徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザワクチン2017、数不足の他にも心配なことが・・・

2017年10月17日 06時44分39秒 | 小児科診療
 小児医療の現場では毎年インフルエンザワクチンに振り回されることは慣れっこになっています。
 今年は早くも「ワクチン不足」が話題になり、国も「13歳以上は1回接種を!」と喧伝しています。
 当院では2シーズン前からすでに「3歳以上は条件付で1回接種も可能です」と減回数接種を呼びかけてきました。

 さて、今シーズンの問題はワクチン不足だけではなさそうです。
 ワクチン株を変更したため、有効率の低下も懸念される事態となりました。
 その内容とは?
 日経メディカルの記事から引用させていただきます;

■ 不足だけでないインフルエンザワクチンへの懸念
2017/10/16:日経メディカル
 生産が例年より遅れ、供給不足の恐れが指摘されている今シーズンのインフルエンザワクチンに、新たな懸念事項が浮上している。
 今冬は、仮にAH3亜型ウイルスが流行した場合、ワクチン株と流行株との抗原性の合致度が良好でないことから、ワクチンの効果が十分に発揮されない可能性がある。厚生労働省はAH3亜型についても有効率は期待できるというデータを示しているが、医療現場ではAH3亜型でワクチンが効きにくいという最悪のシナリオも想定した準備が求められている。
 インフルエンザワクチンは、感染予防に加えて重症化予防にも欠かせない。2015/16シーズンからはカバー範囲が広がり、近年流行しているA型(A/H3N2、A/H1N1pdm2009)とB型(ビクトリア系統、山形系統)の4種類のウイルスに対する予防効果が期待されている。しかし今年は、AH3亜型において、ワクチン株と流行が予想される株との間で抗原性の一致度が低いというハンディを背負っている。
 インフルエンザワクチンは、鶏卵で増やすという工程をたどる。このため、ウイルスが卵の中で増える段階で抗原性が変化してしまう「鶏卵馴化による抗原変異」という問題が生じる。つまり、ワクチンの基になったインフルエンザウイルス株と、実際に流行する可能性が高いウイルス株の間で抗原性が一致していたとしても、ワクチン製造の過程で抗原性が変化することがあるのだ。
 これまでも度々、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスが発育鶏卵に馴化するという難題に直面してきた。例えば、2012/13シーズンにAH3亜型が流行したときは、ワクチンに選定した株と実際に流行した株で抗原性の一致率は高かったものの、製造したワクチン株と流行株との一致率は低下していた。つまり製造過程において、ワクチン株が馴化という洗礼を受け、その抗原性が低下してしまっていた
 実は昨シーズンも「鶏卵馴化による抗原変異」が起こり、流行株と抗原性が乖離するという傾向が認められた。流行したウイルス(分離株)の9割以上が、ワクチン製造株に対する抗血清との反応性が低下しており、ワクチン株と流行株の抗原性が相違していのだ(図1)。

図1 2016/17シーズン流行株のワクチン株抗血清との反応性(感染研「インフルエンザウイルス流行株抗原性解析と遺伝子系統樹、2016年12月28日」より
 医療現場では、このような情報が早期に発信されることを歓迎している。ワクチン防御に代わる対策を、いち早く打ち出すことができるからだ。では、今シーズンはどうなるのか。
 
生産量確保を優先、AH3亜型の反応低下懸念は残ったまま
 通常、ワクチン株の選定過程は、厚生労働省健康局長が国立感染症研究所長にインフルエンザワクチン製造株の検討を依頼することから始まる。感染研は、所長の私的諮問機関である「インフルエンザワクチン株選定のための検討会議」の議論を踏まえて製造株を選定し健康局長に回答。これを受けて、健康局長が製造株決定の通知を出している。 
 今シーズンの選定では、AH3亜型に対応するワクチン株は当初、馴化の影響を受けにくい株である「A/埼玉/103/2014(CEXP-002)」が選ばれていた。厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会の資料によると、A/埼玉/103/2014(CEXP-002)は「卵馴化による抗原変異の影響が小さく、約60%の流行株と抗原性が類似していた」という。
 ところが6月になって、この株の増殖効率が想定より著しく悪いことが判明した。A/埼玉/103/2014(CEXP-002)を選定した時点では、昨年度比で「約84%のタンパク収量」だったものが、実際の製造過程において約33%程度と大幅に低下していた。このまま製造を進めると、ワクチン総生産量自体が低下し、昨年度比で約71%程度にとどまるというリスクが浮上した。
 生産量を確保できなければ希望してもワクチンが接種できない人が相当数発生すると見込まれ、社会的な混乱を生じる可能性がある。このため急きょ、A/香港/4801/2014(X-263)株に切り替えられた。AH3亜型に対する反応低下の懸念は残ったままだが、AH1pdm09亜型、B型のビクトリア系統と山形系統のそれぞれのウイルスには効果が見込めることから、このような決断に至ったと理解できる。この点は、当然の判断と受け止める人は多いだろう。
 加えて、厚労省が示した「ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究」(研究代表者:医療法人相生会臨床疫学研究センターの廣田良夫氏)によると、AH3亜型が流行ウイルスの主流だった2016/17シーズンでは、ワクチン株と流行株の抗原性の合致度が良好でなかったものの、6歳未満の有効率は約41%だった。
 流行株の9割以上でワクチン株との反応性が低下していたにもかかわらず、6歳未満での有効率は約41%だったという事実をどう受け止めたらよいのだろうか。
 問題は、ワクチン株と流行株の抗原性合致度と、実際の有効率の間に一定の関連性が見られないということだろう。米疾病対策センター(CDC)のデータを見ても、合致度が良好でないときの有効率は19%から42%と幅がある。
 では、医療の現場はどのような対応を考えておかなければならないのだろうか。
 インフルエンザワクチンの接種を呼び掛ける際や接種時には、AH3亜型が流行した場合にワクチンの効果が十分でない可能性についての説明は必須になるのではないだろうか。加えて、これはなにもAH3亜型の流行に限ったことではないが、ワクチン以外の予防策の徹底を求めることも忘れてはならないだろう。
 その上で、仮にAH3亜型が流行した場合、ワクチン接種者であっても重症化する症例が出てくるという最悪のシナリオを想定し、その対応を考えておくべきだろう。
 今シーズンの流行株がどうなるかだが、現時点では混合感染の様相を示している。感染研がまとめているインフルエンザウイルス分離・検出報告数(10月6日、速報値)を見ると、検出されたウイルスはAH3亜型が10件、AH1pdm09亜型が20件、B型(山形系統)が8件だった。A型では今のところAH1pdm09亜型が多くなっている。しかし、地域別で見るとAH3亜型のみが検出されている自治体もあり、現段階ではどちらが流行の主流となるかは見通せない状況だ。
 AH3亜型にはワクチンが効きにくいというハンディを負って迎えた今シーズンは、例年以上に地域の流行株を注視する必要がある。

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