (きし)
2006-08-09 21:55:27
「本バトン」で検索して出なかったので…失礼いたしました。



長くて重い3段組。夏休み本として、チャレンジします。
楽しめたようですね! (countsheep99)
2006-08-14 17:06:35
くろにゃんこさん、ども。



いやぁ、自分が「面白い!」と思った本が、他の人も楽しんで読んだと知るのは、どても、嬉しいなぁ。



それにしても、筑摩世界文学大系は、デカイ、重い。



わたしは本を読むときは、たいてい仰向けに寝っころがって、本を上に持ち上げて読むのですが、この本ばかりは5分で腕がブルブル震えて、断念しました。



『クラリッサ』邦訳本なかったんだ!

どうりで大学の図書館で検索しても見つからないはずだー!



さっそく北大教授のWeb訳をのぞいてみましたよ。

『クラリッサ』も書簡体小説。

なんだかパソコンで主人公からのメールを読んでいるような気になってしまいました。



妙にリアル(笑)。

楽しかったです (くろにゃんこ)
2006-08-15 22:35:56
小説を楽しむっていうのはこういうことなんだぁと本当に思いましたよ。



筑摩文学大系はデカイし重い。

仰向けで読むのは確かにムリ(笑)

読むだけで腹筋とか上腕ニ頭筋、上腕三頭筋とか鍛えられるか?

ダンベルの代わりになってイイかも!?

私はベットでうつ伏せ派ですね。

うつ伏せを長時間していると肘とか腰にキます。

時々、本を支えている腕の中にネコが侵入してきまして、さらに読みにくくしてくれます。

可愛くて、ついつい頑張っちゃいますが。



「クラリッサ」はまだ中身までは見ていないんです。

題名だけを見たんですが、なにか、それだけで感動してしまいました。

リチャードソンはサロンなどで、ご婦人方の意見を聞きながら執筆したようで、フェミとしても重要な本だということを検索をしながら知りました。

私は、WEB画面の書物を読むのは、あまり得意ではないので、プリントアウトして読もうと思っているんですが、いったい何枚髪が必要なのか恐ろしくて躊躇しています。

9月になれば、子どもたちも学校に行ってPCが使える時間も増えますので、それからじっくり取り組もうかと思ってます。

パソコンから主人公のメールというのも、捨てがたいなぁ(笑)