人の手が入らない自然への身の置き方。ごく身近にある自然との接し方。地域の自然が持つ価値をライフスタイルに生かすためのヒントをテーマに、コラムを書いてきた。また、他所の土地へ出かけるたび、日常生活のステージとなる静岡の自然資源の豊かさを再確認し、その価値を享受できることの幸せを実感してきた。
多くの人が、自然への回帰を志向するライフスタイルを希求している。そこで必要とされているのは、自然の中で大真面目に遊び、自然の持つ力を面白がって生活に取り入れることで、自然に対する作法や流儀を学ぶことではないか。そのための方法論は、ストイックな自給自足生活や生命を賭けた野外冒険でもなく、バーベキューや魚のつかみ取りのような安直な野外レジャーでもない。
人間の存在自体が地球にとって脅威となっているが、幸いなことに人間は自然と接することで価値観を変えられる。地域の自然保護や環境問題を声高に叫ぶ前に、地域や自然が「大切な遊び場」だという感覚の醸成が先決だろう。遊び場は、ひとの心を解放する場であり、ひとの価値観を凝縮する場でもある。フライフィッシングやカヤッキング、トレッキングやサイクリングなど、健全な自然があってこそ成立するクワイエットスポーツを通じて、地域や自然を遊びのフィールドとして使い、その遊び場を大切にする価値観をもった大人が増えて欲しい。
理事を務めるNPOで、こうした考えに賛同を得て「掛川ライフスタイルデザインカレッジ」 という事業を2006年4月からスタートさせることができた。「ライフスタイル」「生活を変える」というテーマで人を繋ぎ、地域に新たな価値観を生み出そうとしている。「自然回帰」「地域流儀」「足るを知る心」「美しい毎日」「知識を知恵に」をテーマとするこのカレッジが、一人一人の視点を変え、生活を変えていけるならば、自ずとこの地域の価値も高まり、この地に暮らす意味もさらに深まるはずだ。
クワイエットスポーツを愉しむための大切な遊び場は、健全で美しくあるべきだ。いつまでも遊ばせてもらうために、そのフィールドである海を、川を、山を、みちを大切にするのだ。
「ないものねだり」から、「あるものさがし」へ。自然への回帰という旅は、人間の中にある自然を呼び覚まし、足るを知る心の旅でもある。
(写真)
大井川源流でのフライフィッシングカレッジ。
ヤマトイワナに遊んでもらうためには、渓流の渡渉技術が必要だ。
■ビジネスマガジンVEGA 11月号「しずおか自然回帰の旅⑩」として寄稿