クールジャパン★Cool Japan

今、日本のポップカルチャーが世界でどのように受け入られ影響を広げているのか。WEB等で探ってその最新情報を紹介。

太古の母性原理を残す国:母性社会日本01

2012年10月14日 | 母性社会日本
引き続き、日本文化のユニークさ7項目にそってこれまで書いてきたものを集約し、整理する作業を続ける。7項目は次の通りである。

日本を探る7視点(日本文化のユニークさ総まとめ07)

今回から7項目の二番目(2)「ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた」に関連する記事を集約して整理していきたい。世界史の流れを見ると古代文明の誕生とともに、前農耕的な母性原理の文化は消えていく。しかし日本列島では母性原理的な縄文文化が消えずに存続し、その上に大陸からもたらされた高度な文明が接ぎ木される。母性原理を破壊されないように上手に変えられながら吸収されていった。だからこそ母性原理の社会が残ったのだ。

日本文明は、母性原理を機軸とする太古的な基層文化を生き生きと引き継ぎながら、なおかつ近代化し、高度に産業化したという意味で、文明史的にもきわめて特異な文明なのである。

日本文化のユニークさ39:環境史から見ると(1)
縄文文化のどのような特徴が日本人の心の基層として残ったか。世界史的に見ると日本列島は、農耕文明の時代になっても、農耕以前の母性原理が消滅しなかっためずらしい地域だといえるようだ。そして、その特徴が現代日本人の心理にも表れていて、日本の若者文化の発信力の一因にもなっている。

世界史的な視野で見ると、古代地中海世界では紀元前1500~1000年頃に大きな世界観の変化があったという。それまでの大地に根ざす女神から、天候をつかさどる男神へと信仰の中心が移動したというのだ。これには紀元前1200年頃の気候変動が関係しており、北緯35度以南のイスラエルやその周辺は乾燥化した。その結果、35度以北のアナトリア(トルコ半島)やギリシアでは多神教や蛇信仰が残ったが、イスラエルなどでは大地の豊饒性に陰りが現れ、多神教に変わって一神教が誕生する契機となったという。

これまで大地の恵みに頼れば生きていけた時は、地下の蛇や大地母神が信仰されたが、乾燥化が進むと嵐や雷に関係する天候神バールや唯一神ヤーウェの信仰が強大化した。この信仰の変化にとってもうひとつ重要なのは、牧畜民が砂漠を追われて農耕民のオアシスや河畔に侵入し、侵略したことだ。牧畜民は天の神を信じていたので、これも天候神の確立に大きく寄与した。

さらに紀元前1200年頃の気候の悪化をきっかけにして、トルコ・アナトリアのヒッタイト帝国が崩壊し、それまで彼らが独占していた鉄器の制作技術が各地に普及した。これにより世界史は、青銅器時代から鉄器時代へと移行していった。

これらが背景となって紀元前1200年頃、ユーラシア大陸の広範な地域で、よく似た神話が語られるようになった(ギリシア神話のゼウスにも、中国南部のハニ族にも似たような神話があるという)。その共通点は次のようなものである。

①古い神(蛇の姿の大地母神)と新しい神(人間の姿をした天候・嵐の男神)との闘い。
②新しい神は、あごひげをはやした男神(鉄器をたずさえたバール神など)。
③天候神と大蛇の闘いは、一度は大蛇が勝利するが、美女の助けで天候神は復活を果たし、勝利する。

これは、大地の豊饒性の低下の中で、信仰の中心が大地から天へと移動し、同時に男性の権力が増大したことを物語る。母権社会から父権社会への転換を意味していたとも言えよう。

日本列島は、世界的な気候変動にもかかわらず大地の豊饒性はそれほど変化しなかった。それゆえ、漁撈・採集を中心にした縄文文化を高度に発達させながら長く存続させることができた。稲作文明や鉄器が流入したときも、豊かな縄文文化を基盤にして、徐々にそれを取り入れることができた。だから縄文の母性原理の文化を崩すことなく、存続させることができたのである。島国であるため、遊牧・牧畜民の侵入がなかったことも、母性原理の文化が存続したことの大きな理由の一つだろう。

縄文以来の母性原理の文化が、父性原理の文化にとって替わられることなく存続したという事実の意味は、どれだけ強調しても強調しすぎることなないだろう。

日本文化のユニークさ36:母性原理と父性原理
日本列島に住んできたわれわれは、「母なる大地」に象徴される豊かな自然の恩恵をたっぷり受けながら母性原理的な宗教を保ち続けることができたユニークな民族である。それに対して大陸の諸民族は、多かれ少なかれそうした「自然性」から脱することで「文明」をきずいていった。その違いにこそ、日本文化のユニークさを考える上での大切な観点が隠されているのではないか。

