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漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました.

(医学雑誌拾い読み)「中医学と日本漢方との対比」(梁 哲成)

2017年07月17日 13時39分17秒 | 漢方
 「中医学と日本漢方との対比」梁 哲成(やんハーブクリニック)
日本小児東洋医学会誌

 教育講演の記録集より。
 私は実際にこの講演を会場で聴講しました。
 漢方医学には、現代に継承されている本家本元の中国の「中医学」と、日本に輸入されて日本独自の発展を遂げて現在に至る「日本漢方」の2つがあります。
 大元は同じですが、宗教の流派で結構解釈が異なるように、同じ単語でも意味が違ったりして混乱の基になっています。

 「なんちゃっって漢方医」の私がかじってきたのは日本漢方です。
 理論的に突き詰めると実態が逃げてしまう日本漢方のファジーさと、見え隠れする中医学の弁証論治の違いをわかりやすく解説した内容で、目からウロコが落ちる思いでした。
 聴講後、梁先生の著書を何冊か購入しました。
 
 日本漢方は論理的に完結していません。
 『傷寒論』『金匱要略』をベースに、時代に沿っていろいろな考え方を吸収・アレンジしてきたので多層構造となっており、今でも開かれたシステムです。
 現在の日本漢方は江戸時代の古方派の流れをくんでいますが、古方派はそれ以前の中医学に近い後世派の理論を否定するところから始まり、つまり中医学的生理学・病態学を捨てて、そこをブラックボックス化してしまったので、現代西洋医学を学んだ我々世代からは「ファジー」とか「捉えどころがない」というイメージになってしまうカラクリがわかりました。

 一方、中医学は完結した思考システム。
 ですから、理論的に漢方を構築したいなら、中医学を学んだ方が良いということになります。
 実際に、私の以前の主治医は、日本漢方のファジーさより理論的な中医学に惹かれ、そちらに鞍替えした漢方医でした。

 ただ、中医学理論ですべての病気が治せるわけでもないので、両方の要素を美味しい所取りで学んだ方が良さそうです。
 ただ、日本漢方をかじった私に、これから中医学をマスターするエネルギーが果たしてあるかどうか・・・。


<備忘録>

□ 中医学と日本漢方の起源はともに三大古典にあるが、用語の解釈にも一致しないことが多々ある。
・中医学は「弁証論治」、日本漢方は「方証相対」
・中医学の証は「病理の要点」、日本漢方の証は「病態の特異性を示す症候」
・傷寒論の記述をどう解釈するかという学説には、これまで以下の4つが議論されてきた;
1.経絡学説
2.臓腑学説
3.気化学説
4.症候分類学説
 このなかの1・2・3が統合されて中医学が成り立ち、日本漢方は主に4の姿勢が貫かれている。

□ 中医学は「弁証論治」
 中国伝統医学は、黄帝内経・神農本草経・傷寒論/金匱要略の三大古典から、金元四大家による温補派や養陰派、明清医学による温病学など諸学説を経て、現代中国になって国定教科書制定の過程で弁証論治を下に整理統一された。

□ 弁証論治の種類
・八綱弁証
・病邪弁証
・気血津液弁証
・臓腑弁証
・六経
・温病弁証
これらが行き着くところは、外邪、病理産物、気血津液精、臓腑・・・という基礎概念と補瀉虚実という基本法則によって行われる。
この基礎概念はわずか40程度であり、基本原則は三大法則で説明できる。
現代科学的に実証されないこれら概念や理論を空理空論と批判する向きもあるが、このシステムはあくまでも適応方剤の決定の根拠を得るための作業仮説である。

□ 中医学の基本原則と三大原則
・基本原則(素問より)
「邪気盛則実、精気奪則虚」
「虚則補之、実則瀉之」
・三大原則
1.体内に邪魔なものが存在すると病気を起こす。そのときはそれを取り除く。
(外邪)風寒暑湿燥火
(病理産物)痰飲、瘀血
2.生理活動を行うものが滞ると病気を起こす。そのときはそれを巡らす。
 気、血 → 気滞、血瘀
3.生理活動を行うものが不足すると病気を起こす。そのときはそれを補う。
 気、血、津液、精 → 気虚、陽虚、血虚、津液不足、陰虚、腎虚・・・

□ 中医学の基礎概念
・人体の生理活動を行うもの:気、血、津液、精
・人体の構造:
(表)皮膚、肌○、表在する筋や経絡など
(裏)五臓路婦、奇恒の腑、深在する血脈など
・外界から人体に侵入し悪影響を与えるもの(外邪):風、寒、暑、湿、燥、火
・体内で発生し悪影響を与えるもの(病理産物):痰飲、瘀血

