昨日 耳にしたロックが まだ 鳴り止まない 

as time goes by 

スナップ写真のように
日常を切り取ってみました。

佳村龍一

SKYPE

2009-05-24 22:26:08 | ショートストーリィ
「VJって聞いたことあると思うけど....」
僕はスクリーンの向こうにいる彼女にそう言った。

SKYPEを使うようになって、
仕事もプライベートも以前より格段に効率がよくなった。
ただ、SKYPEを使う相手は限られている。
余程、相性が良い相手でないとSKYPEは気まずい。
少なくとも僕はそうだ。
彼女はそんな少ないSKYPE相手のひとりだ。

「よくクラブでサウンドと合わせてビジュアル流すじゃない?
あれなんだけどね」
彼女は軽く頷く。
「知ってるわよ、この前見せてくれたじゃない?」
そう言って、少しあきれた表情で、缶ビールを口に運んで一口飲んだ。

ウェブデザイナーの彼女のオフィスは自宅だ。
いつもはファミレスやマックで打ち合わせして、終わればさっさと別れるのだが、
SKYPEで打ち合わせをするようになって、終わったあとも、こうやってスクリーンを通じて
お互いの部屋で飲みながら話すことが増えた。
大抵、彼女がプレミアムモルツの缶ビールで僕はコーヒーだ。

「なかなかカッコいいと思うよ、もっと本格的にやってみてもいいかもね」
「そうか、見せたよね、ごめんごめん」
「あんまり真剣に話してないでしょ?まあいいけど」
彼女はそう言って僕を睨んで、また、缶ビールを口に運んだ。

彼女の後ろには見覚えのある空間が広がっている。
白い壁をバックパネルのない黒い棚で覆い、分厚いデザイナー関係の本やCDが、
整然と並び、その前に黒革のメイドインイタリーのソファーがある。
何とかっていう有名なデザイナーのソファーだったけど、誰だったっけ?
そのソファーで抱き合っているときに彼女が僕の耳元で囁いたデザイナーの名前...。
スノッブなソファーに彼女はとてもよく似合っている。クールな彼女も喘ぐ彼女も。

「よかったら、作ろうか?」
首を少し右に傾けながらスクリーンの向こう彼女はそう言った。
「何を?子供?」
「バカじゃない?サイトよ、VJのニーズってあるかもよ」
ソファーに横たわった、クールな普段とは全く違う表情の彼女を脳裏から追い出した。
「そうだね...世に投げかけてみよっか、オレの才能」
「ほんと軽いわよね、あなた」
いきなりSKYPEを切断されそうなくらいの怖い表情だったので、僕は姿勢を正して、
小さな声で「すみません、よろしくお願いします」と言った。
「高いわよ、覚悟しといてね」
ウェブでVJの受注が取れるものなのか僕にはよく分からないけれど、彼女の好きにさせてみよう。
彼女の感性を僕はとても気に入っているから。
気に入っているから、SKYPEができるのだ。

少なくとも僕はそうなのだ。










存在感と居場所

2009-03-08 11:37:32 | ショートストーリィ


パーティーのプロデュースプランを作り終えて、
僕はMacbookを閉じた。

キッチンまで行って、ドリップしたばかりのコーヒーを
カップに注いだ。
ジップロックのパックに納められたオレオをひとつ摘んで
口に入れた。

テレビはWBC第1ラウンドで日本は韓国に圧勝を伝えていた。

僕の頭の中では、今手掛けているパーティーが
まだ繰り広げられている。
頭の中では演出に不可能はない。
Macbookを閉じても、脳裏のパーティーは終わらない。

演出する仕事は楽しい。
サプライズは何がいいのかとあれこれ考えるのは、
ちょっとしたイタズラをするときの感じに似ている。
何かの刺激を他人に与えることで、
普段とは違うその人の反応をみることができる。
喜んだり、驚いたり、感心したりする表情をみると、
自分の居場所を得た気分になって嬉しくなってくる。

ちょっとしたことでも誰かに影響を与えることは、
座る場所を確保できた気分にしてくれるのだろうか。

テレビでは第1打席のイチローの映像を流している。

イチローは韓国のエース金広鉉の2球目を完璧に捕らえ、
ライト前に綺麗に打ち返した。
決め球の深く落ちるスライダーだった。
イチローが放ったライト前への白い軌跡は、多くの人々に
影響を与えるだろう。
塁に立つイチローの横顔から圧倒的な存在感を、僕は感じた。
間違いなくそこはイチローだけに与えられた居場所だ。

