ひ鳥ごと

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日本の科学技術オワタ

2009-11-14 02:01:58 | コンピュータ
MSN産経ニュースより。

ここ数日「事業仕分け」という名の裁判型(笑)国家事業査定が進んでいますが、この場で「京速計算機必要なし」の烙印を押したことにがっかりしました。
その内容も酷い。端的に言えば「一番を取る意味あるの?」という一言で決まったようなものだそうですが、事業の内容に踏み込んだ上で「予算付け(ほぼ)見送り」の結論を出すのならともかく、こんな頭の悪い議論で決まってしまったことが情けない。

スパコンの存在価値を一言でいうなら、「大規模なシミュレーションを実行できる」こととなるでしょうか。
現代の科学技術は高度なものとなっており、対象が大がかりすぎたり(たとえば宇宙規模とか)、あるいは微小すぎたりして(ナノレベル)、実験室での実験が難しくなってきています。こういった分野では実証を行おうとしたらコンピュータの力が必須のものとなります。また、無数のタンパク質の組の中から有用そうなものを見つけるといったような、手作業では気の遠くなるような作業量がかかるようなものも、コンピュータを利用すれば効率的に解析できます。あるいは、たとえば新型スポーツカーのデザインを検討する際にいちいち模型を作って空力解析をしていたのではいくら予算があっても足りませんので、このような場合にはコンピュータでのシミュレーションである程度候補を絞った上で実際の風洞実験を行うようにするといったように、産業界でもやはり(CADとかのレベルではなく)コンピュータは競争に必要なものになっています。
コンピュータで行う作業はすなわち計算ですが、シミュレーションで必要になる計算は往々にして膨大なものになります。それは、様々な要素を考慮に入れて、相互の影響を算出しなければならないからです。たとえば2物体の重力であればその2物体の相互関係だけ考えればいいのですが、これが3物体になったら計算量は3倍になります。4物体なら4倍になるかと思いきや、そうではなく、6倍になるわけです。さらに、気体や液体の流れなどを考慮する場合には、高校の物理で習うような力学なんかより遥かに複雑な計算が必要になります。
近年のパソコンは性能が上がったとはいえ、このような複雑な計算をやるにはまだまだ力不足です。シミュレーションの計算に掛けられる時間は決まっていますから(決まっていないのであればそれはコンピュータにやらせる必要がないことになります)、利用するコンピュータの性能が高い方がよりよい精度でシミュレーションができることになるので良いということになります。コンピュータによるシミュレーションを必要とする分野は科学技術分野(学術・産業問わず)の広範にわたっているので、性能の良いコンピュータを持てることは科学技術の分野で成功する可能性が高くなることを直接意味します。

「だったら海外から性能の良いコンピュータを調達すればいいじゃないか」と言われるかも知れませんが、2つの理由からそれはまずいです。
一つは安全保障の観点から。性能の良いコンピュータはどんな分野であってもその性能を遺憾なく発揮しますから、これが軍事分野であれば大変なことになります。たとえばミサイル。そもそもコンピュータが開発されたのもミサイルの弾道計算を効率的にやることが目的でした。さらに画像解析性能を上げれば、ミサイルを精度良く誘導できる可能性が上がります。特にアメリカは軍事利用可能な技術の輸出を厳しく制限しており、最高性能のスパコンをアメリカから導入するなんてのは絶望的な話です。この点に関しては、「PS2は画像処理の性能が高いのでアメリカから2台まとめて持ち出すことができない」なんてジョークがあるほどです(このジョークの真偽は不明ですが)。
もう一つは、産業育成の観点から。今まで述べたようにコンピュータは科学技術分野での基幹的な技術ということになりますが、これを産業として育成できない国に他の産業が育てられるのかはなはだ疑問であると言わざるをえません。

有意な反論ができなかった文科省の役人にもがっかりですが(個人的にはコンピュータ産業を統括する立場にある経産省と組んでやればまだましだったのではないかと思うのですがその話はとりあえず置いといて)、スパコンへの予算分配に反対した仕分け人に金田康正松井孝典といった自然科学分野の学者が入っていることに愕然としました。とくに金田氏は計算機科学の学者(円周率の研究)であり、円周率の算出においてコンピュータを使っているにもかかわらず、京速計算機の存在価値を否定するような発言をしたことには怒りさえおぼえました。