書く仕事

ご訪問ありがとう!!ミステリー小説の感想を中心に,読書,日々の雑感,映画の感想等を書き散らかしています.

恩田陸氏著「六番目の小夜子」(新潮文庫)

2006年04月02日 11時40分07秒 | 読書
「六番目の小夜子」は,1年半ほど前,恩田陸さんにハマる
きっかけとなった小説です.この後,「球形の季節」
「不安な童話」「光の帝国」「三月は深き紅の淵を」と,
立て続けに読んでしまいました.
読まずにいられなかったって感じですね.
5,6年前にNHKの教育テレビで連続ドラマとして放映
されましたので,ご存知の方も多いと思います.
ただ,私はドラマの方は私は見ていないんですけどね.
結末が違うらしいので見てみたい気はしますが.
今にして思うに,恩田陸さんの独特の雰囲気というか
恩田ワールドを最もよく表しているのが,このデビュー作
「六番目の小夜子」のような気がしています.
私が恩田さんをすごいと思うのは,恩田さんって場の
雰囲気をガラッと変える天才だと思うんですよ.
例えば,のどかな春の風景の中で,相思相愛の高校生
カップルが楽しそうに語り合っている場面があるとします.
戸外には桜が咲き,鳥達のさえずりが二人の将来を
祝福しているようなね.
ところが,突然,邪悪な何かがその場に現れて,一気に
恐怖の過去の出来事を思い出させ,悲鳴とうめき声に
満ちた場面に転換してしまうみたいな.
だいたい,小説にしても映画にしてもホラーは最初から
ホラーの雰囲気ですよね.冬のソナタみたいな純愛ものの
中でいきなりリングの貞子みたいなのが出てくるって言う
のは想像できないでしょう.
ところが,恩田さんはそれに近いことを,極めて自然に,
しかもずっと効果的に描写することができる小説家なん
だなという気がします.
もうひとつ,恩田さんを好きな理由がありまして,
それはストーリーの完結性を「わざと」あいまいにする
傾向があるところです.
例えば事件の本当の原因は何なの?と考えるといろんな
可能性がある.
いわゆる伏線はもちろん張られているわけですが,
それが普通は1つの結論を示唆するように複数の伏線が
張られるわけですね.ところが,恩田さんの小説では
伏線がいろんな方向を向いているんですよ.
結果的に事件の真の原因は読者の判断にゆだねられる
ことになる.このゆだね方が巧みなんですが,
いろんな方向を指している伏線のもう一つ上位に真の
原因というか,作者の主張が込められているんです.
多分,その上位の主張も読者によってまちまちにならざる
を得ないですが,すくなくとも私にはストンと気持ちに
納まってくれる1本の主張なんです.
「あーそういうことだったのね」っていう快感というか
満足感を感じることができる数少ない小説家ですね.
これらのテクニックが活きるのも,一つ一つの場面の
雰囲気描写が巧みであればこそです.
「六番目の小夜子」にしても,ホラー的な部分だけでなく,
青春小説としての描写も本当に素敵です.
親友との無我夢中の会話,好きな人に寄せる想い,
勉強面での挫折や充実感,ああ,そうだったなあ,よかったなあ...
と,思わせてくれるだけでも読む価値がありますが,それに
一転してホラーがからんでくるわけです.
他の作家のホラーがアナログの恐怖だとすると,恩田陸
さんのはデジタルの恐怖というんでしょうかね.
一般のホラー小説ではストーリー自体が怖いわけで,その
怖さは読む人の感受性によって大きかったり小さかったりする.
怖さの大きさがアナログ的なんですよ.だけと,恩田さんの
小説ではストーリー自体は,そんな怖い話ではないんですが,
もって行き方が超こわいんです.
つまり怖いと感じる感受性自体を刺激されるように書いて
あるんです.
つまり青春小説の段階で,(深層心理的に?),すでに
恩田マジックによって,読者は大変な怖がり屋さんに
させられてしまっているんです.その状態で怖い話が
出てくるので,「ヒエーッ」となってしまうんですね.
デジタルという理由は,その恐怖を感じるしきい値を
事前に変えられちゃっている点にあるんです.
ちょっと理系な表現ですね.
いけないいけない,書いているうちに怖くなってしまい
ました.実は,キロロのホテルで,家族が寝静まってから
も夢中になって読んでいたんですが,ふと気がつくと
午前3時を過ぎていました.同じ部屋に家族が寝ている
のにも関わらず,というかむしろぐっすり寝ているからこそ,
自分だけが起きてこの恐怖を感じていることが不気味で
なかなか寝付かれなかったです.
読むのは2回目なんだけどなあ.やっぱり怖いものはコワいね.
コメント (13)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« スキー場の今昔 | トップ | 「中洲」と「ススキノ」 »
最新の画像もっと見る

13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございました。 (Straighttravel)
2006-04-02 23:59:26
トラックバックありがとうございました。

coollifeさんの作品の感想はひとつひとつうなずいてしまうことばかりで、つけくわえることは何もないです。すばらしいですね!