期待に応えることができる人だけが得られる居場所がある。

そこは、ただ単に居るという場所ではなく、
その人だけが座ることができる
ファーストクラスのシートのような場所だ。

果たして、僕はそんな居場所を確保することができるだろうか。
誰にも邪魔されない、盗られることもない、
自分だけが座れるシートを、確保できるだろうか。

僕はソファーで熱いコーヒーを飲んだ。
午後はジムで泳ごうと思う。
無性にカラダを動かしたくなった。






プレミアレディ

2009-02-23 22:09:51 | ショートストーリィ
オフィスの駐車場にクルマを停めたときに、
紫からケータイにメールが来ていたことに気づいた。
待ってるときには来ないのに、
メールって不思議なもんだなと苦笑した。

さっきまで僕は彼女のオフィスの近くにいたのだ。
近くにいると思うと逢いたくなった。
深い仲ではないけれど、彼女の顔を見て話を交わすと落ち着くのだ。

「昼飯でも一緒にどうかなと思って」

そう彼女に誘いのメールした。
仕事を片付けながら、彼女からのメールを待った。
けれど、なかなか返ってこなかった。
でも、その待つ時間もまんざら悪くはなかった。

彼女と簡単に食事ができるっていうことに違和感を覚えた。
自分から誘っているのにへんな話だけど。

まだ、春には遠いのに、とても暖かかった。
広がる青空にラインを引きながら飛ぶ小さな飛行機の陰影を、
ケータイのカメラで撮ったりして、メールを待った。
メールが返ってこないことで、安心する自分がいた。

少し不思議だった。

あんな素敵な女性と、そんな簡単に時間を共有してもいいのか…みたいな感覚。
ちょっと大袈裟だけれど、
何か神に守られた領域に踏み込むような期待と不安…みたいな感覚。

たぶん、僕の中で彼女にプレミアがついているのだ。

メールを送ることで、今確かに紫と繋がっている。
その安心感だけで、今のところは満足なのかもしれない。

「ごめんなさい、バタバタなんです。ホントに残念だけど…
返信遅くなってごめんなさい。ぜひ、また誘ってくださいね」

もちろんさ。
僕は心の中でそう呟いて、クルマのドアを開けた。
それから、シートに座ったまま、煙草に火を点けた。

しばらく、この距離感でキャッチボールできたらいいなと思う。
なんせ、彼女にはプレミアがついているんだから。



紫の雨

2009-02-22 02:26:48 | ショートストーリィ
窓から見える通りは雨に濡れていた。

ボッテガのバッグからタワーレコードの袋を取り出して、紫は
ニッコリと微笑みながら、僕にそれを手渡した。中には欲しか
ったハウス系のCDとブラウンの包装紙でラッピングされた包み
が入っていた。
「日頃のお礼だよ、それだけじゃ足らないけどね」
紫は少し照れながらそう言った。
「いや、充分だよ」
ショートヘアが小さな顔によく似合っていると思う。
「気遣ってくれてありがとう、ゆかりさん」
「どういたしまして」
そう言って紫はテーブルの上で震えているケータイの画面を
ちらっと見て、細く長い指でメールを打った。それから、小
さく溜息を吐いて、運ばれたばかりの食後のコーヒーを一口
飲んだ。
「あたしの性分だから。いつも美味しいものをご馳走になっ
てるし。あ、でも誤解しないでね、あなたと貸し借りを作り
たくないってわけじゃないから」
さらっとそういうことを言うところは、ゆかりらしいな、と
思う。貸し借りを作りたくないのなら、彼女は食事もしない
だろう。
仕事では前から親しくしてきたけれど、紫とは今日を含めて
4回ほどしか、ふたりで夜に食事をしていない。
だから、らしいっていう根拠も大した裏付けがあるわけじゃ
ない。
彼女の本心はまだ分からない。
ただ、僕にプレゼントするために自分の時間を使う気遣いは、
大人の女性だなと思う。男のメンツを考えてご馳走になると
いう姿勢もだ。利用しようとかの匂いがない。
そういうところは仕事にも顕れているし、僕は彼女のそうい
うポイントを外さない繊細なところが好きだ。
自立した女性っていうのは、たぶん、紫のような人のことを
いうのだろう。仕事のことでも、愚痴も悪口も言わない。
長く生きてきたけれど、意外にも、彼女のような人はなかな
かいない。
「いつも雨じゃない?」
外の通りの開いた色とりどりの傘を目で追いながら、紫はそう
言った。たしか、この前のフレンチの店行ったときも雨だった
よね。僕は頷いてコーヒーを飲んだ。
でも、オレはいやじゃないけどね。
僕は煙草に火を点けて深く吸い込んで、それから彼女に断って
から、丁寧にプレゼントの包みを剥がした。
「気に入ってくれるとうれしいけど」
紫はちょっと心配そうに僕を見つめた。
とても指に馴染みそうな万年筆が、革の化粧箱に納まっていた。
彼女も愛用しているアクメのロビーハウスだった。
「次は晴れるかなぁ」
紫は独り言のようにそう呟いた。

