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貸金業の上限金利問題14(かなり追記後)

2006年09月22日 15時07分09秒 | 社会全般
今回は、まず自動車販売から考えてみたい。その理由は、既に陳腐化された言い回しだが、「交通事故死が多いからといって、自動車販売を禁止するというようなものだ」、という主旨の喩えを幾度か目にする機会があったので。上限金利規制と、どう対比させられるのか、疑問なのですね。これも、経済学信奉者たちの発想が共通しているように思え、ちょっと不思議です。


自分で車を所有し運転していれば、現実世界で起きていることはある程度理解できるのではないかと思いますが、必ずしも皆が運転者ではないかもしれないからね。


ハッキリ言えば、自動車に関してはかなり厳しい規制業界であるとしか思えないのですけれど。これほど行政の介入が多いのは、自動車産業に特徴的とも思えるし、それ故に道路族等々のレントシーカーたちの意味もあろうというものではないのかな、ともちょっと思いますね(笑)。どこが規制されていないと考えているのか、全くの自由な取引と思っているのかよく判らないです。



1)需要者側への規制
・免許制
・交通法規
・罰則やペナルティ
・定期的更新義務
・賠償保険の加入義務
・各種税制

2)供給者側への規制
・商品の厳格なクラス分類(排気量・大きさ・用途等)
・商品の安全基準
・商品の環境基準
・不具合の報告義務


思いつく範囲で大雑把に挙げてみました。専門的には、もっときちんと調べられていると思うので、そいうのを探して見て頂いた方が宜しいかと思います。


運転者=購入者とは限らないでしょうが、多くの場合には同一であることが多いので、一応同一と見なして下さい。で、大前提としては、需要者側は「免許制」なのですよ。勝手に市場には参加できないように、”厳しく規制”されているのです。貸金の利用者を免許制にするとでも言うのでしょうか。「借りたい人は免許を取得してからにしてください」というのならいいですけどね(笑)。これはかなり高いコストの規制だと思います。それ故、自動車学校・教習所なんかが存在している訳で。


需要側である免許取得者への罰則・ペナルティは法的に規制されており、違反者は例えば免許更新間隔が短くされる、更新時講習で優良者よりも多くのカウンセリング・教育を受けねばならない、更に免停・取消などの重い違反にはもっと厳しい教育が義務付けられており、利用停止期間のペナルティもある。貸金利用者の場合は、定期的にカウンセリングを義務付けたり、不良債務者(破産者等ではない)には利用停止等のペナルティが課せられているわけではありません。


保険加入も義務付けられていますし、対象商品毎の細かい分類であれこれと税金による正負のインセンティブ(例えば軽自動車は税金は安いが安全性はやや劣るかもしれない、とか)があると思います。貸金利用者とは全く異なっているのです。


では、供給側はどうかというと、こちらもかなり規制が厳しいですね。クラス(商品)分類にしても、それぞれ適合基準が決められており、排気量、寸法、重量等の基準(ちょっと正確には判らないですけど)があります。貸金業の商品にいちいちこうした基準が設定されてはいないですよね。自主規制はちょっとありますけれども。安全基準にしても、ボディ剛性とかエアバッグ装備とかバンパー形状とか色々あるのだろうと思います。これらは試験等を経て認定されているものが多く、供給者側への基準達成を求めるという強い規制となっていると思います。環境基準にしても、排ガス規制、騒音規制、燃費規制、リサイクル関連等々、細かく決められています。

つまりは、販売商品について、いちいちこと細かに行政のチェックを受け、基準を達成できない業者は販売できませんので、実質的に販売市場に参入すらできないようになっているのです。かなり高い参入障壁を設けてあるのです。こうした努力を供給者側に求めることで、死亡事故を減らす、ということをやってきているのです。


以前にリコール隠しが問題になりましたが、これも供給者側に報告義務が課せられています。貸金業で、「この商品利用者で自殺者が出ましたので報告します」なんてことがありますか?他の利用者に「注意喚起」なんてことが行われますか?


