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日々アレルギー疾患の診療をしている小児科医です.読んだ本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

母親由来の抗体は、乳児予防接種の効果を低下させる。

2017-10-17 13:01:13 | 予防接種
 興味深い論文を見つけました。
 赤ちゃんはお母さんから胎盤を介して免疫をもらい、生後半年くらいはその抗体で守られると一般的に考えられています。
 赤ちゃんに予防接種をする際は、この抗体の存在を考慮に入れなければなりません。
 抗体がある状態で該当ワクチンを接種しても、「もう抗体があるから必要ないよ」と排除される可能性があるからです。
 しかし母親由来の抗体は赤ちゃんが自分で作ったものではありませんので、いずれ消えてしまいます。
 すると、ワクチンを接種して免疫ができていると信じている親を裏切るように、免疫がない状況が作られてしまうのです。

 このため、生ワクチンは1歳以降に設定されています(ただしBCGとロタウイルスワクチンは例外)。
 さて、他の不活化ワクチンについてはどうなのでしょう。
 B型肝炎やヒブ、肺炎球菌ワクチンは生後2ヶ月から、四種混合は生後3ヶ月から接種していますが、問題ないのでしょうか?

 内容を読むと、ほとんどのワクチンが母親由来の抗体の影響を受けていることがわかります。
 検討されたのは、ジフテリア、破傷風、百日咳、Hib、ポリオ、B型肝炎、C群髄膜炎、肺炎球菌。
 ポリオ以外は不活化ワクチン、ポリオとB型肝炎以外は細菌ですね。
 そして結果は、母親由来の抗体が残っている状態で赤ちゃんに該当ワクチンを接種すると、その効果が10〜20%程度低下してしまうことが判明しました。

■ JAMA Pediatrics誌から〜移行抗体が高い時期はワクチンの効果が下がる〜妊婦への予防接種は乳児の接種スケジュールに影響する
2017/6/8:日経メディカル
 予防接種後の乳幼児の免疫反応に影響を及ぼす要因として、母親からの移行抗体の濃度と接種時の年齢について検討した英国Oxford大学のMerryn Voysey氏らは、移行抗体の濃度が高いうちは乳児の免疫反応は低く、初回接種時の年齢が高い方が免疫反応は高くなると報告した。結果はJAMA Pediatrics誌電子版に2017年5月15日に掲載された。
 母親からの移行抗体は、数カ月間、乳児を感染症から守るが、その濃度は生後数週間から数カ月かけて徐々に低下する。乳児の免疫反応性はその間に高まっていくが、一部の予防接種については、母親由来の抗体濃度が高いと、免疫反応が十分に起こらないことが示唆されている。しかし、接種の効果がどの程度抑制されるのか、移行抗体の影響が大きいのはどのワクチンなのか、信頼性の高い研究報告は知られていなかった。
 そこで著者らは、母親由来の抗体の濃度と、初回接種時の乳幼児の年齢が、予防接種による抗体誘導に及ぼす影響を調べることにした。GlaxoSmithKline社が乳幼児を対象に行った、承認されたワクチンと未承認のワクチンの免疫原性を調べた試験で、初回接種前の乳幼児の抗体濃度(母親由来)とワクチン接種後の適切な血清学的データが報告されていた研究を選出した。プラセボやワクチンなしに割り付けられた乳児のデータは除外した。Clinical Study Data Requestを通じて匿名化したデータを得て、それらを対象にメタアナリシスを行った。結果は、抗原特異的なIgG抗体濃度で評価した。
 17カ国で行われた、21種類の抗原(ジフテリア、破傷風、百日咳、Hib、ポリオ、B型肝炎、C群髄膜炎、肺炎球菌に対するワクチンに含まれている抗原)を用いた32件の試験に参加した、7630人の乳幼児について分析した。ベースラインの平均年齢は生後9週(範囲は5~20週)で、51.2%が男児だった。接種スケジュールは、4種類のスケジュールのどれかを用いた。1)6・10・14週、2)2・3・4カ月、3)2・4・6カ月、4)3・4・5カ月。