アクメの筆跡

2009-02-14 18:07:07 | ショートストーリィ
いつもありがとう。
お体にはくれぐれも気を
つけて。お仕事頑張って。


ゴディバに添えられた
シンプルなメッセージカードには、
優しい筆跡でそう書いて
あった。

控えめだけれど、
伝える時を心得ている彼
女らしく品のある行為だ
と思う。
たぶん、あのお気に入りの
アクメの万年筆で書いたの
だろう。
書いている彼女の横顔が
目に浮かぶようだ。

さりげなく振る舞う行為
に上質感を漂わせること
はとても難しい。
カードの選び方、筆跡、届け
るタイミング…。
彼女の目利きのセンスとおも
てなしに近い喜んでもら
うという純粋な気持ちが
上質感というオーラを生んだ
のだろう。

僕はゴディバを口に運んだ。
明日、万年筆と便箋を買い
に行こうと思う。
思ったことを伝えるために。



エスプレッソ

2009-02-14 02:32:16 | ショートストーリィ
僕はクルマを停めて、外灯に浮かぶ
雨に濡れた中庭を抜けた。

そのカフェの窓明かりは、まるで暗
闇に灯る蝋燭のように、優しい。

甘いのは大丈夫ですか?

オーダーしていないエスプレッソを
テーブルに置きながら、店のオーナー
である彼女は僕にそう尋ねた。

僕は頷いた。

甘いのは得意ですよ。

そう言うと、彼女は微笑んだ。

「では、シュガースティックを二本入れてみて」

二本?僕は彼女の言うままに、彼女が
出してくれたエスプレッソにコーヒー
シュガーを入れた。

「いいエスプレッソは表面の泡立ってるとこに、少しの間、砂糖が溜まるんです、わかります?」

僕は頷いた。
カップの中のエスプレッソはブラウン
シュガーをまぶした砂糖菓子のようだった。
「じゃ、スプーンでかき混ぜて飲んでみて」
そう言って彼女は、細い腕でスチールのト
レイを胸元で抱えながら、少しだけ心配そ
うな表情をした。

僕はエスプレッソを一口飲んだ。
コーヒーの苦味を残した上品な甘味が口の
中に広がる。
「美味しい!」
僕は思わず、彼女の顔を見て呟いた。
こういう飲み方をしたことが無かった
から、とても新鮮に思える。
「でしょう?よかったぁ」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
その嬉しそうな表情を見つめながら、
もう一口味わう。存在感のある甘味が
エスプレッソの芳ばしさを際立たせて
いた。
何よりも、少しだけでも驚かそうとし
てくれた彼女の気持ちが心地良くて、
芳ばしさに温か味が加わったようで、
格別な味に思えた。

先月別れたばかりの女性の顔が、ふと、
僕の脳裏に浮かんだ。
苦味と甘味、そして温か味・・・。
バランスがよければ、まだ続いていた
のかもしれないと思う。

「イタリア人にとってエスプレッソはデザートなんです」
「こういう飲み方したら、それがよくわかるね」
僕は少し笑って、エスプレッソを飲み
干した。
「よかったら、底に残った砂糖はスプーンですくって、食べてみてください」
彼女はそう言って、僕のテーブルから
離れた。新しく店に来た客を応対する
ためだ。
僕は彼女のいうとおり、底の砂糖を口
に運んだ。
ちょっとしたサプライズが口に広がった。
そのほんの少しの驚きは、脳裏に浮か
んだ女性を消してくれた。

