小児医療・アレルギー・アトピー他

日々アレルギー疾患の診療をしている小児科医です.読んだ本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

子どもと違う「高齢者の便秘」の特徴

2017-09-23 16:13:51 | 医療問題
 「子どもの便秘」には日々つき合っていますが、高齢者の便秘に関する記事が目にとまりましたのでメモしておきます。

 私自身、40歳代までは毎朝回便だったのですが、50歳が近づくにつれて出が悪くなり、週に1くらい便通のない日が出てきました。それまでの生活リズムがくずれ、違和感を抱えたまま一日を過ごすことになかなか慣れませんでした。
 あるとき、NHK「ためしてガッテン」で「中年以降は便の出が悪くなり毎日出なくても異常ではない、便秘と考えなくてもよい」と専門家のコメントを聞き、「なんだみんなそうなんだ」とちょっと安心。
 でも、オリゴ糖を含めた食物線維を摂取するようつとめたり、オリーブオイルを毎日使ったりと食生活に気を遣うようになり、効果は実感しています。

 さて、将来はどうなっていくのか・・・高齢者の便秘について勉強しておきましょう。
 記事が長いので、私がポイントと感じた箇所を列挙しておきます。

<高齢者の便秘には二つのタイプ>
1.排便回数減少型・大腸通過遅延型
 加齢により腸管運動機能が低下して蠕動運動が衰え便秘となります。そして、腸の内容物が停滞して腸管全体の動きが悪くなり便秘となります。
2.排便困難型・機能性便排出障害
 加齢により排便時に生ずる肛門周囲の筋肉の一連の動き(直腸内の便が腸管壁を伸展して直腸筋の収縮と内肛門括約筋の弛緩が起こり,随意的に外肛門括約筋が弛緩して肛門挙筋が収縮する)が障害され便秘となります。つまり高齢者では、直腸に便が到達して腹圧をかけても、排便反射が起こりにくいため便秘となり、残便感が強くなります。

<高齢者の便秘の原因>
・食物繊維や水分の摂取が不十分
※ ただし、食物繊維は高齢者に多い大腸通過遅延型の便秘では便秘を悪化させることもあるため、あくまで適切な量を。
・運動不足
・環境の変化
・基礎疾患による腸管運動機能の低下
・薬剤