<母親由来の抗体と乳児の抗体上昇の関係>
・21種類の抗原のうちの20種(例外は血清型7Fの肺炎球菌多糖体抗原)は、母親由来の抗体が存在すると、3回接種後の乳児の抗体反応を阻害していた。
・影響が最も大きかったのは不活化ポリオワクチンで、母親由来の抗体濃度が2倍になると、予防接種後の乳児の抗体濃度は20~28%低くなっていた。幾何平均比(GMR)は、I型に対するワクチンが0.80(95%信頼区間0.78-0.83)、II型に対するワクチンは0.72(0.69-0.74)、III型に対するワクチンは0.78(0.75-0.825)だった。
百日咳無細胞ワクチンでは、母親由来の抗体の濃度が2倍になると、3回接種後の抗体濃度は、百日咳毒素についてGMRは0.89(0.87-0.90)、繊維状赤血球凝集素(FHA)では0.89(0.88-0.90)、外膜蛋白質のパータクチンについては0.78(0.77-0.80)と低くなっていた。
破傷風ジフテリアについては、母親由来の抗体の濃度が2倍になると、予防接種後の抗体濃度がそれぞれ0.87(0.86-0.88)と0.76(0.74-0.77)だった。
肺炎球菌ワクチンのPCV7(n=466人)では、ジフテリアとの交差反応が見つかった。母親由来のジフテリア抗体があると、PCV7のうち血清型4のGMRは0.93(0.87-0.98)、6Bは0.88(0.80-0.98)、9Vが0.91(0.86-0.97)と、乳児の抗体価が上昇しにくくなっていた。
・母親由来の破傷風抗体は、PCV7による乳児の抗体価上昇に影響していなかった。
・同じ肺炎球菌ワクチンでもPCV10(n=1457人)では、母親由来のジフテリア抗体が影響していたのは血清型19F(GMRは0.84、0.80-0.89)のみだったが、破傷風抗体は血清型18C(GMRは0.94、0.91-0.99)と19F(GMRは0.92、0.88-0.96)による抗体上昇を妨げていた。
Hibワクチンも交差反応の影響を受けていた。母親由来のワクチン株による抗体があるとGMRは0.96(0.93-0.99)だったが、母親由来の破傷風抗体があるとGMRは0.97(0.94-0.996)で、母親由来のジフテリア抗体があるとGMRは0.96(0.94-0.99)だった。

<母親由来の抗体と乳児接種開始時期による抗体価上昇の関係>
 21種類のワクチン抗原のうちの18種類では、小児が成長してから初回接種を行う方が抗体価が上がりやすい傾向を示し、1カ月遅く始めるごとに抗体価は10~71%上昇していた。この現象は、母親由来の抗体の濃度の影響で調整しても有意だった。

・影響が最大だったのは、Hibワクチンで、接種が1カ月遅くなるとGMRは1.71(1.2-1.92)だった。
・接種開始年齢の影響を受けなかったワクチンは、グループCの髄膜炎菌と、血清型14と23Fの肺炎球菌だった。

<母親由来の抗体と追加接種後の抗体上昇の関係>
 初回接種時の年齢が高いほど接種後の免疫反応が大きい現象は、追加接種後にも認められた。

・差が最も大きかったワクチンは、ジフテリア、血清型5と18cの肺炎球菌、III型ポリオなどだった。
・一方で、追加接種時の年齢が高いほど抗体濃度が高くなったワクチンは破傷風Hibのみだった。

<母親由来の抗体とブースター接種前にも残った抗体反応性低下>
 メタアナリシスに組み入れたうち12の研究では、12~24カ月にブースター接種を追加していた。ブースターを打つ前の時点でも、20種類のワクチン抗原のうち16種類で、母親由来の抗体による反応低下の影響が残っていた。初回接種を行う年齢が抗体価の上昇に及ぼす影響も、ブースター追加前の時点で、破傷風ワクチンと肺炎球菌ワクチンの23F抗原以外に見られた。

<妊婦への予防接種による影響を考慮した乳児初回接種を遅らせるべき期間>
・妊婦への予防接種によって移行抗体が2倍から5倍になっていた場合の影響を打ち消すために、初回接種を遅らせるべき期間は、百日咳ワクチンなら2.2~5.04週ジフテリアでは2.6~5.9週破傷風なら1.7~3.9週と推定された。

 これらの結果から著者らは、予防接種プログラムに含まれているほぼ全てのワクチンについて、初回接種時点の乳児の年齢と母親由来の抗体濃度が、ワクチンに対する反応に影響を及ぼしていた。母親に対する予防接種は、乳児の予防接種スケジュールに影響を与えるため、両方を含めた予防接種戦略を考える必要があると結論している。

<原著>
・「The Influence of Maternally Derived Antibody and Infant Age at Vaccination on Infant Vaccine Responses
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