要するに、自動車業界というのは、死亡事故を減らす、重大事故を減らす、そういう努力を続けてきているのですよ。貸金業界はそういう努力を続けてきたのでしょうか?とてもそのようには言えないと思いますよ。

「衝突時の速度と死亡率や重傷度は相関関係がある」というような、警察庁の交通事故統計なんかがあれば、速度制限が「死亡事故を減らす政策」としては当然意味がありますよ。ごく普通に考えても、速度が衝突エネルギーの大きさに直結するのですから、素人の感覚でも、まあ当たり前だと理解できるけどね。貸金業界はこうした正しい統計データなどを出してきてますか?事故情報を全てオープンにしていますか?してないでしょ。やってることは、「運転者が悪いのであり、自動車という商品や供給者には問題も責任もない」ということを言うだけでしょ。


自動車関連で見れば、死亡・重大事故や交通環境の社会的影響が大きいからこそ、運転者への規制、供給業者への規制、商品設計での規制、という厳しいハードルが設けられているのです。「交通事故を減らす為に車の販売を禁止」などという短絡的な思考ではないのですよ。自動車に関しては、「厳しい規制」とルール(法律)で成り立っているのです。これの何処が貸金業界と対比できるというのでしょう。上限金利規制とは別物だろう、というのが素人の現実的感覚です。


ちょっと追加です。

今までの記事をお読みになっていないと多分判りにくいので、できればお読み頂ければと思います。

関連記事:

薬物規制の境界線

消費者金融における個人の負債について


リスク・コントロールという意味だと思っていますが、銀行にだってBIS規制が課せられており、業者側への投資規制(行政の介入)が無意味とは思いませんけどね。社会への影響が大きいからこそ、バーゼルⅡみたいな基準が適用されるわけで。貸出業務が専業の貸金業に規制はいらない、ということは必ずしも正当とは言えないだろう。参考記事に書いたような「ジャンクボンド投資」で、普通には考えられないような投機的取引が「ルールの(通用し)ない世界」で繰り広げられているのですよ。せめて「公正な取引」が可能な市場を作ってから「規制はいらない」と言ってくれ、と思いますね。


金融教育などによって、全ての借り手が正しい判断・選択ができるようにした方がよいのは確かなのであるが、投資商品販売とか上述した自動車免許といったことと似ていて、全員が同じレベルに到達するのはコストがたくさんかかるでしょう。現実には、各個人にそれを求めるのは難しいのです。それ故、投資アドバイスの人(FPとか)のように、専門的に判断してもらった方がコストが小さくできるかもしれないのですよね。或いは、業者の商品か販売方法に予め規制として組み込む、とかではないでしょうか。


ジャンク債の発行体(=借り手)が債券の買い手(金融機関、クレジット会社、貸金業者など)を「正しく審査・選択」し、尚且つ「買ってくれる相手」を探し出すのにもコストがかかってしまっているでしょう。ジャンク債取引は通常「1対1」取引で、調達額(=借入額)には無関係に(たとえ少額の借入であるとしても)、全員が少なくとも一定以上の「審査コスト」と、買ってくれる人に出会えるまで買い手を探し続けるという「捜索コスト」(とりあえずそう呼ぶことにします)がかかってしまうと思います。これが数百万人とか数千万人に及ぶとなれば、かなりの額になってしまうでしょう。これよりも小さなコストにできるのであれば、業者側に規制することは意味があるのではなかろうかと思います。多重債務者のように借入件数の多い人になればなるほど、多分このコストがアップするでしょう。


<広告というのはこのような審査コストや捜索コストを下げる効果があるのでしょうか?よく判らないですけど。あと無人機を張り巡らせるというのも、そういうコストを軽減する方法ということなのかな、と思ったりします。が、その結果が社会全体で見れば悪い方向に向かっていくとなれば問題なのでは・・・とも思います>


自動車免許を持つ人たちの場合は既に一定水準に達しているにも関わらず、それでも自動車の複雑な構造・仕組みなんかを正確に理解し判断するのには困難なことが多いので、行政が予め適合基準を設定して規制するのも同じ意味合いではないかと思います。需要側が正確に判断できなかったとしても、商品そのものや供給業者に規制を課すことでミスを生じにくくするようになっているのではないか、ということですよね。


住宅ローンの例で見た住宅投資事業の債券の場合には、金利水準の調節機能よりも、「調達額の制限」やそもそも「債券発行に至らないというルール」によってデフォルト率が低く抑制されていると思われ、以前に書いた「lockout」ルール(貸金業の上限金利問題~その2)に近いように思えます。ジャンク債の場合よりも発行体の審査コストや捜索コストは低い可能性が高く、それはどの買い手であっても条件がほとんど似ているからではないかと思われます。


