風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

歌舞伎座新開場こけら落 壽初春大歌舞伎 夜の部(1月23日)

2014-01-27 00:19:05 | 歌舞伎




今年の初歌舞伎座!
今月は前半に国立を入れたため、こちらは楽直前での鑑賞となりました。

※3階B席中央


【九段目 山科閑居】

由良之助@吉右衛門さん、お石@魁春さん、力弥@梅玉さん。
この大星家、、、もっっっのすごい好みでございます
私的最高の組み合わせではなかろうか。

吉右衛門さんの由良之助。
七段目とはまた違う、すべての準備が整いあとは討入りの決行を待つのみという、そんな心の静けさも感じさせる由良之助でした。
「大きさが必要ですが、その大きさも殿様でない家老である難しさがある」と筋書で仰っていますが、まさにそのとおりの由良之助。上に立つ者の大きさだけでない、下に仕える者の細やかさやリアリストな部分がちゃんと見える。昼の部(松浦の太鼓)では完璧な“殿さま”を演じられていただけに、その見事な空気の違いに見入ってしまいました。

魁春さんのお石。
武家の妻の毅然とした気品、表に出さずじっと内に抑えた夫と子への愛情、、、素晴らしいですねぇ(号泣)!!!
あの抑えた演技でどうしてこんなに内面が伝わってくるのか。。。役者さんってすごい。。。

梅玉さんの力弥。
67歳で前髪にまったく違和感がないなんて、これが歌舞伎役者というものなんですねぇ。。。なんか泣きそう。。。
目録(絵図)を手渡すときに恥じらって顔を背ける小浪に微笑む顔が、それはもう優しそうで品があってかっこよく。。。ああ梅玉さん、好き。。。動きも颯爽として美しい。。。

三人のあくまで控えめで静かな、だからからこそ一層胸をつく、刻一刻と近づく家族の別れの予感が切なかった。。。
討入り前の、雪の山科閑居での最後の最後のひととき。
九段目は加古川家メインのお話ではあるけれど、ここにもう一つの家族の物語があることを見事に見せてくれた今月の大星家でした。

一方の加古川家。
台本もそうなのですが、演じている役者さん達の個性もあり、感情がはっきりと表に出ているところが大星家と対照的。
私の好みは大星家の方達の演技の方ですが、それでも生の舞台の藤十郎さんの存在感はさすがでした。
花道の登場からずっと体の隅々までいきわたっている緊張感の持続、82歳で素晴らしい。戸無瀬の鮮やかな赤い衣装もよくお似合いで、お石との対決、見応えありました。母性を感じさせる戸無瀬なので、だからこそ小浪の実の母親ではなく継母というところが泣かせる。。

扇雀さんの小浪は、少女の可憐さはもうひとつな気もしましたが(10代の少女というより20代くらいに見えました。それでも十分すごいですが)、先ほども書いた力弥と目が合ってぱっと顔を背けるところなど大層可愛らしゅかったです。このカップル、いいなぁ。
リアルになりすぎない演技も、心地よかった。
扇雀さんって『狐狸狐狸~』の伊之助のような役もやれば、こんな役もできてしまうなんてすごい。とても同じ人物とは思えません。
しかし戸無瀬&小浪が「死ぬなら此処で…」と他人様の庭で死のうとするところ、よく考えると、ものすごく大星家に対してあてつけがましいですよね。思わず笑ってしまいました^^;

幸四郎さんの本蔵。
吉右衛門さんとの兄弟共演も一つの見所ですが、老獪だけれど根は温かい人柄の本蔵の役がとてもお似合いでした。刀を抑えた小浪に相好を崩すところも、優しそうでよかった。ただやっぱり、どうもこの方の演技はクサいといいますか、、、「忠義にならでは捨てぬ命、子ゆえに捨つる親心」、感情たっぷりと演技されているのですが、うーん。。。

九段目は、色彩がとっても美しいですね。夜の闇に浮かぶ雪の白さ、慎ましやかで質素な屋敷、登場人物たちの衣装の色合い、すべてが味わい深い。
あと、幕切れの大向う。こんなに色んな種類の屋号が同時にかかるのを聞いたのは初めてだったので、楽しかったです。「山城屋」、「成駒屋」、「高麗屋」、「播磨屋」、「高砂屋」、「加賀屋」。実際にいるのは親子&兄弟の3家族だけなんですけどね^^;

