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能力不足と事なかれ主義のBPO~TBS「朝スバッ」の不二家報道について

2007年08月14日 19時08分50秒 | 法関係
珍しく朝日の社説までが苦言を呈している(笑)。
asahicom:朝日新聞社説

(以下に一部引用)

NHKと民放でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会が、TBS系の「みのもんたの朝ズバッ!」に出した見解を読むと、そんな思いがしてくる。

問題になったのは1月の放送で、不二家が賞味期限切れのチョコレートを再利用していたと報じたことだ。期限切れ原料の使用問題で、不二家批判が高まっていたころだ。「廃業してもらいたい」。みの氏はズバッと言い切った。不二家は「期限の切れたチョコレートが工場に戻ることはない」と抗議した。TBSは4月の放送で、「誤解を招きかねない表現があった」と訂正、謝罪した。証言した元従業員が不二家で働いていたのは10年以上前だったうえ、「チョコレートが工場に戻る」と語ったのは伝聞だったというのだ。 検証委員会は、この二つの番組を対象に調査を重ねた。その結果、証言の捏造(ねつぞう)はなく、訂正放送によって視聴者の誤解は解かれたと判断する一方で、番組の取材や演出方法に「放送倫理上の問題があった」と指摘した。たとえば、取材者は元従業員がクッキーについて話すのをチョコレートのことと誤解していた。

こんな甘い取材にもとづいて、みの氏は不二家の廃業まで口にした。制作者と司会者との打ち合わせも不十分だったと言うしかない。番組づくりの態勢そのものが深刻な欠陥を持っている、と委員会が指摘したのは当然だろう。検証委員会は、訂正放送が打ってかわって不二家にすり寄る不自然な内容になっていたことも問題にする。スタジオには不二家の商品があふれ、みの氏は「販売再開はうれしい」などと語った。




こうした事例は今回に限ったことではない。テレビ番組ばかりではなく、他のマスメディアについても同様の危険性を生じうるであろう。これまでだと、雑誌なんかの記事については提訴され易かったと思うが、新聞やテレビといったメジャー相手では敵わないということの方が多かったのかもしれない。下手に訴えたりしようものなら、逆にバッシングを受けてしまうことも有り得るのですから。当事者のことに限らず、周辺ネタでも何でもいいので探し出して、叩こうと思えば叩けるのではないかと思えるので。考え過ぎかもしれませんが。

風評被害 - Wikipedia

過去の風評被害の例は結構色々とあるようだ。他にも報道被害の項目に出ている。不二家が報道被害をどの程度受けたのか、ということは定かではないが、いずれここに追加されるかもしれない。こうした事態を防ぐ為にも、何らかの歯止めが必要であろう。マスメディアは基本的に責任を問われないことをいいことに、杜撰な報道の仕方をしたとしても罰を受けない、ということはあると思う。これは以前にも色々書いた。

参考記事:

プロフェッショナルと責任

マスメディアは「生ける屍」となるのか

ネット言論の試練2


今回は朝日新聞が社説に取り上げたからというわけでもないが、もう少し具体的に考えてみたいと思う。
注目を集めている話題となっているようですので、便乗ということで(笑)。
はてなブックマーク - アンカテUncategorizable Blog - 「証拠は全部消滅したけどTBSを信じよう」とBPOは言った


疑問に思えたことは、BPOの判断というのは基本的に何に基づいて行っているか、ということだった。仮に大きく2つに区分するとして、適切・不適切という分類としよう。適切というのは、報道自体に問題がなかった、ということかな、と。では不適切というのはどうなっているのだろうか、ということなのだ。私のちっぽけな脳みそで考えると、大雑把に次のようなグレードになるのではないかと思う。
○適切
○不適切
 ・法的に問題あり=不法行為(違法行為?)
 ・法的に問題ないが
   ―倫理的or社会的に問題あり
   ―表現方法に(より軽微な)問題あり

こうした重大性についての判断がなされて、それに応じた意見を出すべきではないのかな、と。BPO設立の趣旨というか、機関の存在意義ということを考えると、権力の介入を招くことなく自主的に正して行きましょう・(重大な紛争となる前に)解決して行きましょう、ということを目指すのは当然ではないかと思える。そうであるなら、判断のルールとか、どういった基準によっているかということが、周囲に明確に判るようになっているべきなのではないか。そこでは法的責任について考える必要が出てくるということでもある。最低限、上記分類のような大きな区分を示せないと、検討した道筋も判断結果も不透明のままであろう。それ故、BPOは批判されているのではないかと思う。


そこで、私のようなド素人で申し訳ないが(いつものことですか…ゴメンさないね)、法的責任について考えてみることにした。

民事責任については、民法709条の不法行為による損害賠償、すなわち『故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。』に該当しているか否かを考えることになるが、刑事責任が成立していれば必然的に不法行為ということになると思われるので、本件での刑事責任について検討していくことにする。

報道で刑事責任を問われる可能性としては、名誉毀損か信用毀損・業務妨害ということで、名誉毀損が法人に適用されるかどうかが判り難いので、信用毀損、業務妨害の線で考えてみた。

