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現時点の為替介入は無駄

2008年10月28日 20時43分09秒 | 経済関連
とりあえず、円高に慌てふためいている大企業のお偉いさん方が結構いるみたいですが、今頃になって経団連会長が「介入してくれ」みたいに泣き言を言い始めたのは、極めて悪い兆候です。これは、「介入しない方がよい」というシグナルと考えてよいでしょう。これまでに、経済界のお偉方が正しかったのであれば、この言葉を信じて介入した方がいいんじゃないかな、と思わないでもありません。しかし、散々過ちを繰り返してきたのですから、いってみれば「狼少年」みたいなもんでして、こういうお偉方の言葉は間違っていると思いますね。なので、全く逆の選択をした方が日本の為になることは間違いないでしょう(笑)。よって、現時点での介入はすべきではありません。


それから、今の円高について、「円キャリーの巻き戻しだ」みたいに言う人たちは割りといるんですが、何といいますか、それって本当なんですか?(笑)
日本の経済ナントカの肩書きを持つ人たちが、どれくらい洞察力があるのかと言えば、かなり疑わしいと思う。何故なら、あまりにいい加減な解説が多いのと、それがごく普通にまかり通ってしまい、マスメディア上では専門家の見解として流通してしまうからだ。

基調転換の声少ない日本株、円高再加速なら株売りに弾み(ロイター) - Yahooニュース

(一部引用)

<90年代からの過剰流動性相場、巻き戻しの過程か>
 さらに現在起きていることは、1990年代半ばから発生していたグローバルな過剰流動性の巻き戻しであり、この流れは簡単に終息しないとの分析も出てきた。三菱UFJ証券・チーフエコノミストの水野和夫氏は、1995年当時から始まった信用膨張が逆転している状況が起きていると指摘する。特に円は、ドル買い/円売り介入を30兆円近くも実施し、人為的に安くしていたため、足元での上昇が目立っているとみている。「ダウは「根拠なき熱狂」と言われた当時の6500ドルに戻る過程」(水野氏)であり、そうしたマネーフローの中で日経平均の下げも見るべきだと主張している。

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確かにそうだな、と思う点がないわけでもありませんが、「過剰流動性の巻き戻し」だとか、「介入30兆円と人為的に安くしていたため」とか、本当にそれが影響している為なのだろうかと疑問に思うわけです。「円キャリーの巻き戻し」だとか言われたのって、かつてもそうだったではありませんかね>これが円キャリーの巻き戻しですか(爆)

ま、実際誰も確かめたり調べたりしてみたわけではないので、どんな解説でもつけられる、ってことはあるかも。
思うところを、いくつかの論点に分けて書いてみたい。


1)海外からの株式投資額は?

バブル期の89と90年の外国人投資は2兆4768億円の流出だった。つまり、海外投資家は売り逃げた、ということだな。中々賢い。というか、内輪の「なあなあ的」証券業界の掟というか慣行みたいなものもあったのかも。利益に熨斗付きで儲けさせてあげました、というようなことかな。当時の主力は多分オイルマネーだったろう。あの頃、外国人投資家といえば、アラブ系大富豪と”相場は決まって”おり(笑)、「当たり屋に付け」的な感じで立会いだったこともあって(今は電子化されているから見えないもんね)注目の的だったのだろうと思う。これはまあいいや。
で、91年から02年までに海外から株式投資に投入された総額は、42兆8764億円。その後、03年から05年までのたった3年間だけで、約33兆円だった。03~07年の「金融ハイエナ&コヨーテ軍団」が暴れ回っていた時期には、何と45兆1685億円だった(91年以降では約88兆円分の買い越し)。これだけ株式市場に資金が流れ込んだのであるから、そりゃ上がっても不思議ではないわな。
世界の株式市場での市場規模比較では、米国に次ぐ市場規模があったので、米英2カ国の対外債権残高約2800兆円規模のうち、かなりの額が日本の株式市場に投入されていたであろう、と思われるのである。昨年度の対外債務残高で見ると、日本の株式は約142兆円分が海外の所有ということになっていた。よって、米英+他で3000兆円分の資産を持っていたとすると、このポートフォリオ上では日本株のウェイトが約4.7%もあった、ということになる。この資産のうち少なくない額がキャッシュにされたのであれば、そりゃまあ株価下落となるのは不思議じゃない。海外投資家たちが持っていた142兆円は、恐らく半分かそれ以下に減ったであろうと思われる。日本の株式市場規模が550兆円だったとして、そのうち約4分の1が海外保有ということだ。