■ 「高齢者の便秘をどう診るか(上)」
北里大学総合診療医学・地域総合医療学 木村琢磨
2017年08月24日:メディカルトリビューン
頻度の高い健康問題の1つ
 高齢者にとって便秘は非常に頻度の高い健康問題です。特に、認知機能が中等度に障害された場合には便意がなくなり、ADLが寝たきりに準じるようになれば便座に座り難くなるため、便秘の頻度が増すと考えられます。便秘は、認知機能やADLが保たれている場合にもしばしば問題となります。そして「認知機能は正常〜中等度の障害」「ADLは自立〜便座に介助で移動可能」程度の高齢者の便秘には、特に多くの対応が必要となります。今回は「高齢者の便秘をどう診るか」について考えます。
加齢による2つの病態で便秘が生ずる
 高齢者は主に2つの病態によって便秘を生じます。
 第一に、加齢により腸管運動機能が低下して蠕動運動が衰え便秘となります(排便回数減少型)。そして、腸の内容物が停滞して腸管全体の動きが悪くなり便秘(大腸通過遅延型)となります。
 第二に、加齢により排便時に生ずる肛門周囲の筋肉の一連の動き(直腸内の便が腸管壁を伸展して直腸筋の収縮と内肛門括約筋の弛緩が起こり,随意的に外肛門括約筋が弛緩して肛門挙筋が収縮する)が障害され便秘となります(排便困難型)。つまり高齢者では、直腸に便が到達して腹圧をかけても、排便反射が起こりにくいため便秘となり(機能性便排出障害)、残便感が強くなります。
 そして、長期臥床や寝たきりでは上記の2つが助長されるため便秘が非常に多くなるのです。
高齢者では男性でも便秘が多くなる
 便秘は一般に女性に多い愁訴ですが、高齢になると男性でも多くなることを認識しておきます。2013年国民生活基礎調査によれば便秘の有訴率(人口1,000人対)は37.4(男性では26.0、女性では48.7)で、女性に多いと報告されています。一方、年齢階級別では、20歳代から50歳代では男性に比べて女性で多く、60歳代以上では男性も増加し、80歳代では女性よりも男性で多くなります。
 高齢者は日常診療で排便について、その羞恥心などから必ずしも話題にしないかもしれません。しかし、機会を捉えて耳を傾けると「便が残っている感じがしてスッキリしない」と言う高齢者や、中には「毎日、肛門に指を入れて便を掻き出している」などと言う方も経験します。その様な高齢者のQOLを高めるべく、医師として便秘への介入を試みたいところです。
ちょっとした生活習慣や環境変化にも気配りを
 高齢になると、買い物や調理に支障が出て、便秘に有用といわれる食物繊維や水分の摂取が不十分になる可能性があります。高齢者では全身運動や散歩が困難であることも珍しくなく、それが便秘を助長させる可能性もあります。
 高齢者では環境変化も便秘の原因になりえます。わずかな環境変化、例えば「ショートステイの利用」などでしばしば便秘になることがあります。若年者にとっては些細な出来事でも、高齢者の精神面には予想以上の影響を与え、交感神経の緊張により腸蠕動が低下し便秘傾向となりえます。
原因となる基礎疾患と薬剤を知る
 高齢者の基礎疾患として、糖尿病、甲状腺機能低下症、高カルシウム血症(カルシウム製剤による薬剤性に注意)、脳血管障害、パーキンソン病、うつ病などが挙げられますが、これらは腸管運動機能の低下を来し便秘へつながる可能性があります。また、高齢者で排便困難型便秘の場合には、まず機能性便排出障害と考えることが自然ですが、直腸脱、直腸粘膜脱、直腸腟壁弛緩症あるいは直腸瘤(rectocele)など直腸の器質的疾患に伴うこともあり留意します(器質性便排出障害)。なお、大腸がんは増加しており、その初発症状として便秘が生じている可能性も念頭に置いておきます。
 認知症では全般に便秘を来しやすいといえます。認知症の患者では便秘を自覚し難い場合や、症状として訴えられない場合も少なくありません。そして、便秘の不快感が契機となり、 行動心理症状、せん妄、食欲低下へつながる可能性があることに留意します。特にレビー小体型認知症は自律神経障害によって腸管蠕動運動が低下するため病初期から便秘を生じます。また、血管性認知症で運動機能障害を伴えば、排便行為に限界が生じて便秘となる可能性もあるでしょう。
 高齢者では併存疾患や愁訴の多さからポリファーマシーになりやすい傾向がありますが、便秘の原因として薬剤性便秘がありうることにも留意しておきます。便秘の原因となりやすい薬剤が複数処方されているかもしれません(表1)。

表1. 便秘の原因となりうる薬剤

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生活指導のここがポイント
 具体的な生活指導(表2)では、まず、本人・介護者と「便が毎日出る必要はないこと」「毎日排便があっても、硬便で排便時の苦痛が大きいなどの場合は介入が望ましいこと」を共有することが大切です。環境(独居か否か、介護者、食生活、運動習慣、食材の買い物や料理の様子など)に関する情報は特に重要となります。

表2. 本人・介護者への生活指導



 適切な水分補給は有用で、特に起床時の飲水は腸蠕動の促進にもつながるでしょう。高齢者では、もともと頻尿があり、日中や夜間の排尿を防ぐために水分摂取を控えていることがあります。その一方で、高齢者へ安易に「水分を取りましょう」と言うと過剰に取ってしまうことがあり、生活状況や基礎疾患に応じて水分量を具体的に指導するようにします。食物繊維は蠕動運動を促すため便秘に有用ですが、嚥下機能や調理の観点を踏まえて勧めます。また、食物繊維は高齢者に多い大腸通過遅延型の便秘では便秘を悪化させることもあるため、あくまで適切な量をすすめます。なお、乳製品や乳酸菌増殖に役立つオリゴ糖などの摂取は、高齢者においても腸内環境を改善し整腸作用をもたらし便秘を改善します。
 全身運動は全身の筋力維持やリラックス効果が期待できるため便通改善の大切な要素で、特に散歩を勧めるとよいでしょう。散歩が難しい場合には、立位や坐位で体操("みんなの体操"など)を行うことも便秘対策となります。これらは、腸運動の促進の他、排便に必要な腹筋などの筋力の維持・改善につながります。腹圧を高めるための腹筋運動や骨盤底筋体操、腹式呼吸は便排出力の改善につながります。


