著作権法

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知的財産戦略(その2)

2006-09-18 23:36:56 | Weblog
■知的財産戦略とデジタル・コンテンツ

 知的財産戦略の中でも、著作権に関する部分は「コンテンツビジネスの飛躍的拡大」ということで、30年以上も前の産業振興政策をやっているというのが私の理解です。だからこそ、業界エゴもの要素も入ってきたのでしょう。
 その典型が、「レコードの還流防止措置」です。CDの国内の価格は、再販価格維持制度で米国などに比べるとはるかに高い価格が保たれているのですが、その制度を温存したまま、中国からの低価格な輸入版を止めようとするのですから、こんなに筋の悪い話はありません。普通の産業なら、安く生産できる中国等に工場を建設し、そこでできた製品を日本で売るはずです。衣料品のユニクロにしても、100円ショップのダイソーにしても、そこで売られている安価な製品は、中国製のものが非常に多いことは、誰の目にも明らかです。
 還流防止措置は、非常に問題の大きい制度であり、それを担いだ知的財産戦略は、非難されてしかるべきでしょう。

 しかし、知的財産戦略本部は、最近になってユーザーのことを考え始めました。昨年から今年にかけて検討を行った同本部のコンテンツ専門調査会のデジタルコンテンツWGは、「ユーザー大国」という概念を掲げましたが、些か遅きに失した感があります。
 動機としては、地上デジタル放送のコピー制限の議論が行き詰っているのをみて、放送事業者ではなく電気機器メーカーの肩を持つ形で「ユーザー大国」といっているような気がしてならないのですが、ユーザーの立場に配慮し始めたことは、望ましいことだと思います。

 しかし、新たな業界のエゴを擁護し始めました。それが、IT業界です。ITビジネスの振興を強く意識するあまり、そこに提供されるコンテンツにかかる権利者の意向が軽んじられる気がしてなりません。
 私が主張したいのは、その点です。IT業界保護のために、創作する人の立場が軽んじられているのは問題ではないかという点です。

■大切なのは「創作者」

 知的財産戦略本部は、「クリエーター大国」ということも言っています。噂によれば、コンテンツ専門調査会の会長の牛尾治朗さんがこれを強く主張したのだとか・・・
 私も、著作権制度で何が最も大切かというと、創作する人の努力に報いることだと思っています。額に汗して作品を作り上げた個々のクリエーターの立場は、今の日本はあまりにも低すぎます。そのような人たちの権利も「コンテンツの流通の円滑化」ということで、軽んじられる傾向にあります。
 「権利処理」という言葉がありますが、「処理」は、「ゴミ処理」、「むだ毛処理」というように使われる用語で、著作権についても、その程度にしか認識されていません。創作したり演奏したり様々な活動をしている「クリエーター」にとってはあまりにも可哀想すぎます。

■ 特許のほうが消費者泣かせ

 知財戦略に長けているというある優良企業は、自社が販売しているプリンターのインクについて、詰め替えができる他者のビジネスを、特許権侵害として訴え、勝訴を勝ち取りました。消費者にとって、また環境にとっても有益なビジネスの試みが、日本を代表する優良企業(しかも経営者は経済界の重鎮)によって葬り去られたのです。
 医薬品についても同じことが言えます。医療行為についても特許の対象とすべきだという議論がありましたが、製薬会社がそれを支持していたようです。理由は、もしそれが特許の対象となるのであれば、医薬品の特許の期間が実質的に延長されるからだということのようです。
 お医者さんの反対で医療行為自体は「特許」の対象にはなっていませんが、こうした議論の過程では、患者・消費者というかユーザーの意向はこれっぽっちも配慮されていません。

■きちんとした知的財産戦略を

 ただ単にコンテンツビジネスを振興するという経済産業省の考え方に即するだけでは、政府としての「知的財産戦略」としては不十分です。
 創作する者をもっと大切にして、日本で様々な作品が製作され、世界に打って出ようとすることを、もっと支援してもいいのではないでしょうか。