小児医療・アレルギー・アトピー他

日々アレルギー疾患の診療をしている小児科医です.読んだ本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「ノーマライゼーションへの道程」(八木三郎)

2017-07-13 07:22:26 | 医療問題
 ふと、デンマークの障害者福祉について調べる機会があり、その際に出会った資料です。
 掲載誌は「Glocal Tenri」、2012〜2015年の35回に渡り連載されました。
 著者は天理大学付属「おやさと研究所」講師で、14歳からの車いす生活者です。

 障害者の概念・定義づけから始まり、障害者福祉の歴史、日本の現状、福祉先進国であるデンマークとの比較、等々が述べられています。そこから問題点をあぶり出し、問いかける内容です。

 キーワードは「ノーマライゼーション」(等生化)。
 障害者を健常者に近づける、という意味ではなく、障害者を含めてふつうに生活できることがノーマルであるという考え方。
 確かに日本のように超高齢者社会になると、体が不自由な人は少数派ではなくなりますので、街造りもそれを考慮したものになることが必要です。
 階段は車いす使用者に大きなハードルですが、高齢者にとっても大変です。

 著者が車いす使用者なので、その視点からの実態調査が詳しく述べられています。
 とくに駐車場事情。
 日本の駐車場は車いす使用者用のスペースがあるものの、それを守るかどうかは市民の“良心”に委ねられているため、違反駐車が後を絶たないのが現実。また、“障がい者”の範囲が、妊婦・杖使用者も含まれる表示もあり、その場合は大抵埋まっているので車いす使用者が利用できなくて困ってしまう。

 一方、デンマークでは障害者用駐車場スペースの使用は許可制で、申請して入手したカードがないと利用できません。違反した場合は罰則・罰金が科せられます。

 それから、「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」の微妙な違いを指摘しています。
 「バリアフリー」は段差が乗り越えづらい車いす使用者を中心にした考え方で、一方のユニバーサルデザインは言語・民族・障害の有無を問わず、すべての人が使用できる仕様を指します。
 しかしユニバーサルデザインの背景に「なぜ車いすだけを優遇するのか?」という不満が見え隠れしていることを著者は見逃しません。
 例えば、ユニバーサルデザインを謳うならば、すべてのトイレを車いすが使用可能な仕様にすべきである、と。

 この部分を読んで、小学校のトイレ事情を思い出しました。
 トイレで「大」をすることは、冷やかしやいじめのきっかけになる、子どもにとっては一大事。
 その問題を解消すべく、某小学校ではすべてのトイレを個室にするという離れ業を断行したそうです。
 つまり、小をしているのか大をしているのかわからない。
 困っていることを大きな枠で取り込んで解決したこの考えは、ユニバーサルデザインに通じるものがあると思います。


<備忘録>

□ 日本の障害者数(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳所持者数)は2011年時点で744万3千人で、人口の6%に当たる。

□ ノーマライゼーションとは?
 「障害者を社会に適合させることが目標ではなく、社会が障害者に適合すること。社会はすべての人々をインクルージョン(包括)し、何人も排除しない社会こそがノーマルである。」
 「障害の有無に関係なく、すべての人が当たり前に生活できる社会が正常(ノーマル)であり、そのような社会の実現に向けて、社会的支援を必要としている人にノーマルな生活条件を提供していくこと。」
 この理念は、1959年にデンマークのニルス・バンク・ミケルセン(N.E.Bank-Mikkslen)により提唱された。
 その後、スウェーデンのベンクト・ニイリェ(B.Nirje)がこの理念を「8つの原理」により具体化させた。障害者をコミュニティから切り離して施設へ収容し処遇するのではなく、個々の状況に照らし合わせて可能な限り住み慣れた地域社会の中で生きていくことがふつう(ノーマル)であるという考え方を社会に知らしめた。

□ 世界の障害者福祉の歴史;
(1953年)デンマークの法律として「ノーマライゼーション」が産声を上げる。
(1975年)国連で「障害者の権利宣言」が採択される。
(1980年)国連で「国際障害者年行動計画」が採択され、WHOで「国際障害分類」(ICIDH)が定義された。ここでは障害について、医学レベルでの「機能障害」(ipairment)、生活レベルでの「能力障害」(disbility)、社会レベルでの「社会的不利」(handicap)の3つの概念で障害を定義している。
(1981年)国連が「国際障害者年」を定め、不可視化されることの多い障がい者の存在を社会に知らしめ、障害者の社会への完全参加と平等を具現化する社会づくりを提唱。
(1990年)米国で「障害者差別禁止法」(ADAM)制定。
(2000年)ICIDH分類が「国際生活機能分類」(ICF)へ変更された。
(2006年)国連で「障害者の権利条約」が採択される。