 対策としては「食べて運動する」と当たり前のことが書いてありますが、それがなかなかできなくなるのが高齢者ですよねえ。

■ 「高齢者の便秘をどう診るか(下)」
2017年08月29日:メディカル・トリビューン
高齢者の便秘には"臨床トイレ学"的な視点が不可欠
 前回は、高齢者の便秘に関する病態、原因となる生活習慣、環境変化、基礎疾患、薬剤、生活指導のポイントについて解説しました。高齢者の便秘に具体的に介入する際には、トイレット行為、使用するトイレ、トイレ誘導と排便時の姿勢について理解することから始まるといえます。これらに関する知識は"臨床トイレ学"といえるのではないでしょうか。
トイレット行為とは
 排泄、特に排便には「一連のトイレット行為ができること」が前提となります。これは、認知機能や日常生活動作(ADL)の低下により妨げられる可能性がありますが、密室となりやすいトイレでは医師はもちろん、家族や介護スタッフも、"どのくらいできているのか"を把握できない可能性があることに留意します。
 トイレット行為は、トイレへの移動、トイレへの出入り、便器の開け閉め、脱衣行動、ペーパーの使用、着衣行動、手洗いなどから成ります。一連の動作のいずれかが上手にできないと考えられる際は、具体的なサポートについて検討します。ただし、排泄行為は非常にプライバシー性の高い行為であり、たとえ、排泄行為の失敗や排泄ケアが必要な場合にも、本人の自尊心や羞恥心に十二分に配慮した対応が不可欠です。もし認知症があっても、あくまで残存能力を生かし、安心して排泄できることが排便を促すことにつながるといえます。
 なお、オムツ類の使用(パット類を含む)は、"念のため使用"する場合から、"便意がない状況"で使用する場合まで多様な背景があると考えられます。オムツ類の使用により、本人には多かれ少なかれ「介護者への配慮」「自信の喪失」が生ずることを認識しておきます。既にオムツを使用している場合も、ある程度の便意が残っていれば、排便パターンを把握し、粘り強く個人に合わせたケアをすれば、自然排泄に導くことができることもあります。"なんとなくオムツを使用する"ことは便秘対策としても避けたいものです。
使用するトイレは?
 近年は洋式トイレが主流の上に、温水洗浄便座の普及も進んでいると考えられます。洋式トイレは、いきむ動作や屈む姿勢が負担となる高齢者には利点があり、温水洗浄の刺激を排便促進に利用することもあります。
 一方、高齢者の中には和式トイレに慣れた方も少なくありません。和式トイレでは直腸肛門角が鈍角になり便が出やすくなります。また、下腹部に腹圧をかけいきみやすくなるため排便に有利に働きます
 ポータブルトイレの使用はADLが制限されている場合には常に念頭に置くべきですが、本人の意向や尊厳と常にトレードオフの関係にあるといえるでしょう。プライバシーや物理的な問題は、「見えないような工夫」 「尿取りパットなどを敷いて音を軽減する」 「消臭グッズを使用する」などで解決することが比較的容易といえるでしょう。ただし、トイレ問題は、本質的には羞恥心や心理的側面に直結することが多く、特に悪性腫瘍の終末期などでは「最期までトイレに行って用を足したい」という臨床的に非常に重要な尊厳の問題に対してどう接していくかに集約されると考られます。
 その他、長年慣れたトイレの方が安心して用を足せるという人もおり、介護支援専門員と連携してトイレの改修などを検討する際には個々に合わせて配慮することが求められます。
トイレ誘導と排便時の姿勢
 朝決まった時間に「トイレタイム」をつくってトイレで排便を試みるのはよく行われる方法です。便意がなくても、便座に座ることで便意を生ずることが期待できます。朝以外の排便が慣習になっていることもあり、食後や軽い運動後など便が出やすいタイミングを生かしてトイレ誘導することも対策の1つです。いずれにせよ、個々に応じて柔軟に対応します。
 認知機能が低下していると、トイレット行為は可能でもトイレの場所が分からなくなる場合があります。本人のトイレに対する認識度を確認しながら、壁にトイレへの案内を貼るなど、トイレであることを認識できるような工夫をします。
 その上で排便の姿勢も指導するようにします。排便時の理想の姿勢(直腸肛門角が広がる )として、ロダンの「考える人」の姿勢、つまり前傾姿勢になり両肘を両膝の上に置き、上半身を前傾にすることを勧めます。踵を挙げることができれば腹筋に力が入りやすいため理想的ですが高齢者では困難なことも多いため、足を乗せる台を置くと有効なことがあります。
高齢者の便秘における薬物療法
 下剤は、われわれの外来・病棟・訪問・施設でのいずれの診療経験でも、減薬を繰り返してもなお内服し続けることとなる数少ない薬剤の代表であると実感しています。高齢者では大腸通過遅延型便秘が多いと考えられ、実際には下剤投与を要することも多いと考えられますが、生活習慣などのアプローチの効果を検討した上で必要な時に薬物治療を開始し、投与後も便秘の背景を評価することを繰り返し、非薬物療法への移行を常に念頭に置くようにします。
 マグネシウム製剤は多く使用されますが、近年高マグネシウム血症に関する注意喚起がなされ、2015年10月から高齢者には慎重投与となりました。定期的に血清マグネシウム値を測定する必要がある時代になっています。高マグネシウム血症の初期症状には、吐き気・嘔吐、立ちくらみ、めまい、徐脈、傾眠などがあり、これらの症状を認めたら本人・家族に内服を中止し医療機関への受診を指導します。
 腎機能障害を有しマグネシウム製剤を使用し難い高齢者には、マグネシウム以外の非刺激性下剤であるルビプロストンは副作用も少なく有用と考えられます。ただし、コストを含め有益と考えられる際に使用するべきでしょう。
 刺激性下剤(センナ®、センノシド®、ピコスルファートナトリウム®、大黄など)は、即効性があるため広く使用されますが、習慣性がある上に、長期連用に伴う耐性が生じることを認識しておきます。やみくもに処方して、腹痛などの有害事象や漏出性便失禁を起こしQOLを損ねることがないようにします。
 漢方薬である麻子仁丸は、エキス剤もあり、高齢者など体力が比較的低下した方にも使用しやすいと考えます。水分不足を防ぎ、コロコロした便を有形便とすることが期待できます。
 浣腸は、直腸に便が到達したにもかかわらず腹圧をかけても排便が起こりにくく、排便反射が起こらないことによる便秘(機能性便排出障害)や残便感が生じやすい高齢者には有効な可能性があります。ただし、排便反射の反応性の低下や直腸粘膜機能の鈍麻につながることがあるため乱用しないようにし、硬便の場合には消化管穿孔などの危険があるため適応を吟味した上で使用します。
便秘の背景評価を繰り返す
 便秘は高齢者の臨床で多く経験しますが、下剤処方だけでは、そのやりがいは見いだせないと考えられます。高齢者の便秘にはさまざまな背景が関係していることも多く、便秘の背景を評価することを繰り返し包括的なアプローチを行いたいものです。

