Sweet Dadaism

無意味で美しいものこそが、日々を彩る糧となる。

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ダヴィンチ・コードとマグダレナ

2005-03-12 | 徒然雑記
 ダヴィンチ・コードにまつわるテレビ番組をやっていて、うっかり少しだけ見てしまった。
ご覧の方もおいでだろうし、結構な勢いで売れまくっていたその名もまさに「ダ・ヴィンチ・コード」を既読の方もおいでになろう。そのうえ「ダ・ヴィンチ・コードの謎を解く」だとか「ダ・ヴィンチ・コードの真実」だとかの便乗本がモヤシばりに湧いて湧いて、本家を読んでいなかった身としては今更どれに手を伸ばしてよいものやら店頭にて混乱を来すことになったので、結局のところきっぱりさっぱりどれひとつとして読んでいない。これはいけるよ、というものをご存知の方はご教示下さい。

ちょっとだけ触れておきたい気持ちになったのは、マグダラのマリアの解釈についてである。
彼女については謎が多い。まずは
A)香油と涙でイエスの足を洗い、自らの髪で拭き清めた女
B)ベタニヤのマリア(マルタの妹・死後イエスによって蘇生せられたラザロの姉)
C)姦淫の罪を悔悟した女
がごっちゃになってしまっているところから彼女の悲運が始まると云ってよい。

イエスの復活を現場で唯一目撃した生き証人としてのマグダラのマリアはきちんとその名で書かれているが、ベタニヤのマリアや姦淫のマリアにおいては全くの別人として描かれていることが明瞭であるにも関わらず、【magdalene】は後世「更正した売春婦」を指すようにもなり、若き売春婦の厚生施設が【magdalen】と呼ばれるようになるまでに、マグダラのマリアは改心した娼婦の代名詞であった。「マグダレンの祈り」の映画化でそれらの施設が一部では劣悪な環境と差別・虐待の場であったことが世に知れたが、それもこれも、マグダラのマリアに対してのローマ・カトリック教会の態度に端を発しているように思えてならない。

ローマ・カトリック教会では、歴史的なマチズム(乱暴に言えば男尊)とイエスの神格化の為に、人としてのイエスの性格を極力押し殺してきた向きがある。更に教会はマグダラのマリアを「元娼婦」と限定し、イエスのお気に入りであった(ように明らかに読み取れる)彼女とイエスとの距離を可能な限り遠ざけようとしてきたのである。マグダラのマリアへの信仰は誤りであると。

 そこへ、1945年に発見されてしまったナグ・ハマディ文書が登場する。握りつぶせなかったこの文書には、マグダラのマリアがイエスと親密な仲であり、マリアはイエスのよき弟子であり、更には妻であったという内容が示されている。ダヴィンチ・コードによれば、彼はシオン修道会に所属し、イエスとマグダラのマリアの婚姻関係と娘の誕生を信じていたとされている。それは当時において暗号で包み隠さねばならない程の異端思想であったのである。

 恐らく、ナグ・ハマディ文書を直接の契機として、ローマ・カトリック教会は「マグダラのマリアは娼婦ではない」という見解を発表するに至った。
とはいえ、我々の記憶に張り付いている数多のルネサンス画家による半裸金髪のマグダラのマリア像を簡単に拭い去ることはできない。美術史の画集なぞには今でさえ「娼婦であったマグダラのマリアは・・」と書かれていることもしばしばだ。

 個人的には、その部分を責めるつもりはない。
非の打ち所のない人間に、凡人や罪人は助けを求めることができない。
清く正しい人間に、凡人や罪人の心の葛藤や後悔や悔悟を伝えることなどできない。

マグダラのマリアが罪深ければ深いほど、今生の美に煌いているほどに、人間イエスとの心の交流の美しさが際立つのである。それはさぞかし、まっすぐで美しい関係であったのだろうと。
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8 コメント

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トラバさせていただきました (lapis)
2005-03-13 01:29:15
マユさん、TB&コメントありがとうございます。

とても興味深く読ませていただきました。時間が出来たら、ナグ・ハマディ文書を読んでみようと思います。



ご存じかもしれませんが、alice-roomさんと言う方が

「ダ・ヴィンチ・コード」のブログをかかれています。

http://library666.exblog.jp/



また、遊びにこさせていただきます。

ご訪問 (マユ)
2005-03-13 11:02:50
有難うございました。

今日になって貴方のblogをめくっていたら(※めくる、という表現がしっくりくる)大好きなベリー公の時祷書までw

私も4月生まれですので、春の絵は大層和みます。

久々に木島版を開いてみましょうか・・
リンクありがとうございます。 (lapis)
2005-03-13 17:42:17
マユさんも、4月生まれでしたか。

奇遇ですね。ちなみに、僕は6日が誕生日です。

妖怪についての記事とても興味深く読ませていただきました。

それにしても、マユさんの文体は、詩的です。

曼荼羅堂の蝶のくだりは、鏡花の「春昼・春昼後刻」を連想しました。朴念仁の僕としては、とても羨ましいです。





おしい! (マユ)
2005-03-13 18:07:37
私は5日ですw

前の会社の大好きな上司が6日でした(どうでもいいけど)。

お褒めいただき、恐縮至極です。

論文型もすきなのですが、いかんせん妄想族なので合間合間にそうしたゆらゆらしら文章が差し挟まれてしまいます。



曼荼羅堂・・あれ、実写なのですよ。

あんなところに普通人は行かないから他には誰もいなくてね、「肝を冷やす」というか「縮み上がる」というか、決しておどろおどろしいわけではないのだけど、どうしても「ぞくり」とくる。



日本の妖怪はだいすきです。

どんなに歳をとっても、忘れたくない感覚のひとつです。
またTBさせていただきました。 (lapis)
2005-03-14 03:11:52
マユさん、こんばんは

無謀にも、読んでいないくせに、『ダ・ヴィンチ・コード』について記事を書いてしまいました。

たびたびお騒がせして申し訳ありませんが

よろしくお願いいたします。
Unknown (HAL)
2006-05-23 22:38:36
こんなひどい映画を見たのは産まれて初めて。信じられない!
お邪魔してしまいました。 (odayakani-shinayakani)
2006-05-24 16:12:01
はじめまして。

「ダ・ヴィンチ・コード」にヒットしてお邪魔させていただきました。

記事読ませていただきました。

なるほど。

マグダラのマリアの解釈の問題があるようですね。

少しわかってきました。でもまだまだ・・。

ありがとうございました。

他の記事も大変興味深いです。

また立ち寄らせてくださいませ。

よろしくお願いします。
再びの人気。 (マユ)
2006-05-25 00:33:09
映画も公開され、こんな古い記事に再び足を運んで頂けるとは、世の中の軽薄なブームも案外悪いものではないのかな、と思っている昨今です。



>HAL さま



はじめまして。コメント有難うございます。

映画をご覧になったのですね。残念ながら私は観ておりませんが・・(観る予定もなかったりしますが)



あの絡まった宗教や思想、歴史、そしてエンターテイメントを短い時間と映像で収めるのは、それはもう困難なことだと想像されます。

原作をお読みになった方であれば尚更、物足りない部分があるのかもしれませんね。





>odayakani^shinayakani さま



ご来訪有難うございます。

私はダヴィンチ・コード自体には実はあまり興味がないのですが、昔からファン(?)であったマグダラのマリアについての解釈を述べるには、とてもよい素材だったのでつい使ってしまいました。



こんな趣味雑多で偏屈なblogで宜しければ、またお立ち寄り下さいませ。

当方、時間ができたときには貴blogにも足を運ばせて頂きますね。



またのお越しを。



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