条文はコレ>
刑法 第233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

<ちょっと寄り道:
木村剛氏が好きな?(得意の?)条文ということではない→判る人には判るかも。
特に、「しんぶんし」みたいなボトムズ系の名前の人とか(笑)。悪気はないです。>


TBSの報道が「虚偽の風説の流布」又は「偽計」で、信用毀損又は業務妨害に当たるかどうか、ということである。これを考えてみる。
まず、定義についてであるが、以下のようなことらしい。

定義集 刑法3
・虚偽の風説の流布:虚偽の事項を内容とする噂を、不特定又は多数の者に知れわたるような態様において伝達すること 大谷139
・偽計:人を欺き・誘惑し、または他人の無知、錯誤を利用すること 大谷139

あとは、こちらも参考になる。
信用毀損罪・業務妨害罪 - Wikipedia

この中で、
『虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損する犯罪である。保護法益は人の経済的な評価とされており、信用とは経済的な意味での信用を意味する(大判大正5年6月26日刑録22輯1153頁)。判例・通説は、本罪は危険犯であり、現実に人の信用を低下させていなくても成立するとしている(大判大正2年1月27日刑録19輯85頁)が、侵害犯であるとする説もある。』
と述べられていた。
業務妨害についても、判例では危険犯としている(最判昭和28年1月30日刑集7巻1号128頁)が、侵害犯であるとする説も有力とされているようである。

TBS報道が該当しているかどうかだが、報道内容が「真実と異なっていた」ということを前提として考えてみる。

①信用を毀損するか:YES

経済的な意味での信用ということであるので、報道の結果、不二家は製品に疑問を持たれ、販売数量が落ちてしまうであろう。経済的損失となるのは、過去のダイオキシンの風評被害と似ていると言えよう。判例上では危険犯で成立となるようなので、現実の信用低下を立証できなくてもよいことから、信用毀損は成立していると考えられる。

②業務妨害になるか:YES

例えば「○○屋の作ったケーキにはゴキブリが入っていた」という虚偽の事実をネット上の掲示板などに書いたりすると、業務妨害となりうるであろう。テレビ報道によって不二家の製品に対する信頼は失われ、客離れを起させる結果になるであろう。逆の場合に、番組中に料理店や製品などの紹介をすることで、大きな集客・宣伝効果があることは現実に起こっている。最近の有名な例が「あるある報道」で納豆が売り切れとなったりしたことであろうか。マイナス効果も当然起こりうることは、通常人であれば容易に予見できる。

③虚偽の風説の流布か:YES

テレビ放送は「不特定多数に知れわたるような態様の伝達」であると言えよう。報道内容が虚偽であったか、ということが問題になるが、「真実ではないこと」を報道していたのであれば、虚偽事項の噂・評判と考えられる。

④偽計にあたるか:YES

欺もうや誘惑に該当するとも言えないかもしれないが、人の無知や錯誤を利用するということにはなるであろう。
多くの視聴者は「不二家のチョコ製品の製造工程や回収過程などを知らない」「賞味期限等の制度をよく知らない」などということがあるだろう。また、報道の結果、「不二家は期限切れ材料を混ぜていた」と誤った認識を抱くに至る(=錯誤)であろう。これを原因として、不二家の営業活動(業務)を妨害し製品販売の低迷を更に招くことになり得るであろう。

⑤違法性阻却事由はあるか:(たぶん)ない

一番の壁というか、議論の余地があるかもしれない。報道の自由とか表現の自由といったものとの関わりがある為だ。ここでは、信用毀損が名誉毀損の場合とほぼ同様だろうと考えて、検討してみる。

ア)名誉毀損罪の条文と特例

刑法230条と230条の二に規定されている。

(名誉毀損)
第230条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2  死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)
第230条の二
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2  前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3  前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。


注目すべきは、名誉毀損の場合に公然と摘示された事実が虚偽か真実か関係なく成立する、という点であろう。中身がどちらであっても、名誉毀損となるのであればアウトということ。本当は名誉毀損には該当していないかもしれないが、例で考えてみよう。
甲が「お前の母ちゃん出ベソ」と乙のブログのコメント欄に書いて公然と摘示した場合、甲が「本当に出ベソじゃないか。見たんだぞ、写真もホレこの通り」と「母ちゃんの出ベソ」が真実であることを証明できたとしても、乙の名誉が毀損されるならばアウトということ(笑、まあこの程度では乙の社会的評価が下がることにはならないと思うけど)。なので、「これは公然の事実だろ。事実(真実)を書いて何が悪い」というような言い分は通用しないので、要注意(笑)。公知か否かも無関係に成立だそうですので。公然と事実を摘示した時点で成立してしまうということ。信用毀損の場合と同じく危険犯だし(本当に毀損されたことを示さなくてもよい)。

イ)特例の場合について

不二家報道の場合には、公訴提起前の犯罪行為(2項)や公務員or候補者に関する事実(3項)ではないので、除外して考える。1項の要件を満たしていれば、罰せられないとしている。
a)公共の利害に関する事実
b)専ら公益を図る目的であると認める
c)摘示された事実が真実であるとの証明がある
これが全部満たされていれば、罰しませんよ、ということだ。報道の許される範囲とは、この中においてのみなのである。