以下、自分用のストーリーの整理です。
この九段目は、台本だけですと、加古川家の心情ははっきりとわかりますが、大星家の心情はわかりにくい。。
お石が小浪に対して辛くあたるのは、魁春さんのコメントによると「すぐに討入に行ってしまう力弥に嫁ぐのは可哀想だから」とのことですが、勘三郎さんは「判官を抱きとめた本蔵の娘などもらいたくないからで、それ以外の理由はない」と言っていました。
今回は魁春さんの舞台なので前者をとるとして、では結婚の条件として本蔵の首を所望したのはなぜか。これは、とにかく今目の前で死のうとしている彼らを止めねばならず、「こう言えば諦めるだろうと考えた」のだと思います(もちろん本蔵が憎い気持ちも本当ですが)。
最初は、尺八の音が聴こえた時点で由良之助が本蔵と気付いて、お石にそう言うよう指示したのかなとも考えましたが、さすがに違いますよね。エスパーじゃあるまいし。
で、本蔵が登場し、由良之助を罵ってお石と対決になったので、力弥が本蔵を刺した(正確には本蔵が自らを刺した)。由良之助がお見通しだったのは、本蔵がお石をわざと挑発しているというところでしょう。そのことに気付いていたのは由良之助だけで、お石も力弥も気付いていない、と考えるのが自然だと思います。

あ、最後にもうひとつ。この演目を観たのはこれが初めてですが、庭の雪の五輪塔がデカくて妙に上手で思わず笑ってしまいました(3階からは全体が見えないほど)。あれ、誰が作ったのでしょう。幇間が今回出ていない「雪転しの段」の雪玉を使って作ったのでしょうか(だとしたら早ワザ・・・)


【乗合船惠方萬歳(のりあいぶねえほうまんざい)】

本来はお目出度い踊りのはずですが、、、床几に座っている人達(踊っている人を眺めている人達)の表情がコワすぎです。。。かろうじて又五郎さんと児太郎君だけは笑みを浮かべていましたが、それ以外の人達は「楽屋で何かあった?」と疑ってしまうほどみんな顔がコワい。。。全然オメデタイ雰囲気が感じられず、残念でございました。
ただそれはそれとして、最後に雨が降り出して舟に乗りこむところ、いいなぁと思いました。
濡れちゃうからさっさと行こうぜ!という感じではなく、雨もゆったりと風流な味わいを演出する一部といいますか。こういう歌舞伎の雨や雪の使い方、好きです。
『源氏物語』(小説の方)でも雨がそういう描かれ方をしている部分があって大好きなのですが、昔の日本人は雨や雪と今よりずっと繊細な感性で付き合っていたのだなと思います。


【東慶寺花だより】

秀太郎さんのブログでは大絶賛されておりますが。。。
この作品は、、、、どうなのだろう、、、
「ほのぼの」といえば聞こえはよいですが、なんか中盤がとってもグダグダだったような。。。少なくとも私はグダグダでございました。。。
原作よりは面白かったですが、それでも原作の魅力のなさが、そのまま舞台に移ってしまっていたような。。。

井上ひさしさんの本を読んだのはこれが始めてなので他はわかりませんが、ものすごくつまらないわけではないけれど、もう一度読み返したいとも思わない、そんな本でした。戦後に植えられたはずの明月院の紫陽花が名物として描かれているというような時代考証の浅さもありましたが、それを別にしても、どうも人物描写が浅く感じられ…(人間を見ることに関してはプロのはずの柏屋が、清市の正体に全く疑問を持たなかったところとか@おきん。素人の信次郎でさえ少し会話を交わしただけで不審に思ったのに…)。まぁそういう部分は今回の舞台ではありませんでしたが、それでも原作のグダグダ感はそのまま残ってしまっていたように感じました。

ただお陸@秀太郎さん&惣右衛門@翫雀さんの場面は、とっっっても面白かった お二人とも上手い!
秀太郎さん登場場面のテーマ曲も、初めて聞きましたが楽しいですね。あれ~に見ゆるは松嶋屋の紋どころ♪ヒデタロさん♪
お陸が惣右衛門にする「お・も・て・な・し」チュッの一連のやり取りの後で染五郎が素で笑っちゃっていたけど、他の日と違ったのかな。何度も観ている方の感想では、秀太郎さんエスカレートしていたようですし。

続編の話も出ているようですが、そのときはエピソードを二つ位に絞ってもう少し内容を掘り下げた方がいいのではないかしら。
新作歌舞伎は8月の『狐狸狐狸ばなし』がとっても楽しかったので私は否定派ではないですが、新しい歌舞伎を作るのって難しいんですねぇ。。
あ、橋吾さんや梅乃さん&千壽さん(珍しい立役)が活躍されていたのは、いいなと思いました。普段出番の少ない役者さん達も、もっと活躍の場が増えてどんどん成長していけるといいですね。



梅の季節の東慶寺(境内に畑があるのですよ)。
鎌倉らしい大好きなお寺です。

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