ブレイクダウンインザダーク

2008-05-26 23:14:16 | ショートストーリィ
ハザードランプを点滅させて、僕はリンを待った。

ハミルトンの針は9時を示している。

約束の時間から1時間が過ぎている。仕事が押しているのだ。
煙草に火を点けながら、彼女は手を抜かないからなあ、僕は
心の中で呟いた。

ジッポのバタフライが街灯の光に踊る。

彼女を待つことは苦痛ではない。
特に、今夜は。
僕には、落ち着いて、冷静に考える時間が必要だった。

どうしたいのか、じっくりと考えておいて。
ケータイの向こうで聞こえたリンの溜め息が蘇える。

なぜ、彼女に会えないと気持ちがいっぱいいっぱいになるの
だろう。
たぶん、と僕は思う。これは、彼女に問題があるのではなく、
僕自身の問題なのだ。

毎日を、充電したエネルギーを使い切るように突っ走るリン
が羨ましいと思う。
羨ましい分、なおさら、置いていかれる感覚を覚えるのかも
しれない。

そんな、簡単に口にすることじゃないわ、そんな軽い想いだ
ったのかって、情けなくなるじゃない。


本気で別れたいなんて思っているわけではないことは、僕自
身、充分に分かっている。別れを匂わすようなことを言った
自分をマジでくだらないヤツだと思う。

おいおい、どうかしてるぜ、まったく。
クールなんだろ?いつもさ。

もう一人の僕が笑いながら囁く。

手の平で、ジッポのバタフライが踊っている。

ハザードランプ

2008-05-25 00:22:16 | ショートストーリィ


ねえ、あたしの何が不満?毎日、マメにメールや電話も
するし、何が足らないっていうの?

僕の別れを匂わせるようなヤッホーに、リンからヤマビ
コが返ってくる。

意味がわからない。あたしがあなたのことをどう想って
いるか、勝手に想像して決め付けないでほしいわ。

リンにそう言われると、僕は言葉に詰まる。何が足らず、
何で自分自身の気持ちがいっぱいいっぱいになって、神
経衰弱的な状態に陥ってしまうのか、リンのクェスチョ
ンに答えることができなかった。
僕はリンに何を求めているのだろうか。彼女に何の落ち
度があるのだろうか。なぜ、歯車が合わなくなったと感
じてしまうのだろうか。

とにかく、落ち着いてもう一度よく考えて。電話やメー
ルでするような話じゃないわ。

ディレクションの仕事をバリバリとこなす彼女は、ケー
タイの向こうで溜め息を吐いた。

僕の心でハザードランプが点滅する。
まるで、ボンネットから煙を出しながらヨロヨロと路肩
に停まるクルマのようだと思う。

8時に迎えに来て。その時に、もう一度、あなたの思っ
てることを聞くから。よく考えておいてね。

リンは電話を切った。
僕は、どこか遠くに行きたいね、と飛行機のシルエット
を仰ぎ見ながら話すリンの少し寂しげな笑顔を思い出し
た。

嘘と歯車

2008-05-22 22:26:12 | ショートストーリィ
ダメだよ、撮っちゃ。

僕は博多弁のうまい彼女のほっそりとした手首をつかんだ。

彼女は僕との仕事の打ち合わせで、急遽、福岡からやって来た。

今からでもいいですか?

新幹線に乗る直前の彼女から電話が入った。

フィットするっていうことを感じるのに時間なんて関係ない
のかもしれない。
食事をしながら、仕事の打ち合わせをしたあとで、
彼女がチェックインしたホテルで過ごした。

嘘も方便だよって言う、歯車が噛み合わなくなってきたリンの
顔が浮かぶ。何が噛み合っていないのかよく分からないけれど、
意図しなかった言葉や表情から、猜疑心っていうヤツが姿を現
して、歯車を壊し始めるのかもしれない。
ヤッホー。
そう叫んだら、リンからヤマビコは返ってくるだろうか。

そう考えながら、僕は博多弁の彼女にキスをした。

月と憑き物

2008-05-20 22:18:39 | ショートストーリィ


「奥が深い山ほど、大きな声で叫ばないと、ヤマビコなんて返ってこないわ」

そう言って微笑んだ占い師の顔を思い出した。
強がってみても、彼女には勝てないことは分かってるさ。

「与えたものだけしか返ってきません、何事もね」

僕は、東の夜空に浮かぶ月を眺める。

「見返りを期待して与えるって、自分が思うほど、人に何かを与えてはいな
いものよ」

最初にヤマビコを見つけた人は、単純に目の前の山や奥深い谷が綺麗だった
から、思わず感嘆の声が叫びになったのに違いないと思う。

決して、ヤマビコを期待していたわけじゃないのだ。

シャレてるわけじゃないけれど・・・。
月の明かりの下で、憑き物が落ちたように、
僕のマインドが鼓動している。


ヤッホー

2008-05-18 18:22:33 | ショートストーリィ
スニーカーと同じで、タイヤを履きかえると、
いつものクルマが違って見えるから不思議だ。


好きになってくれているかどうか分からない彼女を
追いかけるよりも、ほんの少しリニューアルしたこ
のクルマでどこか遠くまで高速をぶっ飛ばしたいと
思う。本当にフィットする誰かに出逢うまで。

