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市立札幌病院事件8

2005年01月06日 22時28分47秒 | 法と医療
新春特別企画の最終回です(長くて辟易されていると思いますが、ごめんなさい)。
一応、テレビの時代劇スペシャル10時間ものなみに、超長いシリーズで押してみました。本当は別な記事も入れたかったのですが、挟まると皆さんこの記事を読んでくれないのではないかと思って・・・

では、最後いってみます。



判決については、求刑通り「罰金6万円」でした。以下に要旨を記載してみます。

1 本件各行為が医師法17条に違反すること、違法性が阻却されないことについて
・本件各行為は、いずれも医師法17条が禁止する医行為に該当
・指導医の指導監督を受けていたとしても、その行為は本件歯科医師ら自身の行為
・歯科医師が歯科に属さない疾病に関わる患者に対してそのような手技を行うことは、歯科医師がその手技にどんなに熟達していても、明らかに医師法17条に違反する。
・そこで行われる個々の具体的行為の実質的危険性の有無及び程度にかかわらず、医科と歯科の資格を峻別する法体系の下では、許されない。

私の疑問:
ここで示されたことは、非常に重要です。例え研修目的であっても、具体的行為は全て違法となるということです。指導医の指導監督があっても違法です。これについては、「医行為」として明確に判示されています。このことは、全ての研修について適用されますから、厚生労働省が通知した研修ガイドラインは違法ということになります。なぜ裁判所判決が出た後、法務省(担当なのか知りませんが、ここなのかな?と思いましたので)とかが厚労省に「ガイドライン」は違法ですから、医科学生の研修や看護師の点滴・注射行為や歯科医師の医科研修等での行為について、「全て違法行為なので、取りやめるように」勧告したりしないのでしょう?それらのガイドラインを全廃するように改めさせなければならないのでは?違法行為との司法判断がされているのですから。ガイドラインや指針等の通知は法的には通常効力はないので(実質的には拘束されていることが多い、例えば「旅客機乗務員の除細動」ですね)、司法判断の方が優先されるべきでしょう。よって、前に出した通知を取り消す、新たな通知を出させなければおかしいでしょう。

麻酔科研修においても医行為を伴っているわけであり、そのことについて何の解釈もないし、全国的に行われてきたような研修を被告が認めたというだけで、刑事罰が与えられるという判断なのはなぜでしょう?


2 被告人が共同正犯の責任を負うことについて
被告人は、本件歯科医師らが行った本件各行為について個別に認識していたとは認められないが、センターの責任者として、研修内容について上記のような指示をし、その指示に従って研修が行われ、その結果本件歯科医師らが本件各行為を行ったのであるから、本件歯科医師らが研修医として本件各行為を行うについて、欠くことのできない決定的な役割を果たしたものと認められる。したがって、被告人は、本件歯科医師らが本件各行為を業として行ったことについて、単にその機会を与えこれを容易にしたというにとどまらず、同人らを直接指導監督する立場にあった上級医らと共に、共同正犯としての責任を負う。

私の疑問:
「決定的な役割」を担っていたことから、上級医らと共に共同正犯としての責任がある、ということです。ですが、上級医は法的責任を問われてはいませんね(送検さえされていません)。何故なのでしょう?「上級医は共同正犯」とはっきり述べているのですから、罰する必要があるのではないでしょうか?上級医らに指示する権限を有していたことから、その責任が重いということなのでしょう。ならば、センター長である松原医師の指導監督の責を負っている病院上層部や厚労省をはじめとする行政機関の人間は、なぜ長年にわたり違法状態を放置してきた責任を問われないのか?「知らなかった、報告がなかった」と言えば許されるのか。「医行為」について医師たちはどこからも報告されたり教えられたりすることなど絶対にない。それでも、刑事責任を問われなければならないのである。全国的に行われていた麻酔科研修での医行為は、なぜ放置されてきたのか?行政にその責任がないとでもいうのか?

