徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザの出席停止期間(=隔離期間)を再確認しましょう

2013年01月13日 16時19分18秒 | 小児科診療
 以前にも取りあげましたが、インフルエンザに罹った時の出席停止期間(隔離期間)が2012年4月に変更されたので、今一度確認しておきましょう。

インフルエンザの出席停止期間
(旧)解熱した後2日経過するまで
(新)学童生徒:発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日経過するまで
   幼稚園児:発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後3日経過するまで


 では、保育園児は?
 これについては「2012 年改訂版 保育所における感染症対策ガイドライン」に幼稚園児と同じ扱いになることが記されています。
 ご丁寧に、出席停止期間の数え方を下図のようにイラスト入りで解説しています。
 ポイントは、「発熱した日」「解熱した日」は0日とし、翌日から1日、2日、・・・と数えることになります;


 これを読んでいると素朴な疑問が湧いてきます。
 「発症=発熱」と決めつけていますけど、熱が出る前から咳が出ていた、あるいは頭痛があった患者さんはどう数えるんだろう・・・熱が出ない患者さんもいてその人からもインフルエンザはうつると云われているし・・・。
 まあ、そこまで考えたらキリがないか。
 流行期はみんなが患者さんと思って、ひたすら「マスクと手洗いを励行」すべしということでしょう。

※ 話は脱線しますが、CDC(アメリカ防疫センター)が提唱している感染対策として「標準的予防策(standard precautions)」というのがありまして、「すべての患者さんの血液にはHIV、痰と唾液には結核菌、便には出血性大腸菌がいるかもしれない」と最悪の事態を想定して行動するのを基本とし、世界中で認知されています。

 さて、出席停止期間が実質的に伸びたのは厚生労働省の意地悪ではなく、医学的データに基づいて決められたことが上記ガイドラインに記されています(P25-27)。
 該当部分を抜粋しました(長文です)ので、興味のある方はどうぞ;

保育所における具体的な感染拡大防止策
○ インフルエンザの飛沫感染対策として、可能な者は全員が咳エチケットを実行します。職員は、自分が感染しているとの自覚がないまま、園児たちと密着することが考えられるので、 保育所内でインフルエンザ患者が発生している期間中は全員が勤務中はマスクを装着する よう心がけます。
 特に 0 歳児クラス、1 歳児クラスを担当する職員は必ずマスクを装着します。園児にもマスクを装着できる年齢の場合は、保育所内でインフルエンザが流行している期間中はマスクを装着するように働きかけます。この場合、友達のマスクが可愛いと園児同士で交換することがないように注意します。また、普段から咳やくしゃみの際には、飛沫を人に浴びせてはいけないということを指導します。

○ インフルエンザウイルスは、アデノウイルスやノロウイルス、ロタウイルスなどのように 環境中で何日間も感染性を保っていることはなく、体外に出たら数時間で死滅してしまいま す。アルコールによる消毒効果も高いです。インフルエンザの接触感染対策として実行することは、
 ア)流行期間中は、手洗い等の手指衛生を励行する、
 イ)消毒をする場合は、患者 の体液(唾液、痰、鼻汁等呼吸器からの排泄物)が付着したものを中心に行う、
以上の 2 点です。

○ インフルエンザの感染に備えて、体調を整えておくために、バランスのとれた食事、適切な睡眠をとることを心がけるよう保護者の方に伝えましょう。保育所内では、園児たちにとって適切な湿度、室温を保ち、過ごしやすい環境を整えます。

○ インフルエンザを発症した園児は、発熱した日を0日目として発症から5日間が経過し、 かつ解熱した日を 0 日目として解熱後 3 日間が経過するまでは保育所を休んでもらうようにします。(P4 のイラスト参照)

○ 保護者等の送迎者がインフルエンザを発症している疑いがある場合等は、送迎を控えてもらいます。やむを得ない場合は、必ずマスクを着用し、また保育所内には入らないようにしてもらいます。

5「発症した後 5 日を経過し、かつ解熱した後 3 日を経過するまで」の考え方について
 平成 24 年 4 月 1 日付で学校保健安全法施行規則が一部改正され、インフルエンザの出席停止期間について、「解熱した後 2 日を経過するまで」から、「発症した後 5 日を経過し、かつ解熱した後 2 日(幼児にあっては、3 日)を経過するまで」と変更されました。保育所の場合は幼児は乳幼児と考えます。
 「発症日から 5 日を経過」とされた理由は、現在、インフルエンザと診断されると抗インフルエンザウイルス薬が処方されることが多く、感染力が消失していない時期でも解熱してしま い、解熱を基準にすると出席が早まり、感染が拡大することが懸念されたためです。
インフルエンザ患者からのウイルス排出は自然経過で 7 日間程度、抗インフルエンザウイル ス薬の効果で解熱は 1 日程度早くなりますが、ウイルスは 5 日間程度分離されたという報告(三 田村敬子、菅谷憲夫:インフルエンザの診断と治療(臨床症例のウイルス排泄からの考察).ウイル ス.56(1):109-116,2006)や、また、抗インフルエンザウイルス薬(オセルタミビル)を投与し た 4 日目に、90%の患者が解熱していたにもかかわらず、50%以上の患者からウイルスが検出さ れたという報告 (Tamura D et al: Frequency of drug-resistant viruses and virus shedding in pediatric influenza patients treated with neuraminidase inhibitors. Clin Infect Dis. 2011 15;52(4):432-7.)などがあることから、発症後 5 日まではウイルスの感染力が残っていると考えられます。
 また、「幼児にあたっては(解熱後)3 日」とされた理由は、15 歳以下、特に 3 歳以下では ウイルス残存率が高いという報告があり(Sato M, et.al: Viral shedding in children with influenza virus infections treated with neuraminidase inhibitors. Pediatr Infect Dis J. 2005 ;24(10):931-2.)、幼若年齢層、特に 3 歳以下の場合、生まれて初めて罹患した可能性が高く、抗体を保有しない場合が多いため、ウイルス排泄期間が長くなる可能性が指摘されてい るからです。
 また、解熱したということだけでは患者自身の体調・体力が十分に回復したとはいえず、特に乳幼児期においては、いったん解熱しても再度発熱する(二峰性発熱)こともあり、他の子どもへの感染の拡大防止に加え、子どもの健康を守るという観点から、従来より 1 日長い日数が設定されました。

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