表. 高齢者の便秘における"臨床トイレ学"的な視点



 後半は「介護」の視点から、補助が必要だけど人間の尊厳を損なわないよう気遣いも必要、という難しい対応が必要なことが説かれています。

<追記> 2017.10.24
 最近公表された成人便秘の診療ガイドラインの紹介記事を見つけましたので抜粋・引用させていただきます。

■ 国内初の『慢性便秘症診療GL』の特徴は?
横浜市立大学附属病院肝胆膵消化器病学主任教授の中島淳氏に聞く
2017/10/20 増谷彩=日経メディカル
 今月、日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会が『慢性便秘症診療ガイドライン2017』をまとめ、発刊した。10月15日まで福岡県福岡市で開催されたJDDW2017で、横浜市立大学附属病院肝胆膵消化器病学主任教授の中島淳氏がガイドラインの特徴を解説しながら、便秘診療の満足感を高めるためのコツについて語った。
 便秘は診断が非常に難しい。「自分は便秘だ」と訴える患者が本当に便秘かは分からない、というのは昔から言われてきた。最近のインターネット調査による報告では、「自分は便秘だ」と認識している人は28%に登るが、きちんと診断してみると6割は本当に便秘だが、中には下痢型の過敏性腸症候群(IBS)なども隠れており、なかなか正確に認識されていないことがある。便秘と診断する技術が求められている。便秘はどの診療科の医師でも診療に当たるため、日本消化器病学会が主体となってガイドラインを作成するべきだということになり、研究会が発足した。