で、平均株価が下がれば時価総額が減るのは当たり前として、現実の資金引き上げ規模を見ると08年1月~9月に3兆7871億円だった。これが円資産から引き上げられたということで、その結果が今の株安を生み出していると言っても過言ではないだろう。そうであるなら、円から他の通貨に移っていったのだから、「円売り」となってしまうであろう。具体的には円売りドル買いや、円売りユーロ買い、ということだ。これを「巻き戻し」というのだろうか?


2)日本の投資家はどうしていたか?

これが、意外なことが判った。日本から海外への資金移動は、今年の円高局面ゆえに起こっていたのである。何とも旺盛な投資意欲ではないか(笑)。

債券投資も含めると、1~9月に日本から資金流出となった額は6兆8996億円で、約7兆円という規模だった。今年3月にはドル円が95円くらいまで行ったが、この3ヶ月間に約6兆円の資金が海外に投資された。更に、海外勢は一気に株を売っていた時期でもあり、日本からの資金流出はネットで約10兆円にも達した。この分だけ海外通貨が買われた、ということだろうと思われるのだ。これらの投資行動による円高要因というのは、あまりなさそうではある。

で、海外勢は9月までに3兆4457億円の対内投資増、日本の居住者からは約7兆円の対外投資増で、この差額分の3兆4538億円分の円が海外に流出していったことになる。05~07年の3年間では、日本居住者からの対外投資額は約27兆7千億円なので、特別に多いというわけでもない。海外勢はその倍以上の約60兆円の対内投資をしているので、かなり巨額の円買いを行ったことになるだろう。


3)円高は何故起こったか?

日本の投資家の行動や海外からの対内投資の資金引き上げ規模で見れば、案外大したことはない。この他に貿易等の取引も当然あるのだから、それらの資金シフトから来る影響というのは全然ないわけではないだろうが、決定的な要因とも思われない。

そもそもは、昨年夏以降の「米国金融機関(及び米国経済)」への不信感というか、警戒感であったろう。ドル安基調というのは、そこから始まっていった。特に今年に入ってからその動きが顕著となり、ドルの「独歩安」状態が発生した。FRBの急激な金利引下げやベアスターンズショックなどもトリガーとなったであろう。
つまり、初めのうち、みんなは「ドルを回避しよう」ということで、それがドル安を招いた。ドル資産はユーロやポンドなど他の通貨に移しかえられたりしたであろう。なので、ドルは下落した。対ユーロで1.6くらい、カナダドルや豪ドルなど比べても1倍くらいの水準まで下がってしまったのだ。

こうした動きの影響もあって、ドル円で見ると95円をつけた春頃までが第一段階、ということになるだろう。この段階で、過去の対外通貨投資などは巻き戻しが起こったりしたかもしれないし、FXをやってる個人投資家なんかのポジション整理などに伴う巻き戻しは起こっていったかもしれない。それは大きな流れの中では、そんなに大袈裟な要因だったとも思われない。

だが、オリンピックが過ぎてみると、世界経済は本格的にヤバイかも、という雰囲気が明瞭になっていった。5~7月には日本からの対外投資は3.4兆円規模で資金流出だったが、8月には流入に転換となり1兆7642億円の資金が戻って来ていた。つまり、8月以降には円高局面となったであろう、ということが判るのであるが、これは主に「ドル以外」の通貨下落が始まったことを意味していた。


