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思索 電子回路 論評等 byホロン commux@mail.goo.ne.jp

ΔΣ変調とAD変換

2009-09-02 16:54:04 | 電子回路
そもそも、隣の机の山田君が「ホロンさん、オーディオでよく言う1ビットディジタルって、単なるパラレル-シリアル変換ですよね?」とたずねられ、「ちゃうちゃう、ぜんぜんちゃう」と答えたあと言葉が続かず、絶句してしまったことがきっかけで、改めてΔΣ変調について調べることになりました。ΔΣ式AD変換器が20年ほど前に登場したことは知ってはいましたが、実際に使う機会もなく、特に頓着することなく今日まできました。で、いまさらですがΔΣ変調の概要について、私が理解した範囲で書いてみようと思います。

図1に、一般のAD変換とΔΣ変調のブロック図を示します。AD変換器は3bit精度、サンプリング周波数はFs=3kHz、ΔΣ変調はFs=9kHzとします。
 
図2に3bitAD変換出力とΔΣ変調出力を示します。
AD変換された3bitのディジタル信号は、アナログ信号と1:1でリニアに対応します。しかしΔΣ変調された信号は、これは一体何を意味しているのでしょう。
(図案は、三重大学 工学部 道木慎二さんのプレゼン資料を参考にさせていただきました)

アナログ信号をΔΣ変調した信号は、図2に見るように、振幅(縦軸)は0と1の値しか持たないのでデジタル信号と言えます。しかし、時間軸(横軸)で見ると、単位時間辺りのパルス数(密度)が異なっているので、これはアナログ信号と言えます。つまり、ΔΣ変調された1bitの信号は、ディジタルとアナログの両方の成分を持っているということになります。(FM変調やPWMに似たものと考えてもいいでしょう)

ΔΣ変調信号をアナログLPF(ローパスフィルタ)に入力するとどうなるでしょう。
図3にその様子を示します。

このように、元のアナログ信号に戻り、これは「アナログ復調」したことになります。しかし、アナログ信号を変調して、直後にアナログ復調しても意味がありません。多かれ少なかれ信号を劣化させるだけです。これはむしろ、ΔΣ変調信号をディジタルフィルタに入力することにより、ディジタル復調するメカニズムの説明のための話法として便利です。

では、ΔΣ変調信号をディジタルフィルタLPF(マルチビット出力)に入力するとどうなるでしょう。
図4にその様子を示します。

このように、ΔΣ変調信号はマルチビットのディジタル信号が出力されます。これは「ディジタル復調」したと言え、これこそがΔΣ式AD変換の動作原理そのものです。

【ΔΣ式AD変換のサンプリング周波数】

①ΔΣ変調により標本化(サンプリング)と量子化が同時に行われ、サンプリング速度がAD変換精度(分解能)を決める。

②つまり、AD変換において発生する量子化ノイズの周波数を、元のアナログ信号の周波数に対して高周波に追いやるほどAD変換精度が上がる。よって、サンプリング周波数は高いほど望ましい。

③この比率をどの程度にするかは、最終的に必要なbit長で決定される。結果としてナイキスト周波数の数十倍から数万倍の周波数でサンプリングするので、これをオーバーサンプリング法(oversamplingmethod)という。

④最終的に16bitのディジタル出力を得るためには、少なくとも160倍程度のオーバーサンプリングが必要である。

ナイキスト周波数とは、ある信号を標本化するとき、そのサンプリング周波数 Fsの1/2の周波数を言います。ナイキスト周波数を超える周波数成分は、標本化した際に折り返し (エイリアシングとも言う)という現象を生じ、再生時に元の信号として忠実には再現されません。ハリー・ナイキストにより1928年に予想されたこの再現限界の定理は、「標本化定理」(サンプリング定理)と呼ばれます。オーディオ帯域のサンプリング周波数が44.1kHzであるのは、可聴帯域限界の20kHzをナイキスト周波数としているということですね。

次回はDA変換への応用を考えてみましょう。

関連記事:
「デシメーションフィルタ」2009-09-09
少し詳しいΔΣ変調①序 2010-03-21

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6 コメント

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図4 (kt)
2010-03-08 05:07:54
分かりやすい説明,ありがとうございます。
ところで,図4ですが,4bit出力と書いてありますが,6bitになってます。また,ΔΣの特長はノイズシェーピングですので,これについても分かりやすく記載していただけると嬉しいです。
なるほど図4 (ホロン)
2010-03-08 14:43:09
ktさん、こんにちは。(^^)
コメントありがとうございます。

さて、ご指摘の図4ですが、確かに少しまぎらわしいですね。
これは、LSBからMSBまでの4bit出力を6サンプル分示しているつもりの絵です。
ですから、黄色の四角の中は、縦列がビット数、横列がサンプル数ということですね。
でも、パッと見錯覚しやすいですよね。

次にノイズシェーピングですが、実は思い出すのに少し時間もかかったのですが、
ΔΣ変調のアルゴリズムそのものによる結果としての副産物ですね。

一言で言えば、「出力を積分して負帰還しているから」となるのですが、これだけでは意味不明ですよね。

これはまた近々、別途投稿記事として書いてみたいと思います。
なんか記事のネタをいただいたみたいで、ありがとうございます。
Unknown (kt)
2010-03-10 00:45:56
確かに,LSBからMSBまでの4bit出力を6サンプル分示しているつもりの絵ですね。私の誤りでした。すみません。
 ところで,図2は非常に分かりやすいですね。粗密波のイメージにつながります。

 ところでノイズシェーピングですが,「出力を積分して負帰還しているから」・・・ 信号成分と量子化ノイズに分けて説明すると分かりやすいかもしれませんね。
 期待しています!

私もまだまだ発展途上(^^) (ホロン)
2010-03-10 02:17:41
ktさん、いつもコメントをありがとうございます。図2のお褒めの言葉は大変嬉しいです。

実は私自信の技術レベルもおおむね中級程度であろうと、自分では捉えているのですが、私も入門を踏まえて現在に至るまでに、幾つかの壁にぶつかり、かなりの遠回りをしてここまで着てきます。ですから、入門者の方々に向けて、できるだけ楽に壁を越えるためのポイントを提供することを、このブログの目的と考えて運営しています。

さて、本題のノイズシェーピングにつきましては、当ブログの「ブックマーク」に設置しております「よもやま掲示板」にレスさせていただきました。

ktさんも、本掲示板を利用していただけましたら、投稿後、編集も削除もできますので、ずっと記述の自由度があがると思いまよ。ぜひお勧めです。
「出力を積分して負帰還しているから」 (kaoaru)
2012-10-12 10:33:44
「出力を積分して負帰還しているから」

とても「デルタシグマ」(でも、シグマ-デルタですね^^;)を象徴した、というか一番重要なことを指し示すキーワードです。

PICマイコン12F509でこれをやったときに、前述のこのキーワードが解決のキッカケになったことは覚えています。

その記事を書いて、トラ技2009年2月号に載りました。

つまんないことで悩んでたな~!と思う次第。
こんにちは。(^^) (ホロン)
2012-10-12 15:33:47
kaoaruさん、コメントありがとうございます。

PICを使ってΔΣ変調されたんですね。凄いですね。
私もこの記事と関連するシリーズを書いた時は、
ノイズシェーピングも含めて、ΔΣ変調は完全に理解したと
思っていましたが、なにせ3年前ですから、もうすっかり忘れてしまっています。
(^^;

トラ技に製作記事が載ったんですね。これも凄い。
2009年2月号ですか、うちにあったかな?

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