ですので、供給側の業者に規制を設けること自体が非効率を大きくする、とは必ずしも言えないのではないかと考えます。



アメリカやイギリスには上限規制はないんだよ、というのは「耳タコ」なのでいい加減に勘弁して欲しいですけど、まずイギリスから。

イギリスでは確かに上限金利規制がないですよ。その代わりに「裁判所権限」が強力なのであり、「暴利的信用取引は再契約を締結させられてしまう」という事前情報が与えられているからです。あと、日本の多重債務者みたいに複数業者の「貸し込み」が見られないのですよ。そういう業者は、大体が排除されているんですよ。前から書いてるけど、正常な市場ではデフォルトリスクを無駄に多く取っている業者は長期的には排除されていくはずです。「貸し込み」戦略が可能になるのは、恐らく「異常な取引市場」だからであり、異常取引の横行する市場のみでしか通用しない方法だからであろうと考えています。イギリスでは調達金利に影響するベースレートが日本よりはるかに高い(BOEのレートは4%超だったと思う)にも関わらず、日本の貸金業の平均約定金利などよりも低いAPRです。破産も少ないですし。要するに、貸倒率や返還費用などの差がモロに出てるとしか思えんのですよ。

アメリカでは上限のある州の数は40以上、上限なしの方が圧倒的に少ない。「アメリカには上限はない」というのは違います。日本みたいに複数業者から借りまくって破産というのは、イギリスと同様に「見られない」のですよ。


特に、米英両国に共通するのは、「破綻処理」に関する仕組みが整っていることですね。主に法人等の企業の利用が多いとは思いますが、日本みたいに「破産」という処理へのハードルは高くないのです。これが最も重要なセーフティネットの役割とも言えるかもしれませんね。

参考記事:生活困窮者の対策と破綻処理


アメリカには「破産裁判所」があり、所謂「チャプター11」が適用となったりするのですね。社会制度的な違いなのか、倫理観的な違いなのか判りませんけれども、破綻処理への抵抗感が少なく、「再チャレンジ」(笑)がしやすいのですね。なので、破綻処理制度の利用は日本に比べて多いです。DIPファイナンスも行われており、当然無担保融資もありますね。企業向けだからなのかもしれませんが、無担保のリボルビング・クレジットであっても、適用金利は「FFレート+1.5%」にマージン上乗せ2%とか、LIBORに+3%の上乗せといった具合ですね。レンダーには別に各種フィーがチャージされるものもありますが、それでも0.385とか3%以下程度でしかない。「チャプター11」適用企業でさえこの水準、ってことですから。


イギリスでは私的整理が多く、ロンドン・アプローチなどと呼ばれる裁判所などの関与しない再生が行われる。法的整理も勿論あるが、メインは私的整理のようであり、日本の破産制度に比べれば制度利用は容易のようである。日本でも自己破産ではなく個人民事再生などで再生できる場合もあるが、日本では「再生」よりもむしろ「破産」ということが多い(件数で8~10倍程度の開きがある)。


日本との比較に米英の例を持ち出すのは構わないが、基本的には、「法体系が違う」「社会環境・制度が違う」「意識(倫理観?)が違う」というバックボーンがあり、その上で「金融システムが異なる」、「破綻・再生制度が異なる」、「マーケットの性質が異なる」ということがあるので、ほんの一部分だけを持ってきて「上限がないんだ」ということだけを殊更強調しても意味はないように思えるが(整理手続関係の法体系の違いが経済学上ではどのように影響しているのか調べてみたらいかがか)。


これら両国に比して、日本での特徴としては「破産に対するコスト」が非常に大きいと考えられている、と言えるのではないか。米国の手続きは法人・個人を問わず割りと用いられやすく、イギリスでも法的整理よりも私的整理が主流であるので、破綻処理制度へのアクセスが容易、つまりコストは日本ほど高いとは思われていないだろう。ところが日本では、「破産」ということへの心理的障壁が高いのか(単に制度を知らないのかもしれないが)、破産処理を選択するよりも「自殺」を選択してしまうことがある、ということであろう。なので、破綻処理に関する債務者のコストを下げる政策が必要だろう。通常は私的整理の方が法的整理よりは回収率が高いと考えられており、日本のような直ぐに「自己破産」という手続きになりがちなのは回避するべきであろう。イギリスでは専門の処理エージェント(民間人)が存在するようなので、「破産のコスト」の違いというのは多分影響しているのではないか。







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1 コメント

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Unknown (エール大学)
2006-09-23 08:33:24
 まあ消費者金融つぶしてしまえばはやいはなし、管理人さんの欲求は満たされるということでしょうね(笑)



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