便秘の定義はシンプルに
 本ガイドラインにおける便秘の定義は、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」とした。便秘は、国際的にはRome基準などで非常に学問的に厳密に定義されている。しかし、Rome基準は複雑で、実臨床には使いづらい面もある。本ガイドラインは第1版ということもあり、議論はあったがシンプルな定義とした。この定義から、便秘とは排便回数や排便量が少ないために糞便が大腸内に滞った状態、または直腸内にある糞便を快適に排出できない状態という2つの状態だと理解できると思う。こういう状態を便秘症と呼ぼうという意味だ。
 診断は、本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態が続いて日常生活に支障が出ているが、排便回数や便の性状、腹部症状の有無を聴取し、検査を合わせて実施しながら行う。
 高齢者の場合、例えば60歳を超えて退職した後に、運動量や食事量などが減って便秘になるというケースがある。こういった患者は便秘の症状にかなり悩まされて医療機関を受診し、医師に薬を処方してもらおうとする。医師はここで、必ず排便回数を聞く。こうした患者の場合、排便自体は毎日あることが多い。便秘に悩み始めたばかりの人ではよくあることだ。または、排便困難があって薬剤を使わないと完全に排便できず、1日何度も排便することもある。しかし毎日排便があるケースでは、医師は「それなら便秘ではないので心配しないでください」と言ったりする。これが問題だ。こうした患者の訴えをうまく医師が受け取れるようになることが、このガイドラインのゴールだと思っている。
 慢性便秘は、原因から器質性か機能性に、症状から排便回数減少型か排便困難型に、病態から大腸通過正常型か大腸通過遅延型、便排出障害に分類される。排便回数や排便困難にこだわっているように見えるが、これは我が国では結腸通過時間を計るテストが保険適用になっていないため、臨床に即した分類にしたという意味だ。

治療は内服療法など保存的治療が基本
 治療は、保存的治療を基本としている。保存的治療として挙げているのは、生活習慣の改善、内服療法、バイオフィードバック療法、外用薬、摘便、逆行性洗腸法だ。外科的治療としては、非常にまれだが直腸瘤の手術や、盲腸部分から肛門に向けて洗浄する順行性洗腸法、あるいは大腸切除術などを取り上げている。これらの治療法を、ガイドラインではエビデンスの質をA~Dで、推奨度を「1 強い推奨」か「2 弱い推奨」で表している。
 内服療法の場合、臨床で用いることが多いのは上皮機能変容薬だ。ルビプロストン(商品名アミティーザ)やリナクロチド(リンゼス)がある。慢性便秘症には、上皮機能変容薬の使用と推奨している(1A)。ただし、ルビプロストンは妊婦には禁忌、若年女性では悪心が生じやすいので注意が必要だ。一方、リナクロチドは今年3月に便秘型IBSを適応として発売された薬剤であり、慢性便秘症への適用は現時点ではないが、今後エビデンスが蓄積され、いずれ慢性便秘症に適用されることが期待される。特徴としては、痛み刺激が抑制されるということで、腹痛を訴える患者には効果が期待できる。
 次に、浸透圧性下剤は慢性便秘症に有用であり、使用を推奨する(1A)。ただし、マグネシウムを含む塩類下剤を使用する際は定期的なマグネシウムの測定を推奨するという条件を付けている。ちなみに、我が国ではほとんどの便秘に酸化マグネシウムが使用されている。私もかなりの患者を診ているが、血清マグネシウム値が高い人はなかなかいないため、血清マグネシウム値を計測する条件に議論はあるかもしれない。現時点で特に気にしなければならないのは、高齢者、または腎機能が低下している人には非常に使いにくい点だ。量を減らす、他の薬に変えるといった注意が必要だろう。eGFRが60未満になった腎機能障害を有する人では、酸化マグネシウムを服用している人において血清マグネシウム値が上がったという報告もあるので、注意が必要だろう。
 また、活性型ビタミンD3やビスホスホネートなど骨粗鬆症治療薬との相性が悪いのが注意点だ。マグネシウムと難溶性のキレートを生成するため、薬剤の吸収を阻害する。漫然と併用することは避けたい。さらに、酸化マグネシウムは胃酸と膵液で活性化する必要があるため、酸化マグネシウムはPPI内服中の人や胃切除後の人には効果が低いということを認識してほしい。最大限薬効を発揮するのは食後に服用することだ。
 他はエビデンスレベルや推奨の強さが一段低くなっている。プロバイオティクスや漢方といった治療法はまだエビデンスが少ないため、今後が期待される。実臨床では、上皮機能変容薬と同列に浸透圧性下剤を用いることを推奨しているということだ。内服治療以外にも、浣腸や精神・心理療法などがあるが、現時点でエビデンスを示すことが難しく、今後の課題となった。エビデンスレベルはB、推奨度は2だが、我が国で処方枚数が多いのが刺激性下剤(アントラキノン系下剤など)だ。非常に強力な薬剤だが、習慣性、あるいは依存性といった問題がある。そのため刺激性下剤は頓用すべきで、常用は控えた方がいいだろう。