マインドのリズムがシンコペーションを求めている。

返らないヤマビコのために「ヤッホー」って叫ぶヤ
ツはいないのに、どうやら、恋愛となるとそれを繰
り返してしまうらしい。

僕の脳がイグニッションにキーを差し込めと命令している。

アクセルを踏み込みながら、
フィットする山は幾らでもあるさ、と僕は思う。



待つキャラ

2008-05-17 01:01:50 | ショートストーリィ

博多弁で話す彼女の声をケータイで聞きながら、
僕はオフィスビルを見上げる。
リンを待っている間、僕は彼女とケータイで企
画の打ち合わせをしている。
広告代理店のディレクターらしい彼女の軽快な
口調が心地いい。
遠距離でのビジネスだから、電話に頼らざるを
得ない。

ここのところ、「リン待ち」が多いけれど、そ
の分、待ってる間の時間の使い方がとても効率
良くなってきたような気がする。
人間って知らず知らずのうちに工夫するもんな
んだなと思う。

こんなに待つキャラだったかな?とも思うけど。



繋がるタイミング

2008-05-15 00:33:28 | ショートストーリィ


キスの手前1センチが、いつもドキドキする関係でいたいね。


そう言ったのは、ミウだったか、リンだったかハッキリと思い出せない。
友達と飲んでいるリンを待っている間、僕は近頃なかなか見掛なくなった
電話ボックスをずっと眺めていた。
飲み会はいつ終わるのか分からない。


キスの手前1センチが、いつもドキドキする関係でいたいね。


ひょっとしたら、それは、もっと昔に聞いたのかもしれない。

公衆電話ボックスで。

そんな日常では絶対言えないようなセリフは、日常に溶け込んだケータイ
で交わすには、似合わない気がする。
居場所と時間のタイミングが合わないと繋がらない公衆電話。そこで交わ
す会話は、いつも、非日常的だったのかもしれない。
でも、日常に溶け込んだケータイといえど、繋がる意思がお互いになけれ
ば繋がらない。

当たり前だけど・・・。



ごめんね、今からそっちに行くね。

日常に溶け込んだ僕のケータイに、ようやくリンからの声が届いた。
リンとの間には非日常的で浮くような会話はないけれど、それでいいのか
もしれない。

意思さえあれば、繋がるタイミングは無限にあるから。










hatsunetsu

2008-05-13 13:49:06 | ショートストーリィ

平日の昼間に自分の部屋にいるのは、なんだか妙な気分だ。
日曜日のサーフィンのせいか、風邪をひいてしまった。

世の中の流れから隔離されたような、切り取られて引き出し
の奥にしまわれたような、そんな変な静けさが部屋を浸している。

近くの小学校から聞こえてくる子どもたちの声も、なんだか別の
世界のように思えてくる。
クスリのせいかもしれないけれど、時間が過ぎていくスピードも
鈍いような気がする。

大丈夫?病院行ったの?

リンからの電話が、「日常」と切り取られた僕を繋ぐ、唯一のラ
インだと思う。

5月の蛇口

2008-05-11 21:26:47 | ショートストーリィ
昨日の雨がうそのように晴れた。
リンとまったり過ごしたかったけれど、こんなに気持ちよく
晴れたら出掛けないわけには行かなかった。

今日の波のサイズは膝~腰。
時折、肩~頭くらいのベストな波が来た。
波の曲線はとても美しい、といつも思う。

波乗りを終えた僕は、背中に波の音を感じながら、
海水浴シーズンになるとオープンするシャワー室に向かう。
もちろん、シャワーは使えないが、建物の外に水道が引いて
あるのだ。

蛇口をひねって、勢いよく出る冷たい水に頭を突っ込むと、
潮の味がした。
微かに、blue king brown の曲が聞こえる。
誰かがカーステで流しているのかもしれない。
http://www.v-again.co.jp/vaa/artist/bkb.html

飛沫に小さな虹が見えた。