春頃までのドル独歩安基調だったものが、今度は欧州やその他新興国などにも飛び火することがはっきりしてきたのだ。で、あらゆる通貨の下落が起こっていったものと思われる。「行き過ぎたドル安」が是正されるべく、それまで売られ過ぎていたドルが相対的に高くなり、ユーロやポンド、スイスフラン、カナダドル、豪ドル等の通貨の下落が始まったのだった。これが第二段階ということだな。

で、円はこの影響を受けて、ドル以外の対諸外国通貨に対して、ほぼ全てで相対的に高くなったのだ、ということ。夏までは、対ユーロは170円程度、ポンドでも200円程度の「円安」(笑)であったものが、現在の水準まで円高が進んだのである。利下げの早かった米国がまず単独で下げ、その後には各国の協調利下げなどもあって全世界的に下げた、ということであろう。円はたまたま単独で「蚊帳の外」にあったので、ドルに対して下がる通貨はほぼ全部が円に対しても下落した、ということだろう。


こうした現象は投資行動が影響していることもあるだろうし、資金引き上げなどの移動なんかもあるけれども、そうそう一斉に行動するというのは大変なことなのである。ドルを豊富に持っていた産油国の大金持ちなんかは、初めのうちドルから退避してユーロやポンドなんかに逃げ込んだ(一部の連中は原油や金なんかだったろう)のだが、危機はあちこちに波及していったので、そこからも逃げ出したということであろうと思う。為替市場のフローの規模は全世界中である為にかなり大きく、小さい投資資金の退避などが影響することがないとは言えないが、そもそもは「キャッシュの大きな流れ」みたいなものなので影響度は判らない。特に、ドルと他通貨の組み合わせペアは、為替市場の半分以上を占めているだろう。なので、ドルが単独で上がると他の国々の通貨への影響は大きい。

今、巻き戻しが起こっているとすれば、それは今年前半の極端なドル安是正が起こり、ドルが相対的に上がったことによる現象ではないか。ドル円が104円程度から10%増価して94円程度になったところで大した円高ではないが、ユーロが170円から120円になれば30%もの増価、ポンドも200円から150円であれば25%の増価なのだから。結果的には、遅れてきた「是正」、ということになる。円はドルにだけ上がって、他通貨には安いから円高でない、と言っていた御仁(ミスター●)もいたので、まあ良かったんじゃないか(笑)。

それから、ユーロ円の為替市場規模はドル/ユーロの取引規模に比べると20倍近くも違いがあるので、ユーロ円の変動の影響度よりもドル/ユーロの影響を受けやすいのだ。これはポンドも同様。後、ドル円だけは割と大きい市場規模を持つ。日本から見ると、ドル決済が最も大きいのであり、ユーロ圏取引は貿易も投資も小さいので通貨の必要性自体が乏しいから、これら通貨間の日本円取引の持つ影響度は他から見れば(例えばドル/円、ドル/ユーロ)小さいだろう、ということ。


これを、ゼロ金利で流動性が過剰な円を調達でき、それがバブルを生むだの、円キャリーの巻き戻しが強烈だのとか言われても、俄かには信じることができないのだ。高金利通貨を選択してきたのは、むしろかなり大勢の「日本人」だったのではないかと思われるからである(オレも含まれる。因みに、7割以上は回収しておいたけどな、笑)。それが証拠に、所得収支がここ数年ではかなり多額になってきたからで、貿易収支よりも大きいぞ(笑)。この前の90円の日には、すかさず「両替所に行列」だし。外貨が「底をつく」なんてことは過去になかった、というくらい、円高なら即「外貨に替えるぜ」という素晴らしい人たちが大勢いるということなのだ。


日本人は逞しく目ざといんだよ、思った以上に。
ガイジンさんが「避難所」として円のキャッシュを買ってるという状況の中でも、怖れず外貨を買いにいくのだから。中々やるな、と思って、見直したよ。





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