本件では、広く販売される食品に関することであるので、a)は満たされるだろう。b)の公益を図る目的というのは、TBS側がそのように主張するであろう。テレビは公器だとか、報道は云々という理由を述べるに決まっている(笑)。これを否定したいわけではないが、普通の頭の持ち主であれば、「数字狙い」(視聴率競争)ということは誰でも知っているであろう。深く追求せず、b)も満たされているものとしよう。最後のc)であるが、この証明をしない限り、特例としては認められない。TBSの弁明が一見まともであるとしても、真実性を欠いているのであれば、特例要件にはなり得ず、名誉毀損になると判断するしかないだろう。すなわち、信用毀損にも同様の考え方を適用するのであれば、本件報道においては不二家の「信用を毀損した」という結論になると考えられる。

他には、b)やc)に関連することとして、故意か過失かということがある。過去の判例においても、故意を欠けば罰せられないとされるようだ(最大判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁)。これは上記a)~c)の変形版というか、亜型ということになろうか。a)は同じであるが、故意ではない(=過失?、過誤?)ことと、故意でないことを証明するに足る合理的根拠が必要ということだ。

故意ではなかった=真実だと信じ込むだけの理由があったからだ、ということ。
真実だと信じ込む理由とは何か、ということになるが、それを信じてしまっても止むを得ませんね、という証拠を示さねばならない。誤信をもたらすに十分な合理的根拠が必要だ、ということ。これは「悪意の受益者」の時に書いた話と似ている。
例えば被告が証拠Aを読んでしまった為に、証拠Aに書かれていた内容を真実であると信じ込み、それに基づいて被告が公然と事実を摘示してしまったとする。しかし、証拠Aに書かれていた内容は、実は真実ではなく虚偽であった、ということが事後的に明らかとなったとしよう。そうなれば、上の公共性、公益性というa)やb)を満たしていても、c)の真実を立証できないことになり、罰せられることになってしまう。しかし、故意でなかったことが立証できれば、罰を免れ得るということである。

ここで故意でないということを示すには、
・証拠Aが示せる
・証拠Aを読めば普通の人は殆ど信じ込んでしまうだろう
・そうであるなら、被告が誤信したのも止むを得ないだろう
ということである。
従って、証拠Aが合理的根拠たり得ることが必要だ(「悪意の受益者」の記事の場合には、「複数判例」や「有力な学説」といったものであった)。自分でチラシの裏に書いた作文、得体の知れないブログ記事(それってウチのことか、笑)、どこの誰が言ったか知らないような噂話、自称専門家とか業界内部の人とかの証言、という程度であるなら、合理的根拠足りえない、ということは言えよう。

ウ)TBSは根拠の提示を拒否

刑法233条を回避するには、上述したように①~④は該当してしまっているので、違法性阻却しかないであろう。それには、次の2つのいずれかを示す必要があるだろう。
・摘示した事実が「真実であること」を証明し、特例適用となるa)~c)の要件を満たす
・真実でないが故意性を否定し、誤信も止む無しと認められるに足る合理的根拠を示す

だが、報道内容は虚偽であったことは既に示されているのであるから、残りは故意性の否定しかないのである。

その最低限の要件としては、そう信じ込まされた合理的根拠を提示することであるが、TBS側はこれを一切拒否したようである。根拠の提示ができないとなれば、故意であったことは否定できない。客観的に「誤信するも止む無し」と認めるに足る理由というものが確認できないからである。故に、信用毀損罪や偽計業務妨害罪が成立する可能性は高いと考えられる。合理的根拠とは認められないにせよ、要件c)の検証に必要となる真実性に関する資料や証拠が、全く提示不可能であることなど通常では想定できない。そのような事態が妥当である、若しくは不自然ではない、と考えられるような特段の事情や相当の理由というものを認めるのは甚だ困難である(もしあれば、TBS側に逐一述べてもらいたい)。


以上のことから、本件報道については、刑法233条-信用毀損罪、偽計業務妨害罪-に該当していると考えられる。これにより、民法709条の不法行為ということができ、民事責任も負うものと考えられる。


BPOの報告書を直接読んだ訳ではないので、報道からの情報を元に判断するだけであるが、第三者機関としての責務を放棄していると言っても過言ではないだろう。少なくとも、法的責任の有無の可能性に沿って検討されるべきであり、法的解決以外を前提としているとしても、報道被害の影響の大きさを鑑みれば被害者救済を第一に考えるべきである。そうした検討の姿勢を著しく欠いているというべきであり、BPOが報道機関に対して実質的に何らの改善効力を有していないということである。捜査機関や司法機関ではないことから、法的責任についてまで検討若しくは言及するというのが越権行為である、とする考え方があるのかもしれないが、法的に問題があるかもしれないものを安易な調査報告でお茶を濁しているのと同じであり、検証機関としては不適格と言わざるを得ない。報道被害についての謝罪、補償や救済について勧告したりできないのであれば、結局のところ法的措置に委ねるべきであると考えているということなのであろう。





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