世界史は大きな流れとしては狩猟・採集文明から農耕・牧畜文明へと変化していった。その流れを母性原理、父性原理の視点から考えるなら、狩猟・採集文明はどちらかというと母性原理が強く、農耕・牧畜文明はそこに父性的な原理も入り込んでくるといえるのではないか。さらに多神教・一神教という区分でいうなら、アニミズム的な自然崇拝では母性原理が強く、精霊崇拝からある程度明確な多神教という形をとるようになると多少ととも父性的な原理も入り込んでくる。そして一神教は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という「地中海三宗教」において出現し、かなり父性的な性格の強い文明の基盤となっていくのである。

たとえば縄文人は、日常生活の根拠地としてムラの周囲のハラを生活圏とし、自然と密接な関係を結ぶ。生活舞台としてのハラの存亡に影響を与えることは、生活基盤の破壊につながりかねない。だから自然との共存共栄こそ、その恵みを永続的に享受する保障につながる。彼らは、ハラのさまざまな自然の背後に精霊を感じ、その恵みに抱かれて生きていることを実感しただろう。

一方、農耕民は自然をあるがままにせず、開墾し農地を確保する方向に進んでいく。ムラという人工空間の外にもう一つの人工空間としての農地=ノラを設け、その拡大を続ける。つまり農耕民はただ単に母なる自然の懐に抱かれているのではなく、自然を征服するという意識と態度を自覚していく。これは多かれ少なかれ母性原理からの脱却を意味する。

ところで日本列島に生きた人々は、農耕の段階に入っていくのが大陸よりも遅く、それだけ狩猟・採集の文明を高度に発達させた。世界でもめずらしく高度な土器や竪穴住を伴う狩猟・採集であった。このように高度に発達した母性原理的な縄文文化がその後の日本文化の基盤となったのである。しかもやがて大陸から流入した本格的な稲作は、牧畜を伴っていなかった。牧畜は、大地に働きかける農耕よりも、生きた動物を管理し食用にするという意味で、より自覚的な自然への働きかけとなる。そして牧畜は森林を破壊する。

さらに日本列島の人々は、他民族にも襲われずに、母なる大地の恵みを最大限に受けながら悠久の昔からそこに住み続けることができた。そのような条件にあったからこそ、自然の恵みを基盤とする自然崇拝的な宗教を大陸から渡来した儒教や仏教を共存さて、長く保ち続けることができたのである。神仏混淆とは、一方の文化が他方の文化を圧殺しなかった結果に他ならない。

一方大陸では、そのような条件に守られ続けることはほぼ不可能であった。それゆえ、多かれ少なかれ母性原理の文化から脱出せざるを得なかったのである。精霊信仰や自然崇拝はもちろん、部族の宗教を保つことも不可能だった。部族宗教相互の闘争が起こり、一方が他方によって抹殺され、やがて普遍宗教によって支配される大帝国も出現した。闘争や統合によって成立する宗教は、自然の恵みに抱かれる自然性の原理の宗教に比べれば、はるかに意識的であり、男性的・父性的な原理を含んでいるのである。

それゆえユーラシア大陸の歴史を巨視的に見ると、母性的な自然との一体性から脱し、農耕・牧畜によって自然に働きかけ征服し、部族相互の闘争を繰り返しながらより普遍的な宗教を形づくっていくという形で、父性的な要素を徐々に取り込んでいったのではないか。その極限にあるのが一神教的な西欧文明であり、その源のひとつがユダヤ教なのである。西欧文明のもう一つの源は、もちろん合理主義的なギリシャ文明である。

日本の歴史と文化のユニークさは、民族相互の抗争と無縁なところで母性原理的な森の宗教の原型を残し、しかも大陸の厳しい歴史の精華の部分だけを、その母性原理的な文化の中に取り入れることができたというところにあるのではないか。

《参考図書》
森のこころと文明 (NHKライブラリー)
一神教の闇―アニミズムの復権 (ちくま新書)
森を守る文明・支配する文明 (PHP新書)

《参考記事》
日本文化のユニークさ01:なぜキリスト教を受容しなかったかという問い
日本文化のユニークさ02:キリスト教が広まらなかった理由
日本文化のユニークさ03:縄文文化の名残り
日本文化のユニークさ12:ケルト文化と縄文文化
日本文化のユニークさ17:現代人の中の縄文残滓
日本文化のユニークさ18:縄文語の心
日本文化のユニークさ19:縄文語の心(続き)
日本文化のユニークさ27:なぜ縄文文化は消えなかった?
日本文化のユニークさ28:縄文人は稲作を選んだ
日本文化のユニークさ30:縄文人と森の恵み
日本文化のユニークさ31:平等社会の基盤
日本文化のユニークさ32:縄文の蛇信仰(1)
日本文化のユニークさ33:縄文の蛇信仰(2)
日本文化のユニークさ34:縄文の蛇信仰(3)
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 縄文の蛇は今も生きる:現代... | トップ | 甘えと母性原理:母性社会日本02 »
最新の画像もっと見る

母性社会日本」カテゴリの最新記事