「完全排便」が望めるブリストル便形状スケールの4を目指す
 内服療法以外の治療法で最近増えているのが、バイオフィードバック療法だ。排便困難症状に対して非常に高い効果がエビデンスとして出ているため、エビデンスレベルはAとした。治療法として保険収載されておらず、国内で実施できる施設も少ないのが課題だが、今後国内で普及していくことが期待される。タイなどでは普通に消化器内科医がバイオフィードバック療法を施行している。日本はこの分野で遅れているといえる。
 バイオフィードバック療法は、器質性疾患には無効だが、直腸肛門機能障害の人に有効だ。つまり、リズミカルに排便できない、肛門がうまく緩められないという人に効果が期待できる。
 内服薬を投与し、便が軟らかく、水様便になってもあまり排便できない人、排便したとしても、水様便がちょっとだけ出るとなると、いきみや努責が出てしまい、非常に排便困難症状が強くなる。こういう人は直腸肛門機能障害の疑いが強いので、現時点では専門家に紹介するのがベストだと思っている。
 それから、我が国では便秘の患者が来ると単剤治療するのが主流となっている。しかし、処方された薬剤で効果が得られればいいが、効果がなかった場合、患者は次の外来まで待つことができず、薬局で刺激の強い薬剤を購入しまうことがある。さらに、刺激の強い薬剤に依存し、不適切な治療につながってしまうということがある。そういう意味で、外来では1カ月後、または3カ月後の次の外来まで初療の薬で困らないよう、保険の意味で常用は酸化マグネシウムなど緩下剤を処方している。もちろん、下痢になったら減らすように指導しておく。そして、刺激性下剤を頓用として処方し、「出ないときはこれを使えばいいですよ」と言っておく。次回の外来で薬剤の調整をして患者の満足度を上げることが実地診療では必要だろう。
 なお、患者の満足度を上げるには「完全排便」が必要となる。欧米人の場合、ブリストル便形状スケールの3~5が正常とされる。しかしアジア人、特に日本人は、熟したバナナ型ともいわれる4しか正常と感じないといわれている。ブリストル便形状スケール4の便がすっと出るのが完全排便だ。



 ヒトは座った姿勢になると恥骨直腸筋が引っ張られ、肛門も閉まっていて便を通さないハードルとなっている。これを便の禁制という。排便の際は、肛門が1cm下がって恥骨腸骨筋が緩むのが正常の動きだ。このことから、便器に座った際に前屈みになって、ロダンの彫刻「考える人」のようなポーズが排便がしやすい姿勢となる。便が硬ければ排便を始めてから終わるまでの時間が掛かり、また分割されて直腸に便が残ってしまうとこれが強力な残便感を生む。患者との対話を重ね、ブリストル便形状スケールの4を目指して薬剤を調整していくことが、満足感の高い治療につながる。
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