松原医師は麻酔科出身だそうだ。そこで、歯科医師が研修していたことを、救急でも同じように考えたとしても不思議ではないように思う。救急での基本的行為の多くは、麻酔科と共通するものが多くある。端的な例が、気管内挿管である。呼吸管理に必要な基本的な手技だからだ。そうした感覚が、救急の現場に存在していたとしても、おかしくはないと思うが。


3 その他
・歯科医師らによる本件各行為自体の犯情は、悪質とは言えず、歯科医師らについて処罰が求められていないことは、十分理由がある。
・公衆衛生の向上及び増進に寄与し、国民の健康な生活を確保することにつながるというべきであり、歯科医師らに私利私欲をはかる目的がなかったことは明らかである。しかも、本件各行為を行った歯科医師らは、いずれも歯科口腔外科という医科と重なる領域の専門分野で相応の経験を積んでおり、本件各行為を実施するについて、医師の資格を持つ研修医と比較して能力的に劣るところはなかったと認められる。
・検察官の主張するようにセンターの人材確保のために本件犯行に及んだとまで認めることはできず、もっぱら歯科医師側の強い要望に応えて、歯科医師らをセンターに受け入れたと認められることを考慮しても、被告人に対しては相応の処罰を持って臨む必要がある。

私の疑問:
行為者は歯科医師であり、その違法性についても司法判断があるにもかかわらず、歯科医師は「悪質ではなく、私利私欲を目的としていない」ために処罰されない十分な理由がある、という判断のようだ。なるほど、もっともな解釈であると思う。であるがゆえに、なぜ直接の指導監督する立場にあった上級医らも責任を問わないのに、センター責任者であった松原医師だけの法的責任を問うのか理解できない。決定権があったから、という理由だけで?


以前書いた救急救命士事件の方が、もっと明確に違法であると言えるし、法的責任を問うべきということになりかねないと思うが、かたや刑事責任は問われず、一方は罰を与えるということが、本当の正義なのか?

救急救命士の場合
・研修は5年以上前から行われていた
(長期にわたる組織的体制で継続させていたことは同じ)
・病院内での研修であり、麻酔科や救急センター等での医行為は全て違法
(救急車内でしか行為を認められていない)
・歯科医業のような曖昧な規定ではなく、救急救命士の「業」は法律で厳密に規定されている
(業務範囲は三つしかない)
・気管内挿管は厚生省告示に器具指定がなく明確に違法
(歯科医師は歯科医業で全く同様の行為を行っている)

このように違法性ははるかに明確な状況であったのに、起訴されずに済むのは、社会的正義や公共の利益に照らして、可罰的違法性が阻却されたからと推測する。不起訴は納得できうるものである。なのに、歯科医師の研修は違法で、起訴されてしまう。


本当に法は公平で、何人に対しても平等なのか?


警察の裏金事件では、某県警本部長曰く「私的流用ではないから、刑事責任はない」と。バカ言え。それなら、松原医師に何の私利私欲があるというのだ?また、同本部長は領収書偽造に関して有印私文書偽造に該当するのではないかと報道関係者から指摘され「会計担当者が法の規定をよく熟知していなかったから」と。そんな法的解釈があるのか。あまりに愚かだ。「法を熟知していなかった」で済むならば、「医業」の定義について熟知していない一般人は全員法の責任などありえないだろう!こんな発言を平気でする人間が司法の一翼を担う司法警察の長たる輝かしき『本部長』殿で、たいそう立派な法解釈を国民に披露して、その誤りについて全員「口を閉ざす」検察や裁判所や法学関係者たちばかりで構成されている日本の「法の世界」の、掟に従って国民は生きるしかないのである。


司法制度が公正なわけでも、法が平等なわけでもない。法を適用する権利を持つ人間の、本当の心があるかないかでしかない。それに期待するのは、本部長の例を見ても判るように、非常に困難であるということだ。


刑法に従って容疑者を逮捕したり取り調べしたりする人種であるはずの警察官が「刑法を熟知していない」ことを理由にして文書偽造は刑事責任を問われないが、「医師法を熟知していない」医師が人のために役立つと思って研修をさせたことは刑事責任を問われ刑事罰を与えるというのが、日本のすばらしい正義に満ちた司法制度なのである。

真に「悪質な確信犯的犯行で、常習性があり、再犯を繰り返し、反省の情がない」のは、松原医師なのか警察組織なのか考えてみるといい。検察や裁判所は、何と思っているのか是非聞いてみたい。