□ 日本の障害者福祉の歴史;
(1949年)「身体障害者福祉法」制定。
(1960年)「精神薄弱者福祉法」(現、「知的障害者福祉法」)制定。
(1970年)「心身障害者対策基本法」(現、「障害者基本法」)制定。
(1993年)「障害者基本法」制定。
(1995年)「障害者プラン〜ノーマライゼーション7カ年計画」策定。
(2003年)「障害者支援費制度」制定。
(2004年)「障害者基本法」改正 ・・・「障害を理由とする差別禁止」が明記される。
(2006年)「障害者自立支援法」制定。
(2011年)「障害者基本法」改正・・・発達障害や社会的なバリアによって制限を受ける者も含まれ、障害の定義が大きく変更された。

□ OECD諸国の租税負担率;
1位.デンマーク:69%
2位.アイスランド:58%
3位.ニュージーランド:54.8%

28位.日本:24.6%

□ OECD諸国の消費税(付加価値税);
1位.アイスランド:25.5%
2位.スウェーデン/デンマーク/ノルウェー/ハンガリー:25%

日本は5%

□ 合計国民負担率(国税と地方税を合算した国民所得に対する租税負担率と社会保険料などの社会保障負担率の合計);
・デンマークは71.7%
・日本は39.5%
・・・デンマークでは国民1人1人が総所得の70%を納税し、残りの30%が個人の自由になる金額の割合。一方の日本は、個人所得の40%を税金として国に納め、残りの60%が自由に使える国。

□ 東京パラリンピックの衝撃
 パラリンピックの合い言葉は「失われたものを数えるな、残されたものを最大限に生かせ」。
 東京パラリンピックは「障害者は保護すべき存在」という日本の障害者観を大きく覆す出来事だった。
 終了後の皇太子殿下の挨拶より抜粋;
「日本の選手が病院や施設にいる人が多かったのに反して、外国の選手は大部分が社会人であることを知り、外国のリハビリテーションが行き届いていると思いました」

□ 社会に存在するバリア
・物理的バリア:交通機関、建築物等
・法律・制度上のバリア:資格制限等
・文化・情報面でのバリア:点字や手話などの情報提供の欠如
・意識上のバリア:障害者に対する世間の人々の目

□ 福祉の街づくりの経緯
(1973年)身体障害者福祉モデル事業:人口20万人以上の市が対象
(1974年)町田市が「障害者の生活環境を整備するための要綱」を策定
(1975年)京都市が「京都を車いすで自由に歩ける町にしよう」という発想から福祉環境整備基準を設定
(1979年)国が「障害者福祉都市推進事業」を策定し、人口10万人以上の都市すべてを対象
(1983年)「公共交通ターミナルにおける身体障害者施設整備ガイドライン」策定(運輸省、現、国土交通省)・・・最初のバリアフリーに関する法律
(1994年)「高齢者・身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(通称「ハートビル法」)制定
(2000年)「高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称「交通バリアフリー法」施行
(2006年)「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称「バリアフリー新法」)施行 ・・・交通バリアフリー法とハートビル法とを統合、拡充した法律

□ バリアフリーとユニバーサルデザイン
 ロナルド・メイスが1985年にバリアフリー概念の発展型としてユニバーサルデザインを発表したもので、バリアフリーとユニバーサルデザインは相反するものではない。その基本コンセプトは「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザイン」であり、デザイン対象を障害者に限定していない点が一般に言われるバリアフリーとは異なっている。

・バリアフリー(広義)・・・社会的生活弱者といわれる車いす使用者や高齢者等がその対象
・バリアフリー(狭義)・・・障害のある者が社会生活に参加する上での生活の支障となる物理的な障害や精神的な障壁(バリア)を取り除くための施策、もしくは具体的に障害を取り除いた状態
・ユニバーサルデザイン ・・・文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計(デザイン)を意味

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