「サヨコが失敗する」って結局その年の合格率が悪くなるってだけで、実は作中で由紀夫が口にしているとおり、たいしたことではないんですよね。でもそれなのに、あれだけ怖く描ける恩田さんはすごいです。



私も沙世子に手紙を送ったのは黒川だろうとは思ったのですが、どうやって同性同名で、しかも両親が転勤予定の少女を見つけたのだろう?・・・と思うと、超自然のダレカが手紙を送ったのかしら?などともんもんと考えてしまいました。

綾辻行人さんが巻末に「結局謎のまま終わっている事柄も多いが、そのことが作品の魅力になっている」という意味の解説を書かれていますが、そのとおりだなと思いました。



最後沙世子は怒りの気持ちとともに鍵を後輩に託しますが、「サヨコ」って結局なんなんだろう、学生時代の負の気持ちの象徴なのかなとか考えました。ミステリは読後謎がとけてすっきり、というものもありますが、「六番目の小夜子」は、読むほどに深い小説ですね。
Unknown (chiekoa)
2006-04-03 17:51:13
こんにちわ!

ほんと、その怖さ…わかります!読んでない人には説明しづらいですよね。あの怖さ。ぞくぞくしちゃいますよね。そんな恩田さんが大好きです!
>ざれこさん (coollife)
2006-04-03 23:22:59
青春小説としての爽やかさが,がホラー的な怖さをいっそう盛り上げているんですよね.

あと,秋と沙世子が恋愛関係にならなかったのは良かったと思います.このふたりまでくっついちゃったらつまんないですよね.
>chiekoaさん (coollife)
2006-04-03 23:44:35
自分はいい年した大人だと思っていましたが,恩田さんの小説を読むと,いかに自分が怖がりかを思い知らされますね.

あと,関根秋のお父さんは確かに気になる存在ですね.私も『図書室の海』で秋のお父さんに再会したいです.
>Straighttravel (coollife)
2006-04-03 23:56:12
ていねいなコメントをありがとうございました.

いろいろな解釈がありうるということでミステリーとしては低く評価する向きもあるようです.

でも私はミステリーというより新しい時代のホラーだと思っているので,むしろ未解決な動機とか不条理さとかがある方が楽しめます.

味が深いですよね.
ざれこさん ごめんなさい (coollife)
2006-04-03 23:59:17
私の操作ミスで,ざれこさんからいただいたコメントを削除してしまいました.いろいろやってみたんですが,復活できませんでした.ほんとうにごめんなさい.

こんにちわ (夏歌)
2006-04-04 16:40:03
こんにちわ、コメントありがとうございました。



「怖さ」を感じる、というのはすごい同感です。しかも半端な怖さじゃないんですよね…。こう、素手のままギュッと掴まれるような。

私自身、「怖い」というのはすっっごく苦手です。ホラーなんて読めません。ホラー映画見たもんなら一週間は怖くて眠れないのは確実です。

なのに、恩田作品の「怖さ」は大丈夫なんですよ。

と、いうか…あの、ホラー作品に付き物の”しつこさ”がないんですね。ホラー作品って、こうしつこくしつこく少しずつ怖さを重ねていっていきなり「グバーッ」みたいな所があるじゃないですか。

でも、恩田さんの作品というのは自然な怖さなんです。知らず知らずのうちに怖さが重ねられていってて、いつの間にか手に汗がびっしょり、みたいな。

そして恩田さんの本っていうのはいわゆる「ホラー」だけじゃないんですよ。こう、「本読みたい!」っていう本好きを再確認させてくれるような魔力を持っているんですね。

そんな中に、「怖さ」っていう恩田さん独特のスパイスが入っていて。

というか、恩田作品読了後のあの何とも言えない感覚はもう一つの世界だと思います。



何だか投稿者本人でもよく意味がわからなくなってしまいましたが…。(笑)

えぇと、この記事はすごい共感できたのでうれしかったです。

>夏歌さん (coollife)
2006-04-04 22:31:13
自然な怖さっていう表現は確かにそうですね.

ホラー好きでなくても楽しめる怖さという点も同感です.爽やかさと怖さのブレンドというかバランスが絶妙なんでしょね.
面白そうですね ()
2006-04-06 17:43:38
こんにちは。

「六番目の小夜子」はドラマで見たことがあります。

面白かったので、よく覚えてますよ。



青春って、わけもなく楽しい一方、心のどこかにポカンと不安や、なにか恐怖?みたいなものがあったりして、そういうところにホラーが絡んでくると怖いですよね。



小説の方も面白そうですね!読んでみたいとおもいます。
>悠さん (coollife)
2006-04-06 22:53:48
青春の純粋で一途な気持ちほどホラーが入り込む隙があるのかもしれませんね.日々の生活にあくせくしている私のような生活だと,ホラーが付け入る隙がないかも(笑)

今,同じ恩田さんの「不安な童話」を再読していますので,読了したら感想をアップしますね.

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事