□ 日本漢方は「方証相対」
 日本漢方は明医学を単純化・日本化して日本に根付かせた後世派(曲直瀬道三ほか)が江戸中期以降、傷寒論を中心にした張仲景に帰り、理論よりも実践を重視した古方派(吉益東洞ほか)が台頭、主流を占めた。
 その後、明治政府の漢方医廃止政策から昭和の復興期を経て、各種の症候分類学説を積み重ねて、これらを基に方証相対で症例に対峙している。
 使用される方剤は、その症候に相対して決定される(方証相対)。鍵と鍵穴に例える先人もいる。
 方証相対の概念・精神は、吉益東洞の「目に見えぬものは言わぬ」という言葉によく表され、病理の根拠が不明な現在においては、方剤決定の根拠はブラックボックスであるから、症候分類学として臨床に臨むということ。
 そこで一旦リセットボタンが押された日本漢方は、疾患と方剤の架け橋となる学説を積み重ねていくことになる(次項)。

□ 日本漢方の多層構造
1.原典主義学説 ・・・傷寒論/金匱要略の記載を重視するという古方学派の原理主義。それ以外の文献にある方剤についても、その記載を重視する姿勢。
2.六病位学説 ・・・熱性伝染性疾患だけでなく、あらゆる者のすべての疾患を傷寒論の六病期に当てはめ、その傷寒論の方剤を使用する(「傷寒に万病あり、万病に傷寒あり」)。他の出典の方剤にも六病期を設定する。
3.気血水学説
4.腹診学説
5.補完的臓腑学説
6.症候・病名の2ベクトル学説(簡易八綱分類学説)
7.西洋医学病名投与学説

・・・日本漢方の特徴は、あえて古典的生理学・病理学を否定し、方剤選択の根拠となる理論はブラックボックスとして、この症候分類学説群によて症例に臨む点である。

□ 六病位学説
あらゆる疾患(万病)が六病位を経ると考える。
疾患は病邪と正気の相対で表され、表から裏へ、陽証(熱証)から陰証(寒証)へ、実証から虚証へ、軽症から重症へと経過し、すべての疾患を抱える者は六病位のいずれかに分類される。

□ 気血水学説
 しばしば中医学の気血津液弁証と比較され、類似する部分も多いが、病理を分析する気血津液弁証と、症候分類の証である気血水学説は本質が異なる。
 古方学派日本漢方はそもそも、伝統的漢方中医学の生理学が否定されたところから出発しているので、生理学がなければ病理学も存在し得ない。気血水学説における各証(気虚/気滞、瘀血/血虚、水毒など)は症候分類の証である。
 中医学の気血津液弁証の証は症候⇒病理⇒証⇒治法⇒方剤である弁証論治における、病理の要点たる証である。
 日本漢方では生理学がない中でも、これらの病床を漢方医学とも西洋医学とも言えない素朴なイメージで表現されることがある。
(水)日本漢方では脱水に相当する概念は水の証にはない。西洋医学の概念である脱水という用語がしばしば転用される。近年、一部の論者により水毒(水滞)あ「透明な液体のあるべきところの過剰な存在又はないはずのところの存在に加え、あるべきところの不足」という「透明な液体の偏在」と、脱水も含有する概念として定義されることもある。
 一方、中医学では脱水に相当する「津液不足」なる概念もある。

□ 腹診学説
 日本で発展し、日本漢方の独壇場と言える。
 多くの腹証は他の日本漢方学説では解説されていないし、されようともしていない。

□ 補完的臓腑学説
 上述各学説でも方剤の決定が難しい場合、一度は放棄されんとした臓腑学説が一部応用されることがあり、補完的臓腑学説と位置づけよう。
 とりわけ「腎虚」(八味丸、六味丸など)、「脾虚」(人参湯など)が挙げられる。
 しかしあくまでも症候のイメージたる臓腑の証にとどまり、中医学の「病理の要点」たる証ではない。
 そしてその症候のイメージは西洋医学的な解説が多く、漢方医学的な再定義の試みはされていない。

□ 2ベクトル学説
 各証高や疾患ごとに、八綱分類の虚実、寒熱による4象限にあらかじめ権威ある専門家によって方剤を設定させ、これをあんちょことして利用する方法。
 ここで問題になるのが中医学と日本漢方の虚実の概念の違いである(次項)。

□ 中医学と日本漢方における虚実の概念の違い
 日本漢方における虚実には闘病反応の強弱という概念があるが、そのベースにあらゆる疾患に病邪の存在があるという前提がある。これは吉益東洞の万病一毒説につながる認識かもしれない。
 一方中医学においては、病邪が存在しなくても生理活動を行うものの停滞や不足でも発病しうるという認識の相違がある。
<実>
中医学(存在や停滞の実)・・・邪魔なものの存在と生理活動を行うものの停滞
日本漢方(抵抗力の実)・・・体力の実、もしくは気血の力が旺盛、闘病反応が盛ん。
<虚>
中医学:生理活動を行うものの不足。
日本漢方:体質的な虚弱、もしくは気血の力が弱い、闘病反応が弱い。
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