証言した厚生労働省の課長も同じだ。「知らなかった」「報告がなかった」「想定外であった」と答弁し、知らぬ存ぜぬを通せば、行政の責任は逃れられるというのであるから、いいよね。違法と思うなら、それを改める指導をしてこなかったことに大きな問題があることにも考えが及ばないし、国民に向かって「実情を調査する必要がない、ガイドラインは必要がない、見学だけしていたら十分」と公に発言しても、彼は何の責任も負わなくてよいのである。「歯科医業についてはよく知らない」と法廷で証言するような人間が、医業と歯科医業についての領域や法的解釈に係わる『医政医発第87号』のような公式文書を作成してもよい、というのが公式の「厚生労働省見解」のようである。


裁判はまだ続く。2審ではどうなるのか、見守っていきたい。裁判官の「心」に微かな期待をするしかない。


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6 コメント

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Unknown (Unknown)
2005-01-07 04:14:06
医科学生です。



>医科学生の研修や看護師の点滴・注射行為や歯科医師の医科研修等での行為について、



これは違います。研修医ならいざ知らず、学生に許されている実習は、問診、触診、聴診などの侵襲を伴わない医療行為に限定されていまして、研修医の行為とは違います。



 この事件についての私の意見は、あなたとほぼ同じです。歯科医師といえども麻酔事故があれば過失責任を追及されるのだから、事故に備えて救命術の訓練は必要で、それを禁じるような法律や通達があるなら、そっちの方がおかしいと思います。
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Unknown (まさくに)
2005-01-07 10:10:22
コメント有難うございます。医学生の方の実習は、厚生省通知によって規定されており、これは法令ではありません。

今回の判決では、記事中にあるように「実質的危険性の有無や程度」に関係なく、医師免許を有していなければ医師法違反であると判示されているのです。「診察」は疑義照会にもありましたが医行為であると認定されています。従って、危険性の少ない行為であるとか、身体に危害が及ぶとかに無関係に医学生の医行為は全て違法である、というのが判例から得られる結論です。この裁判の判決はそういう法的解釈が医師法第17条に与えられるという、極めて重要な裁判なのです。法とはそういうものなのです。
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医業とは (井上)
2005-01-07 18:50:28
 法解釈にも無理はあると思いますが、歯科医師と医師を分けて取り扱う現行医師法、歯科医師法にもかなり無理があります。これは司法の範囲を超え、立法措置の問題になりますが、歯科医師による口腔外科というと、これは立派な外科の一部門で、医師による外科と何ら変わることがありません。

 歯科医師と医師を統一する時期が来ているのかもしれません。歯学部は廃止して、全員が医学部を卒業した後で、歯科で研修を積んで歯科医師になっていただくという養成方法が正しいのです。
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Unknown (まさくに)
2005-01-08 00:42:06
コメント有難うございます。「医療」に関する教育制度をどうするのかは、難しい問題ですね。法曹のように、原則的には統一的な教育が必要と思いますし、実質的に基礎科目は同じようなもので、完成教育からの脱却が必要かもしれません。
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歯学部は廃止すべき (通りがかりの者)
2006-08-13 11:39:17
歯科医師の教育課程は医師とは根本的に異なります.歯科技工士にほぼ一致してます.ですから海外では「口腔外科」は医師,歯科医師の

ダブルライセンスは必須です.日本からの口腔外科留学生も実際は「見学」しかできません.

当然です.医学はやっていないのですから.「

頚部リンパ節摘出」を堂々と歯科医がやっても厚労省は「見てみぬふり」えあって決して認めているのではありません.ニセ医師が横行する

日本.はっきり決着すべき.ついでに過剰を

とおり越えた歯科医師ですから歯学部は廃止す

べきです.
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基礎教育は同じにした方がいいと思いますが (まさくに)
2006-08-17 00:46:54
>歯科技工士とほぼ一致

>海外ではダブルライセンスは必須



正確に知るわけではないですが、ダブルは主にアメリカなのでは?技工士と同じであれば、治療できないですよね。



>厚労省は「見てみぬふり」



これも法的にそういう解釈なのかどうかが問題なのであって、「歯科医業」の解釈問題ではないかと思いますが。「頸部リンパ節摘出は歯科医業でない」という法的根拠があれば、違法となると思いますが、その根拠が知りたいところです。
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