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とびきり眩しい渓(たに)~大井川源流

2006-04-07 23:09:31 | 執筆/寄稿

 この風景を見て、ここがどこなのかを正確に言い当てることができる人は少ないだろう。アメリカのイエローストーンみたい、とか、カナダみたい、といった人がいた。日本の多くの河川は上流に行けば行くほど、標高を上げれば上げるほど、山が近づき、急峻になるのが常だ。しかし、静岡県の地図を思い出して欲しい。南アルプスがある静岡市北部は、長野県側に向かって尖っている。その尖った部分の、ほぼ中央に位置するのがこの写真を撮った場所、大井川源流の二軒小屋付近だ。
 
 森町の北部で生まれ育ち、アマゴを釣りに行くことが大好きな子供だった。原体験や原風景への回帰というのだろうか、30歳の声を聞き始めたころから、貪るように山や川へ通うようになった。子供の頃と違うのは、体が大きくなったぶん、川が狭く浅く見えるようになったこと、生意気にもフライフィッシングを覚えて西洋式の毛鉤と道具立てで渓流魚を釣るようになったこと、そしてビークルが自転車からクルマへと変わり、未知の釣り場を求めて行動範囲を広げていること、だろうか。

 子供のときに感じたときと同じような川の大きさ、流れの太さ。釣り人が少なく、川を独り占めしたような感覚。川を上流へと詰めれば、きっと魚たちのパラダイスが待っているような期待感。2年前に生まれてはじめて訪れた大井川源流には、そのすべてがあたりまえのように存在し、そこから大井川通いが始まることになった。

 ここ、大井川の源流には、一般車両で行くことはできない。畑薙ダムからは東海フォレストが運行する専用バスか、徒歩のみでのアプローチとなる。仕事場のある掛川からはなんと4時間の道のりだ。夏には多くの登山者たちが、この素晴らしい光景を傍目に南アルプスの山々を目指すのだが、たとえ登山者や釣り人でなくても、このあまりにも明るく開けた源流の魅力に、きっと酔いしれてしまうはずだ。

 釣りに来て、釣りはしなくてもいいと思ってしまうくらいの風景のチカラ。希少種となったヤマトイワナが泳ぐこの清冽な流れに、足を浸しにいくだけでもいい。静岡県に暮らす大人たちが、静岡県で自然回帰の原点を求めるのなら、ここ大井川源流をその最初の地として選ぶこと。大人になった子供の正しい選択だ。

(写真)
あまりにも広く、明るい渓。
清冽な水、広葉樹やカラマツなどの自然林が織り成す絶妙な美しさに酔いしれる。

■ビジネスマガジンVEGA 7月号「しずおか自然回帰の旅①」として寄稿




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